さくさくと足元の感触が小気味良いと思うものの、油断は禁物だと佐伯は自身に言い聞かせる。昨日降った雪は10センチほど積もり、周囲は雪景色が広がっている。雪の影響を考えていつもより早めに登校してきたのだが、どうやら早く出過ぎたのか、周囲に他の生徒の姿がない。
そのことに妙な安堵感を覚えながら角を曲がると、見慣れた羽学の制服を見てぎくりと身を固めた。けれど、すぐにその後姿と見慣れたコートに心当たりがあることを思い出す。あかり、と声を掛けようとして、けれどこちらが声を掛けるよりも前を歩く彼女の足元がずるっと滑るのが見えた。
「あ」と佐伯が呟くのと同時に、彼女は盛大に尻もちをついていた。痛い! と一人で悲鳴を上げるあかりの背中に向けてため息を吐きつつ、佐伯は慎重に歩調を早めた。相手のそばに駆け寄り、まずはもう一度ため息。するとあかりは尻もちをついた状態で佐伯の方へと振り向いてきた。
「わかったからはやく立てって」
「う、うん」
促す佐伯の言葉に従って、あかりはこちらの手を取った。そうして慎重に立ち上がり、コートについた雪を払う。幸い眺めのコートのおかげで濡れる被害は少なそうだった。あかりはにこっと満面の笑みを浮かべて、佐伯を見上げた。言う。
「ありがとう、瑛くん! なんか、ちゃんと王子さまみたいだった!」
「…お・ま・え・な」
唸るような声の佐伯に、え、とあかりが間の抜けた声を出すのと同じタイミングで、佐伯のチョップが閃いた。痛い! と本日二度目の悲鳴を聞いて、佐伯は足早にその場を去ろうとする。
「待ってよ瑛くん!」
なんて追いすがる言葉に思わず足を止めてしまったりなんかして。なんだかんだでコイツには甘いのか俺、と無性に脱力感を覚えたのであった。
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会社の駐車場でつるっと滑った結果こうなりました。うおおお文章を書く時間を!ください!!
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