大侵寇のエンディングで堪らなくなってしまったので書きなぐった。つらい。がんばって本丸守る
大侵寇。
かつてない遡行軍の攻撃が始まり、各本丸がそれぞれ急ピッチで対策に追われていた。しかも自分たちの命令系統の大元である政府に大ダメージが行っているのである。古参の審神者たちも普段見せないような真剣な顔つきにもなるというもの。
そして、そんな緊急事態と共に、三日月宗近が姿を消した。
当本丸の初期刀である蜂須賀虎徹から、ここ最近の三日月の報告は受けていた。気には掛けていたが、まさか姿をくらますなんてのは想像外だ。しかし今、彼を探すための時間も部隊の余力もない。すべての本丸に余裕がないのだ。
数日耐えて敵の猛攻が収まったかと思えば、再び遡行軍の勢いが増す。そしてまたこちらも迎え撃つ態勢を取らなければいけないので、ずっと気持ちは張りっぱなしだ。三日月の行方は心配だけれど、目の前の敵を放り出すことなんてできない。だって刀剣男士である彼らの主だから。歴史を護ることは大前提だが、それと同じくらい彼らのことも大切だ。誰一人、折れないように目を光らせて支持を出さなければ。
でも、
「三日月…」
彼を呼ぶ。どうしたって彼を行方不明のままでいさせるわけにはいかない。どうしよう。どうしたら。今なら、少しくらいの人数編成で彼を探しに行かせるべきか。でも部隊を出して、そこまで自分の指示が回せるだろうか。追加の敵がいつ、どれくらいくるのかわからないこの状況で?
「主」
つと、背後から声が掛けられる。
振り向くとそこには、この本丸の初期刀である蜂須賀虎徹が立っていた。
「蜂須賀」
「三日月を、探しに行く」
「え…」
「さっきこんのすけから連絡があったろう? 戦況はひとまず落ち着いたが、何か様子が変だ。京都の椿寺に異変がある」
「それは、確かにそういう伝達はあったけど」
「三日月は、そこにいる気がするんだ」
「でも」
「主」
静かに、蜂須賀は言う。しっかりとこちらを見据え、続ける。
「出陣の許可を」
「……わかった。でも」
言って、私は蜂須賀の手を取った。言葉を続ける。
「無茶はしない。いいね?」
「俺は昔の主みたいなことはしないよ」
「茶化さないの!」
「わかっている」
目を細め、蜂須賀は少しだけ笑った。ぽん、と頭に手が置かれて、すぐにその手は離れた。
「出陣する」
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無事に三日月を連れて帰り、各方面で三日月がそれぞれの不在中の洗礼を受けているのを感じながら、私は蜂須賀を探していた。
すると縁側で一人、月を眺めていた彼の後ろ姿を見つけ、「蜂須賀」と声を掛ける。
「主」
「三日月のこと、ありがとう」
「もう十分聞いたよ」
「そうなんだけど」
と、少しだけ不満そうに唇を尖らせつつ、私は蜂須賀の隣へと腰を下ろす。同じように月を見上げて、ちらと隣の蜂須賀を見やる。そうすると同じようにこちらを見ていた蜂須賀と目が合ってしまい、慌てて視線を足元へ落とす。ぎゅっと縁側の淵を握り、そうなんだけど、と先ほどと同じ言葉を繰り返す。
「三日月を連れて帰ってくれたときね、初めて蜂須賀と会ったときのことを思い出した」
「俺と?」
「そう。すごいきれいな刀だなって思ったけど、内番では着物着てくるし、さらに文句ばっかり言うし。あとそれから浦島くんが来たときは上機嫌だったのに、長曽根さんのときはしばらく不機嫌で大変だったこととか」
「主…」
低く、呻くような虎徹の声。それでもかまわず私は言葉を続ける。
「あれから今日までいっぱい色々なことがあって。最初の頃は戦える子たちも少なかったし、怪我しても資材が足りなくて手入れできなかったりしたよね。それなのに鍛刀で資材全部溶かしちゃったりさー」
あははー、と昔を思い出して笑って、一度言葉を止める。落とした視線を上げることができないまま、きゅっと一度唇を引き結ぶ。どうしよう、視界が揺れてきた。油断したら泣いてしまいそうだ。
「だからね」
再び口を開けば、明らかに声は震えていた。落ち着かせるように息を吸い、続ける。
「蜂須賀は、こんな不甲斐ない主じゃなくて、別の本丸の主が良かったって考えてるんじゃないかって、思って」
「主」
「でもね。いっぱい喧嘩したし、情けないところもいっぱい見せてきたし、しょうがない主だって思われてても、私は蜂須賀虎徹が私の始まりの一振りでよかったって思った」
ぽろ、と堪えきれずに目から雫が落ちた。
「すごい今さらだし、調子が良すぎるで主でごめんなんだけど。私の本丸に来てくれて、私を最初の主にしてくれてありがとう。それで、これからもよろしくね。蜂須賀虎徹」
そこまで言い切れば、涙は我慢できずに溢れた。みっともなく泣く主の横で、蜂須賀は少しだけ動揺したような気配を見せて、しかしすぐにどこかあきれたように溜息を吐く。
「君がしょうがない主なんて、今に始まったことじゃないだろ」
「……もう少し言い方」
「自分で言っておいて?」
「そうだけど」
「…ありがとう」
「…うん」
ぽんぽんと慰めるように蜂須賀が背中を優しく叩く。
審神者になってよかったな、と七年目にしてこんなにも思い知らされる春の夜だった。
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