3月も半ばとは言え、海辺でのデートはまだ肌寒い。あかりはほんの少しだけ身震いすれば、隣にいた瑛が少しだけ身を寄せてきた。ちらっと彼へと視線を向けれてみると、ばっちり視線が合ってしまい、思わず俯いてしまう。
正直に今の心境を一言で言うならば、「恥ずかしい」だ。羽学の卒業式の日に瑛から「好きだ」と告白をされたことは記憶に新し過ぎて、彼氏彼女として始めて出掛けた今日はうれしさよりも戸惑いの方が大きい。
瑛と何度も使った待ち合わせ場所も、歩いた道も、この海辺のどこもかしこも「友達」として過ごした思い出がそこここに残っていて、それが今や「恋人」になった事実がすごくすごく恥ずかしい。
そんなことを改めて実感すれば、さっきまで肌寒いと思っていたはずの体温はじわじわと暑くなってきた。特に頬を中心に熱が上がってきた気もして、あかりは顔を覆いたくなった。
(ううう)
と、あかりは内心で唸るだけに留めては、代わりに膝を抱え直した。すると、ぽん、と頭の上に何かが載せられた。ん? と顔を目を上に向けるものの、当然頭に載ったものは見えない。更に体勢を後方へと倒そうとすれば、今度は顔面へと「それ」がスライドされた。
「ぶっ」
構えていなかっただけに我ながら何とも情けない声を出してしまう。そうして隣では、堪え切れず吹き出したらしい瑛の笑った声が聞こえた。
「も、もう!」
落ちそうになる「それ」を両手でしっかりと掴んでから、ひとまず瑛へと抗議を申し上げる。すると予想通りに瑛はおかしそうに笑ったまま、あかりの手にある「それ」を指差した。
「悪いかったって。それで機嫌直せよ」
「…餌付け?」
「違う。ほら、今日は……アレだろ」
「どれ?」
「アレだって」
「だからどれ」
「だからっ、………ホワイトデー」
どこか拗ねたように言い放ったあと、瑛は項垂れてしまった。
ホワイトデー、とあかりはオウム返しのように呟いて、少しだけ顔が強張った。言う。
「……わたし、今年は瑛くんにあげれてないよ?」
「知ってるけど、くれようとはしてただろ。…じいさんが言ってた」
「あ、マスター…」
「じゃないけどな、もう」
自嘲のような苦笑いを浮かべた瑛の表情に、あかりは言葉に詰まった。手の中にある「それ」――そっけない紙袋を見つめて、さらに見つめて、もっと見つめていると、瑛のチョップがしびれを切らしたようにあかりの頭に落とされた。
「いつまで見てるんだよ」
「だって、やっぱりあげてないし」
「……だったら、来年2個くれればいいだろ」
「え?」
「今年の分と、来年の分で」
「2個?」
「そう」
[4回]
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