ふと佐伯×デイジー←赤城妄想が頭を過ぎったら悶々としてきた昨今ですどうも。
佐伯と赤城くんは友達というよりは悪友になったらいいと思います。いつも佐伯の行動を封じるように先回りする赤城にいらいらすればいい。デイジーのことも隙あらば奪っちゃうよくらいのことを言われたりしてやきもきすればいいのに佐伯が。
けれどうっかり矛先が赤城ではなくデイジーに向けられ、八つ当たりしちゃったりするのが佐伯クオリティー。
「おまえもうあいつと関わるな」
「なんで?」
「なんででも」
「赤城くんは大事な友達ですけど」
とデイジーの会話選択ミスによりケンカ勃発である。佐伯が引かなければデイジーも引かない。ぎゃんぎゃん言い合って「もう知らない!」ってなるものの結局赤城くんが間に入って仲直りするわけです。しかしそもそもそれが気にくわない佐伯である。そんな赤城くんと佐伯のデイジーを巡った微妙な友情ラインを妄想してはあはあしてたらごらんの有様です。佐伯どこいった
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いくら彼女になったからといって、彼がモテるという事実が変わらないと思い知ったのは大学に入学してすぐのことだ。
高校時代ほどきゃあきゃあと黄色い声を上げられて囲まれるわけではないけれど、気が付けば見知らぬ女性に声を掛けられている姿をそこここで見かけていた。そうして完璧な外面スキルによる笑顔に騙される瞬間を目の当たりにさせられるあかりは、片思いのときより複雑な気持ちでいっぱいなのであった。
「――つまり、惚気?」
「なんでそうなるの!」
だん! とあかりは両手を拳にして、食堂のテーブルを叩いた。時刻はすでにお昼は過ぎているので、人の集まりはまばらだ。なのであかりの行動が注目されることはなかったが、ついでに言えば、向かいに座って話を聞いていた相手――赤城一雪もどこか呆れた顔でもって、アイスコーヒーが注がれたグラスを引き寄せた。グラスから伸びるストローに口を付けて、一口飲む。訊く。
「今の一連の流れを訊いて、惚気以外になんて言ったらいいんだ?」
「相談だよ! 立派な悩み相談でしょ!」
「…そうかな」
あかりの主張に小さく反論して視線を逸らすも、そうだよ、と強い口調で食い下がられた。赤城はもう一口コーヒーを飲んで、内心でため息を吐く。目の前の少女に恋をしていたのは、数ヶ月前までのことだ。好きだと自覚したこと事態は年単位になるのだが、様々な理由から結局思いを伝えることなく玉砕してしまった。というのも、今まさに彼女にされている「悩み相談」の内容が最大の原因である。
つまり、告白する前に彼氏が出来てしまったという、もっとも不完全燃焼パターンだ。
元々あかりははばたき学園、赤城は羽ヶ崎学園の生徒だった。違う高校に通うという大きなハンデではあったけれど、偶然か必然か、彼女とは街中や学校同士の繋がりで幾度も会う機会には恵まれていた。そんな中でどうにかデートにもこぎ着けたこともあって、二人で出かけたりもした。――のだが、最終的に恋の神様は赤城に微笑むことはなかった。結局彼女は違う男の手を取ってしまい、何の因果か彼女とその恋人と同じ大学に進学する結末が待ち受けていた。
小説やテレビドラマならば、思い人に恋人ができた時点で「END」が打たれて物語りは終わるが、現実はそうもいかない。止まることのない時間は着実に進み、当然あかりがこちらの気持ちを知る由もない。さらに高校時代より遙かに顔を合わせる機会が増えた彼女にとって、赤城は唯一愚痴を零せる「オトモダチ」なのだった。
こんな位置に落ち着くはずじゃなかったんだけどなと独りごちて、赤城は彼女へと向き直る。あかりはさっきまで握っていた拳を開いて、今はその手の上に顎を乗せている。眉を寄せて心の底から「困った顔」をしてみせるから、こちらの方も負けないくらい困ってしまう。
そんな風に無防備に隙を見せられたら、付け入りたくなってしまうじゃないか。
ふと、自分の中に沸き上がる雑念を慌てて振り払い、赤城はこっそりとため息を吐く。海野さん、と呼びかけると、大きな目が赤城を見た。失恋したとわかってはいても、やっぱりその目に見つめられるとうっかり心臓が騒ぎそうになるのを理性で押しとどめる。
そうして、彼女の理想の「オトモダチ」である赤城一雪としての表情を浮かべてみせた。
「多分、というか…海野さんの取り越し苦労になると思うよ」
「……なんでそう言い切れるの?」
端から見たら分かりやすすぎるくらいあかりにぞっこんだからです。
思わず言いそうになったその言葉は、しかし赤城は寸でのところで飲み込んだ。今の状態なあかりにそれを言ってみたところで、「でも」や「だって」の反論を繰り返して堂々巡りになるのが目に見えているから。
赤城は少しだけ思案し、言葉を選ぶように慎重に口を開いた。
「考えても見なよ。相手は『あの』佐伯だよ?」
「え?」
「佐伯が外面を使わなくていい相手なんて、海野さん以外に見たことないよ。違う?」
「…赤城くんだってそうじゃない」
「いや僕男だし」
あかりのささやかな抵抗の言葉を、赤城はにべもなくばっさりと否定した。とはいえ、否定するまでもなくそんなことはわかりきっているのだろう。その証拠に赤城が指摘した内容はずばり的中したらしく、さっきまでの自信のなさそうな表情が引っ込んだかと思うと、見る見る頬から顔全体に羞恥に赤が広がっていった。そんな風に赤い顔を俯かせる彼女の様子を見ながら、やっぱり惚気じゃないかと胸中で呆れる。
ふっと短く息を吐いて、赤城は最後のだめ押しを突いた。
「まあその辺は、僕なんかより海野さんのがわかってるだろうけど」
「…う、ん」
「とりあえず、佐伯にメールでもしてみたらいいんじゃない?」
「そうする…」
促されるまま、あかりは鞄から携帯電話を取りだす。
赤城はメールの内容を考えているあかりを見つめていると、ちょっとだけ意地悪な気持ちが頭をもたげた。意地悪というか忠告というか、これくらい言ってみても罰は当たらないよなと言い訳のような前置きを内心で呟く。海野さん、と呼びかければ、相手はあっさりと顔を上げた。
「あのさ、こういう話って僕より先に女友達とかに相談してみるのもいいんじゃないか?」
「そうなんだけど、竜子さんも密ちゃんも忙しいみたいだから」
あかりが口にした二人の友人の名前に、思わず自分の顔が引きつったのがわかる。はばたき学園を訪れた際に、何度かその二人と顔を会わせたことはある。あかりの『親友』だと紹介されたが、そのたった数回のやり取りでも十分過ぎるほど、竜子と密を敵に回してはいけないと本能が察していた。
ヘタな男が近づくより、よっぽど手強いボディーガードが付いた恋人はさぞかし気苦労が耐えないだろうと考えて、赤城は少しだけ佐伯に同情を覚えた。
「赤城くん」
つと、メールを送信し終えたらしいあかりが携帯電話を畳んで赤城を呼んだ。真正面から視線がかち合うと、彼女はちょっとだけ気まずそうに視線を泳がせた。けれどそれも数秒のことで、再びその目が赤城に向けられると、「色々、ありがと」と言ってはにかむように笑ってみせた。
そんな彼女の幸せそうな顔を目の当たりにすると、やっぱりあかりを恋人にできた佐伯に対して、羨ましいという気持ちが先に立ってしまうのであった。
(だからやっぱり惚気じゃないか)
ふと我に返った赤城はそう結論づけて、残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干した。
コーヒー特有の苦みが口の中で広がって、それがまるで自分の心境を表しているみたいだなんてことには、無理矢理気が付かないふりをした。
[4回]
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