ついったーで上げたのをほんのすこーしと誤字を直した程度のあれさでござる。
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7月19日は何を隠そう自分の誕生日で。それをわざわざアピールするのもなんだか恰好がつかないし、そもそも気に掛けてほしいというか祝って欲しいと思っているのは一人だけなのだ。だから、つい、18日から19日に掛けて日付が変わるその直前に、そわそわと携帯電話を見つめてしまったりして。
我ながらばからしいと思いながらも、彼の想像している能天気な彼女ならばたぶんというか、きっと、否、絶対にやらかすに違いないと高をくくってみるも、実際に時刻が7月19日を過ぎても携帯はうんともすんとも言わない。それどころか、5分、さらに10分ほど経過しても電話どころかメールの着信も告げて来ない。
さすがに訝しんでみるものの、ここで自分から掛けようものならそれこそ催促してるようなものではないか。
佐伯はもやもやとした気持ちを内に秘めつつ、消化不良のそれと一緒に布団に入る。しかし目を瞑っても寝返りを打とうとも、内心の消化不良な気持ちは消えずに佐伯の睡眠に多大な影響を与えた。
結果として、殆ど眠れずに翌日を迎えてしまった。学校は今日から夏休みとはいえ、珊瑚礁の仕事は午前中から入ることになっている。睡眠不足でだるい身体をいつまでもベッドの中で怠けさせているわけにはいかない。ついでに言えば、眠れない原因であった携帯電話のディスプレイには、やっぱり電話もメールの着信もなかった。
そんなこんなでどこか気合いが入らない気持ちのままに一日を過ごしつつ、最後の客を見送って「CLOSE」の看板を出そうとしたところへ、見慣れた顔がひょっこりと現れた。それはとても気まずそうな表情を張り付けているかと思えば、佐伯と目が合った瞬間に「ごめんなさい!」と開口一番口火を切ってきた。
「本当は! 日付が変わったらおめでとうって言いたかったんだけど! 気が付いたら寝てて……その、ええと」
「とりあえず、中に入れ」
「……いいの?」
「言い訳くらいは聞いてやる」
「……はい」
見るからにしょんぼりと肩を落とすあかりを、従業員であると自分と祖父しかいない店内へ招き入れる。そうして手近なテーブルを指し示すと、あかりは手に持っていた紙袋をそっとテーブルの上に乗せ、佐伯の方へと差し出した。
「実は、昨日これを作るのに必死になっていたらそのまま寝過ごしてしまいまして」
「俺に?」
そうあかりに問えば、彼女は控えめに頷いた。紙袋の中を覗けば、大き目の白い箱が収まっている。
そうして微かに甘い香りを鼻孔を掠めて、それだけで箱の中身がなんなのか察しがついてしまった。
「瑛くんのレベルにはまだまだだけど! いまのわたしができる集大成のつもり!」
「で、寝落ちたと」
「……おっしゃる通りです」
適格な佐伯のつっこみに、あかりはがっくりと腰を下ろす。そんな彼女の頭に、佐伯はお得意のチョップを落す。あかりは甘んじてそれを受け入れたあと、もう一度「ごめんなさい」を繰り返すので、今度はデコピンをお見舞いしてやった。
「他に言うことは?」
「え?」
「ないのかよ」
少しだけそっけなく返すと、あ、とあかりが思い出したように声を上げる。
そして、
「お、お誕生日、おめでとうございます」
「よし」
あかりの言葉に満足そうに頷いて、佐伯はぐしゃりと彼女の頭を撫でた。
「コーヒー淹れてやる。おまえも一緒に食ってくんだろ?」
「え、え?いいの?」
「たくさん食って、大きく育て」
「も、もう! 瑛くん!」
そんな避難めいたあかりの声を背中に受けて、厨房に入る。そこには祖父の姿があり、緩みきった顔を咄嗟にどんな表情で誤魔化していいのか困ってしまった。
[2回]
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