「自分、蛍丸と愛染国俊の保護者の明石国行いいます。よろしゅう」
ぶすくれた表情の愛染国俊の隣に、まったく正反対の表情でへらへらと笑う男が開口一番にそう自己紹介をしてきた。
わたしは明石国行と名乗った彼を見、憮然とした表情のままの愛染を見、もう一度明石へと視線を戻してからやや強張った笑顔を浮かべた。自分でも口の端が引きつってるのがわかる。
「ええと、その、よろしくお願いします…」
どうにかそれだけを言って見ると、玄関の方が再び騒がしくなる。そういえば遠征組が戻る時間だったかと、壁に掛けられた時計の時刻を確認して思い出した。出迎えようかどうしようか、本丸に来たばかりの明石のことが引っかかってその場でオロオロとしていると、パタパタパタパタっと軽い足音が近づいて来る。ぱーん! と障子が開き、明るい声が続く。
「主、ただいまっ」
身長に見合わない大太刀を背負った蛍丸が、屈託のない声で帰還の報告にやってきた。わたしはその声に反応して振り返り、おかえり、と返そうとして、動きが止まった。というか、正確には動けなかったのだ。
タンッ、と軽い音が聞こえるのとほぼ同時に、ガガン! と鈍い音が続いた。それは蛍丸がいつの間にか抜刀した刀が、部屋の天井にめり込んだ音だ。
「なんや、落ち着きや蛍丸」
「……命拾いしたね」
「蛍! 外に出て改めてやっちまおうぜ!」
「それもそうか」
「いやいやいやいやいや、まってまってまってまって」
突然の乱闘が始まりそうな雰囲気に、わたしは慌てて明石の前に割って入った。ら、にょっと背後から手が伸びてきて、その手が私を後ろから抱きしめるように回される。んん!? と訝しげに背後へと首を捻って見れば、にやりと底意地の悪い笑顔と目が合った。
「そうやで、二人とも。主はんが困ってるんやから大人しゅうしぃや」
「俺は! おまえのそういうところが嫌いだ!」
「おおきに」
「褒めてない」
ばっさりと容赦なく蛍丸は言い捨てると、手に持った刀を改めて構え直すように握ったかと思えば、いつの間にか加勢するように国俊が蛍丸の隣に並んで抜刀している。
「さ、審神者命令です! ケンカしない!」
ほぼ和泉守兼定と陸奥守吉行に言い渡す専売特許の言葉を発すれば、ひとまず国俊と蛍丸は不満げな顔をしつつも刀を収めてくれた。けれども背後に佇む自称彼らの保護者らしい明石は、変わらない笑顔を浮かべたまま、「おおきに」と言うだけで。
新しい戦力には素直に喜べないわたしは、ため息を吐いてがっくりと肩を落とした。
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