口に広がる甘い味は、お手軽に得られるちいさな幸せだ。
甘い甘いキャンディーを舌先で転がせば、その甘さはじわりじわりと口咥内を侵食していく。そうしてゆっくりゆっくり溶けていって、最終的にはあっけなく消えてしまう。ほんの少しだけ残った甘い面影が消えてしまう前に、琉夏はすぐに二つ目を口の中に放り込んだ。カラコロと軽い音を立てて、ゴミとなった包み紙を制服のポケットの中に押し込む。
琉夏くん、と背後から呼ばれた声に振り返り、ほんの少しだけ目を細めた。視線の先には久しぶりに再会した幼馴染の彼女がいて、ぱたぱたと小走りでこちらに駆け寄ってきた。その仕草は子供のころと何も変わらなくて、さらには彼女の纏う空気だとか、そういった色々なものすべてが変わらな過ぎているところを目の当たりにすると、無性に泣きたくなる。まるで、口の中に広がるこの甘いキャンディーのようなちいさな幸せを夢みて、そうしてそれを本当に望んでしまいそうになる錯覚。幸せを得られる資格なんてないのにと、琉夏は思い直して口の中のキャンディーを噛み砕いた。がりがりと砕かれる音が頭の奥まで響いていく気がして、残骸となったキャンディーを無理やりに飲み込んだ。ざらりとしたひどく喉越しの悪い感触と、それに反した甘い味はまるで、悪夢を連想させた。
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普通状態琉夏のめんどくさい心理状態を悶々するブームがやってまいりました。
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