今日は琥一のバースデーですよー!
おめでとう琥一!大好きだ琥一!!
いつまでも琉夏とバンビのお兄ちゃんでお母さんでお父さんでいてね!!
相変わらずの一発書きですが、愛だけは籠っている!つもり!!!!
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一日で一番長い休み時間は、お昼時間だ。
美奈子は早々にお弁当を食べ終えると、不信がる友人たちを残して校舎内を彷徨っていた。
きょろきょろと辺りを伺いながら、目的の人物を探して歩く。まだ昼食は始まったばかりなので、そこここに生徒たちの姿があるものの、目立つ彼の姿は中々見当たらない。
(…でも)
つと、美奈子は立ち止まる。手の中にある小さな袋に視線を落とし、嘆息を吐く。
美奈子の探しているのは、桜井琥一という幼馴染だ。子供の頃はよく一緒にかくれんぼをするような間柄だったけれど、美奈子がはばたき市から引っ越してしまってからは、ぱったりと関係が途絶えてしまった。しかし高校の進学と同時にはばたき市に戻り、入学式の日に再会を果たしたのだ。
その再会から、そろそろ二か月が経とうとしていた。
再開を果たしてのは二か月でも、離れていた時間は数年に及ぶ。
その間、当然自分と同じように彼らも成長してきたわけで。彼の弟の琉夏と違って、琥一はどこか近寄りがたい雰囲気があった。それは彼自身もそう促している節があり、「幼馴染」とはいっても迂闊に踏み込めない。そう思うのは、入学式の日に琥一にぶつかってすごまれてしまったからかもしれないが。
けれど先日、たまたま外出した先で琥一とばったり出くわしたのだ。
美奈子には到底縁のないバイク屋の前で、真剣な顔でじっとバイクを見つめている琥一に、思わず声を掛けてしまった。近寄りがたいと思っていた琥一は、話みると見た目の印象よりずっと話しやすかった。そうして話ている内に、子供の頃を思い出す。そうだ、琥一はいつだって自分や琉夏を気にかけてくれる、優しい男の子だった。言葉や行動が粗野でも、内面はとても暖かい。そのことにうれしくなって、あれこれと話をしている内に5月19日が誕生日だということを知った。そのときはそうなんだーと流して終わったが、日々カレンダーを見るたびに、19日をチェックしている自分がいるものの、正直男の子相手にはどんな誕生日プレゼントを送っていいのかわからない。長年一緒にいたならば、彼の好みも理解できただろうが、再会したのがほんの二か月くらい前なので無理な話だ。
なら、どうする?
きっと琥一は、美奈子が誕生日プレゼントを贈らなくても、気にすることはないだろう。だから単純に、美奈子の問題だった。
けれどやっぱりどうしていいのかわからずに堂々巡りを繰り返している中、つと、思い出したい。
先日の休みに会った琥一はバイク屋の前にいて、誕生日がきたらバイクを購入するのだと言っていた。バイクと言えばヘルメットやグローブが必要なのだろうかと、インターネットで調べてみたがイマイチぴんと来ず、最終的に美奈子が選んだものははばたき神社での「交通安全」のお守りだった。
だが、誕生日にお守りなんて、と今更のように後悔が押し寄せてきたのだ。
しかし、これからバイクに乗る琥一にけがをしてほしくないのも事実だった。折角再会できた幼馴染なのだから、これからもっと、たくさん。色々なことを話したい。過ごしたい。だから、このお守りがきっかけになればいい。そう思っていたのだが、琥一が見つからないことでどんどん気持ちがマイナスな方向に傾いていく。どうしよう、やっぱり止めようか?
美奈子のマイナスゲージがいよいよ振り切ろうとしたとき、おい、と後ろから声が掛けられた。
「何してんだ、オマエ」
「こ、琥一くん」
探していた当人から声を掛けられて、美奈子は上ずった声を出してしまう。咄嗟に手に持っていたお守りを後ろ手に隠してしまい、言葉に詰まる。
「あの」
「あ?」
「あの…琥一くんってさ」
「ああ」
「今日、誕生日…だったよね?」
「あー、そういやそんなもんだったか」
特に興味もないような口ぶりの彼の態度に、再び気持ちが挫けそうになる。だが、手の中にあるお守りの存在に突き動かされるように、俯いた視線を持ち上げた。しかし彼の顔までは見れず、制服のネクタイの部分を見て、言う。
「これ…大したものじゃないんだけど、その、ほら! バイク買うってこの間言ってたから!」
言ってしまったあとの勢いでもって、お守りを差し出した。数秒の間があって、琥一が美奈子の手からお守りを受け取ったかと思うと、また、沈黙が落ちる。
「……あの?」
「……なるほどな」
「え?」
ぽん、と美奈子の頭に、琥一の手が乗る。
そこでようやく美奈子は琥一の顔をまともに見ることができた。彼は子供の頃と変わらない、否、それよりももっと優しい目をしていた。
そして、
「上出来だ」
それだけ言って、くるりと踵を返す。取り残された美奈子は数秒その場に佇んでいれば、じわじわと顔に熱が集まっていくのがわかる。頬の熱さを確かめるように両手で包み、
「………喜んでくれた、よね?」
と、独りごちた。
放課後。
お守りのお礼だと言って、琥一と琉夏の三人で喫茶店に寄った。
その日をきっかけとして、ぎこちない幼馴染から一歩進めたような、そんな気がした。
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