ネタバレなので畳みますぜ!
あの本とともに彼女が現れたとき、今度はどんな風に死ぬのだろうと思った。
まるで他人事のように考えて、けれどそれもあながち間違いではないと思い直す。結局のところ、自分は「関雲長」という仮の存在でしかない。駒は駒でも、ただの仮初の駒なのだ。駒にすらなりきれていない中途半端な存在だからこそ、こちらの世界でも一線を置いて、元の世界への未練も断ち切れない。
我ながら、なんて女々しい。
内心で自分自身を乏しめて、自嘲の笑みを浮かべた。
雲長は先ほど孟徳より取り戻した本の表紙を撫でて、開く。元の世界への記憶は薄れつつあっても、まだ日本語の文字は読める。そのことに少しだけ安堵して、けれど次の瞬間には顔を顰めた。何を今さらと、考えは再び堂々巡りを始める。
それでもこの本を取り返したのは、間違いなく彼女のためだった。
どうしてか、彼女は――花は、必ず元の世界に帰してやろうと心に決めていた。
玄徳軍側についてくれたからだとか、そういったものを抜きにしても、花はここにいるべきではない。自分と同じように、仮初の駒になんてさせるわけにはいかない。
元の世界に帰って、この世界のことなど忘れて普通の女子高生の生活に戻ってほしい。
自分のように、帰り道のわからない迷子の子供のようになってはいけない。
(……口に出して、言えるわけないが)
内心で独りごちたあと、雲長は本を懐に仕舞い直して考える。
この戦いで五度目の死が訪れるなら、花を守って死ぬのも悪くない。
けれどそんな風に自分が死んだならば、あの優しい少女は泣くだろうかと考えて、雲長はこれ以上の思考を中断させるように頭を振ったのだった。
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