本日の昼下がり、エルリック兄弟は数カ月ぶりに東方司令部に戻ってきた。
その足で宿を見つける前に司令部に訪れて、オフィスに到着するより早く一番始めにエドワード達を出迎えたのは、
「エドワード君! 危ない!」「はっ?」
ホークアイの鋭い声と――黒い物体。
否。
ブラック・ハヤテ号だった。
ホークアイの言葉に驚いて振り返れば、小さな子犬は今まさに眼前に迫ってきていた。
「どわあああああ!!」
「兄さん!?」
どかどたーん!
突然のそれを避けることなど到底できず、物がぶつかって次には物が倒れる音が響く。
正面衝突を挑んできた相手は謝るでも怒るでもなく、呑気にエドワードの顔を舐めていた。
「ハヤテ号…痛いっつーの」
「クゥーン」
非難の声を上げるものの、全くそれは意味を成さず、すりすりとエドワードに擦り寄っては頬を舐めてくる子犬。
そんな様子に苦笑を浮かべながら、エドワードは懐いてくるハヤテ号の頭を撫でた。
「ったく、しょうがねぇな。とりあえず」
困ったような笑みのまま、エドワードはひょいとブラック・ハヤテ号を持ち上げた。
「中尉のお叱りを受けて来い」
と言ったエドワードの視線の先には、にっこりと笑うホークアイ。その手には一丁の拳銃が握られている。
その姿を確認した子犬は、可哀相なくらい尻尾を足の間に挟んで耳を垂れさせていた。エドワードは震えるブラック・ハヤテ号を哀れみながら、心の中で応援する事しか出来ずに執務室へと向かう為にきびすを返した。
背後で銃声が鳴り響いた。
「やっぱいいなあ、犬」
「何だい、唐突に」
「中尉がブラック・ハヤテ号飼ってるの見てると、いいなって思っちまうんだよ」
報告書の提出がてら、先ほどの出来事を思い出しては呟く。故郷のリゼンブールにいるデンを思い出した。
(…でも、まあ)
煎れられたコーヒーを啜りながら、書類と格闘する目の前の大人を見やる。どれだけ自分が邪険に追い払っても追い払ってもめげずに『愛してる』と言ってくるまさに『犬みたいな行動』をしてくるロイと犬を重ねてしまい、吹き出しそうになった口を慌てて抑えた。
(…まあ、犬みたいのを飼っているようなもんだし、本物は我慢するか)
そう胸中で独りごちて。
ロイはようやく最後の一枚を終わらせたのか、ため息を吐いた後には立ち上がり、エドワードの座るソファーへと歩み寄る。
どこか疲労の影を見せながらも嬉しそうな顔でエドワードに抱きついてくる仕草は、まるで大型犬に懐かれているようだと思った。
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犬が飼いたいなあと思ったとこから妄想。
一人暮らしじゃ飼えないわー(つ△`)
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