デイジーと佐伯の初体験をすっ飛ばして後日談だよ!
特にあれやらこれやらはしてません。初体験を済まして大人の階段を昇った瑛が悶々としてます。あいつ絶対むっつりなんだぜ。
毎度お馴染みざくっと妄想を一発書きクオリティー。
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「最中」は無我夢中で、一々自分のしていること、相手の反応その他諸々を覚えてなんかいられないと思った。というか、そんなことを考えている余裕すらなかった。
しかし彼女との「ハジメテ」が終えてから数日。再び瑛の家を訪れたあかりと二人きりになったとき、ふと。あのときの映像が鮮明に思い出された。
瑛くん、と自分を呼ぶ声は今まで聞いた中で一番色っぽく、痛みや瑛が与える快楽に反応する表情や身体はそれ以上にいやらしかった。
普段、彼女をからかうときによく「やらしー」となどと茶々を入れたものだが、今となってはもう、言えるはずもない。言ってしまったが最後、こちらが相手のあられもない姿を思い出しては平静でいられる自信などないのだから。
それくらい、あかりと越えた「一線」は瑛にとって大きなものだった。
年頃の青少年ならば雑誌や映像、猥談等々。様々な知識を得てはいるものの、実体験はそれらを遥かに遠く飛び越えるほどの経験だ。しかもその相手が、長年好きな女の子ともなればある種感動ものである。
ちらりと、瑛は雑誌に目を落とすあかりの横顔を伺う。
その横顔に、先程思い出した先日のあられもない表情が重なった瞬間、彼女の視線が瑛へと向けられた。途端、瑛は邪な考えをしていただけにぎくりと身体を固まらせた。しかしあかりが見ていたのは瑛ではなく、彼の後ろの置かれていた時計の方だったらしい。はっと何かに気がついたような顔になって、次に自身の左腕にはめられた腕時計に目を落とす。読んでいた雑誌を閉じて、慌ただしげに荷物を纏め始めた。
「どうした?」
「今日、バイト入ってたの忘れてたの! 急がなきゃ!」
「え」
瑛としては、当然彼女が泊まっていくものと思っていただけに、予想外の展開に目を白黒させた。その間にもあかりは手際よく荷物を纏め、チャックを締めてバッグを肩に掛けた。起ち上がる。
「ごめん、瑛くん! また!」
「お、おい」
あまりにもあっさりと立ち去ろうとするあかりに、瑛の方が動揺していた。玄関まで数メートルしかない1Kの廊下を追いかけていき、ドアの手前であかりを捕まえる。彼女の細い手首を捕まえて、どきりと心臓が跳ねた。
「…その、バイト終わったらまた来いよ」
「え?」
「明日は暇なんだろ?」
重ねるように言ってから、自分の声が妙に切羽詰まっている気がついた。瑛は慌ててあかりから手を離し、不思議そうに瑛を見上げる彼女の視線から逃れるように目を逸らした。
そうして数秒。
妙な沈黙が二人の間に落ちて、瑛が言い訳の言葉を言おうと口を開くよりも早く、あかりの方が動く方が先だった。一歩、瑛へと踏み込んで、素早く彼の胸元を掴んで引き寄せる。構えていたなかった瑛はされるがままに引っ張られ、前のめりな態勢になったところへ、ちゅ、とかわいらしいリップ音が上がった。
「…前払い」
「え?」
「今日のお泊まりの前払いです。……足りる?」
さっと瑛から距離を取ったあかりが、視線を逸らしたままで早口に言う。
瑛は今自分がされたことを理解するのに一瞬遅れて、しかし理解するとこちらもあかりの方を向くことは出来ずにぶっきらぼうに言い返した。
「……足りない、から…なるべく早く帰ってこい」
「了解」
瑛の言葉に照れ隠しのように右手を挙げて、あかりは今度こそドアを開けて外へ出て行った。ばたん、とアパートのドアが閉じる音が上がってから、瑛はその場に座り込んだ。
「……勘弁してくれ」
そう呻く独り言は、1Kのアパートに小さく響いた。
[3回]
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