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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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佐伯小話

瑛は卒業後、デイジーとちゅーができなくて悶々としていればいいと思った次第です。
瑛のプライドの高さというか意地っ張り具合からみて、二回目以降は盛大に照れて理由を付けないとキスまで踏み込めないとみた結果がこれですよ!女の子か!と書きながら自分でも突っ込んだ。いやでもデイジーの方が男前だと思ってる私です。
二回目ちゅーまで続いて書けたらいいなーという希望的観測。


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 お互いの関係は「彼氏」と、「彼女」。
 つまり相思相愛の間柄で、世間ではこの状態を「恋人」と呼ぶ。
 一ヶ月前に羽ヶ崎学園を卒業した瑛とあかりは、事実その恋人同志というものなっていた。――のだが、
(……あれから、キスできてねえ)
 佐伯瑛の目下の悩みはそれであった。
 卒業式の日。
 あかりへの告白とともに唇を重ねたのだが、それきりキスをするチャンスに巡り会えていなかった。否、正しくは、あった。高校を卒業してから瑛は一人暮らしを始めたのだし、当然恋人同士ともなれば二人きりになる機会はそれほど友達だった期間よりはぐんと増えた。それなのにも関わらずどうしてキスの一つも満足にできないのは、偏にあかりのせいである。
(…と、ちょとは俺のせい、か)
 あかりにのみ全責任を押しつけるような思考まで辿り着いて、はたと我に返って少しだけ訂正を加えてみたりしながら、佐伯はため息を吐いた。
 瑛としても、どうしていいのかわからないのが正直なところだ。
 卒業式のときはあの雰囲気というか勢いというか、今まで抱えていたものを乗り越えたのもあってキスに辿り着いた。だがお互いの気持ちを確認できてしまった今は、どのタイミングでキスを持ちかけていいのかわからない。
 瑛の部屋に遊びにきて、ふと、会話が途切れることがある。
 そういうときこそチャンスなのだろう。
 「彼女」で「彼氏」なのだから、キスをしたいと思うのは当然のことだし、気持ちとしてはそう考えているのに理性の方が妙なストッパーを掛けてしまう。
 もしも、キスをしたいと思っているのが自分だけだったら。
 顔を近づけて嫌がるあかりの顔を想像してみたら、自覚していたよりもダメージがでかくて相当凹んだのは記憶に新しい。
「あーもう」
 低く呻いて、瑛はテーブルの上につっぷした。
 ずっと他人との距離を保つために引いていた境界線が、今更仇となって瑛に重くのし掛かる。線のこちら側へは祖父以外に入れたことはなくて、当然好きな人――あまつ「彼女」という存在はあかりが初めてだ。だからどうしていいのかわからなくて、こわい。
 我ながら女々しいことを考えていることに気がついて、瑛は身を起こした。だめだ。部屋に引きこもってるからこんなことを考えるんだ。こんなときは余計なことを考えない作業をするに限る。
 例えば、
「…菓子作ったり、とか」
 そう独りごちるやいなや、瑛は起ち上がった。
 1Kに設置されたささやかな台所へと向かい、冷蔵庫を相談を始めるのであった。

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