空になったダンボールを潰してビニール紐でまとめる。来たときよりは少しだけ片付いた部屋を見渡すと、台所を片付けていた美奈子がひょっこりと顔を出した。
「ありがと。ちょっと休憩にしようっか?」
「賛成ー」
「ふふ」
笑って、美奈子はちょっと待ってねと言い残し、再び台所に引っ込んでいった。高校を卒業して、大学生となった彼女が新しく生活を始めるのがこの1Kのマンションだ。まだ開封されていないダンボールを尻目に、新名はざっと部屋を見渡す。水玉のポップなカラーが目に留まる。そこから部屋の端々から彼女の気配を感じて、何だか妙にいたたまれなくなってきた。ついこの間彼氏彼女、つまりは恋人関係になったのにたまに夢じゃないのかと疑うときがある。しかしそこは喜ばしいことにちゃんとした現実だ。さっきも片付けを始める前にしたキスのことを思い出し、顔がにやけそうになる。
(まじやばいってオレ!)
緩む口元に気がついて、ぶんぶんと頭を振る。と、ちょうどタイミング良く美奈子が二人分のお茶を淹れたマグカップと、新名がおみやげに持ってきたプリンと一緒に現れた。
「どうしたの?」
「いや? なんでも!」
不思議そうに小首を傾げる美奈子に、新名はへらりと曖昧に笑う。片付けに邪魔だからと立てかけておいた折りたたみ式のテーブルを慌てて組み立て、その上にマグカップとプリンがそれぞれ置かれた。
「…あれ?」
ふと、新名はテーブルの上に置かれたマグカップを見て、小さく声を上げた。そのマグカップは揃いの柄が入った色違いのもの。明らかにペアとわかるそれに、新名はちらっと美奈子を見た。ら、彼女はさっと目を背ける。
「美奈子ちゃん」
「…ナンデスカ」
「このマグカップさ、かわいいね」
「か、かわいいでしょ?」
「うん。それでさ、これってペア?」
「……か、かわいかったから」
「うん」
「……」
「……」
「……だめ、かな?」
「アンタさ」
「わっ」
すぐ隣に座る彼女へと手を伸ばし、驚く彼女には構わず腕の中に抱きしめた。
「旬平、くん?」
「すっげ今、キスしたい」
「さっきしたでしょ!」
「さっきはさっき、今は今」
「え、ちょ」
さらに文句を言おうとする彼女の口を塞いで、抱きしめる腕に力を込める。薄く目を開け、横目でテーブルの上に置かれたマグカップを見つめる。重ね合わせられた口元がまたもやにやけそうになるのを自覚して、新名はそれを悟られないようにキスを深くしていった。
[5回]
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