蝶が、舞う。
ひらひらと自由に空中を舞う蝶を、見ていた。
そうしていつの間にか、わたしはその蝶に誘われるように追いかける。追いかける。追いかける。追いかけて――
「……ん」
がたん、と揺れる振動で目が覚めた。その途端、耳にかけっぱなしだったヘッドフォンから流れる音楽が存在を思い出したように鼓膜を揺らした。一瞬自分がどこにいるのかわからなくなり、彼女――中原律子は二度瞬きをして、きょろりと辺りを伺う。そうして、自分がいる場所が新都市交通”あねはづる”車内であることを思い出した。窓から見える外の景色は真っ暗だ。
『本日は、ポイント故障のためダイヤが大幅に乱れ…お急ぎのお客様には、大変ご迷惑をおかけ致しました。次は~、巌戸台~』
耳に掛けたヘッドフォンを一度外して、流れる車内アナウンスから現在地を確認する。目的地までもうすぐかと、律子はため息を吐く。と、
――ふわり、
蝶が窓の外で舞い、一瞬視界が白くしまった。
(…あれ?)
がたん、と電車が揺れて、律子ははっと我に返る。電車は停車し、ドアが開く。「巌戸台です」というアナウンスの声に慌てて立ち上がると、足元に置いておいた荷物を掴んでホームに降り立つ。3月とは言え、夜になるとまだ少し肌寒い。律子は携帯電話を開いて時間を確認すれば、もうすぐ深夜の0時だ。日付が変わる。
「やばい、ずいぶん遅くなっちゃった」
そう独りごちて、律子は荷物を掛け直す。真っ直ぐに改札を目指して歩いていけば、どこかでカウントダウンがされているような気がした。チッチッチッチ、と時計の秒針が進む音まで聞こえてくるようで、しかし構わずに改札へと切符を差し込んで一歩、駅から出た。
と、
――おかえり。
「え…?」
声が、聞こえた気がした。
思わずその場に立ち止まり、辺りを見渡す。深夜になるからといっても、妙に街は薄暗かった。否、薄暗いというより、奇妙、といった方が正しい気がする。けれどこのままここに立ち止まっているわけにもいかない。寮への到着時間は大幅にすぎている。1秒でも早く到着するべく、律子は足早に歩き始める。
見上げた夜空には、不気味なほどに巨大な月が浮かんでいた。
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という感じに原作沿いの荒ハム長編を誰か(´・ω・`)
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