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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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葉月小話「後夜祭」

あんまりにも緑川さんがかわいすぎた結果、葉月フィーバーが始まってどうしてこうなった状態。相変わらずの一発書きクオリティー。
雰囲気を感じ取ってくれるとうれしいです><


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「みーつけた」
 背後からの声に振り返れば、そこにはいつもの制服に着替えた美奈子がいた。
 しかし見慣れているはずの制服姿に、葉月は一瞬戸惑った。さっきまで文化祭で行われた学園演劇のためのドレスが印象的過ぎたのか、はたまた舞台そのもに入り込み過ぎたのか。考えて、葉月はどちらともいえない自分の心境に思わず眉を寄せた。
「どうしたの? 難しい顔しちゃって」
 葉月の心の内など知る由もない彼女はいつものように、微笑う。そうして彼の隣に並んだ。二人のいる屋上には、彼ら以外に人気はない。皆、それぞれのクラスや部室、校庭などで片づけや打ち上げを行っているのだ。
「今日の主役がいないって、皆探してたよ」
「…別に、俺がいなくても平気だろ」
「そんなこと言わないの」
 いつもの癖で素っ気なく返してしまえば、まるで子供を窘めるような口調で彼女は言う。
「皆で一緒にがんばったんだからさ、珪くんもいなきゃ意味ないんだよ」
「……」
 彼女の言葉に葉月は相手の顔をじっと見据えれば、美奈子は不思議そうに小首を傾げた。肩口で揃えた髪が揺れる。と、舞台でのシンデレラ衣装のためにセットした名残か、前髪の一部が跳ねているのに気がついた。
 思わず、手を伸ばしてその前髪に触れる。
「え、なに?」
「跳ねてる」
「うそ、やだ」
「そんなにひどくないから、平気だろ」
「ホント?」
「ああ」
 頷いて、葉月は美奈子の髪から手を離した。代わりに、彼女の手に触れると、恭しく顔の前まで持ち上げてみせる。言う。
「俺と、踊ってくれませんか?」
「へ?」
「だめか?」
「だ、だめじゃないけど、どうしたの?」
「…なんとなく」
「なんとなく、ですか」
「だって、美奈子としてのおまえとは結局踊れてないから」
「え? わッ」
 戸惑ったように眉を下げる彼女には構わず、葉月はステップを踏む。美奈子は少しだけ足を縺れさせるものの、すぐに態勢を立て直した。葉月の肩に手を置いて、すっと背筋を伸ばす。葉月も相手の腰へと手を回し、何度も練習をしたダンスを踊る。当然音楽などなく、階下から聞こえる生徒たちの笑い声がBGM代わりだ。
「……なあ」
「ん?」
「今のおまえの魔法は、解けないよな」
「え?」
「このダンスが終わっても、ガラスの靴だけ置いていなくなったりしないだろ」
 言ってしまってから、葉月はしまったと顔を顰めた。自分の言葉の女々しさを撤回したくなったが、すでに言ってしまったものは元には戻らない。しかもこの距離では、何でもないと誤魔化せない。
 それでも葉月はすぐに言い訳を口にしようとするよりも早く、きゅっと強く手が握られた。
 ダンスが止められて、目の前の彼女はこちらを見上げる。そして、
「ほら、大丈夫でしょう?」
 そういって、照れたように笑う。そんな美奈子の表情に、葉月は一瞬、呼吸を止めた。ゆっくりと息を吐き出すと、彼女の腰に回していた手でぐっと抱き寄せた。美奈子の肩口に顔を埋めるようにすれば、動揺する気配がダイレクトに伝わる。けれど彼女を離すことはせず、ごめん、とささやくように言って、続ける。
「……皆のところには行くから、もう少し、このまま」
「わ、かりました」
 緊張で硬くなった美奈子の声に、ふと入学式の、あの教会の前で再会したことを思い出した。あの頃から変わらないと思うも、すぐに内心で頭を振る。あの頃からではなく、もっとずっと昔。子供の頃、初めて出会ったときから、美奈子はずっと変わらない。
 そんな彼女だから、俺は、
「………美奈子…」
「は、はいッ?」
「サンキュ、戻ろう」
「そ、そうね! うん、そうしよう!」
 ぎくしゃくと頷く美奈子の頭にポンと手を置けば、自分の表情が緩むのがわかる。彼女はやっぱり焦ったように身を翻ると、先に階段を駆け下りていってしまった。
「…好きだ」
 今度こそ、確実に美奈子には聞こえない距離で、葉月は独りごちた。今はまだ本人に言う勇気はないけれど、いつか。きっと。
 この気持ちを伝えることができたならと。

 あの絵本の結末を思い出して、葉月は屋上を後にした。

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