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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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大迫ちゃん小話

らしくもなく、そわそわと落ち着かない気分で大迫は隣を歩く相手へと視線を向けた。自分よりほんの少しだけ身長が低いとはいえ、目線はほぼ同じだ。けれど今は目線や身長などは関係なく、注目するべきポイントは自分と彼女との関係性にある。
 先日まで彼女――小波美奈子は、自分が教鞭を取るはばたき高校の教え子だった。しかも初めて担任を持った生徒の一人で、さらに言えば三年もの間彼女の担任として過ごしてきたのだ。先生と呼ばれ続けた三年間の間、自分は彼女を一人の生徒として接してきた。美奈子に特別な感情を抱いているのを自覚したあとも悟られるぬよう、一教師としての態度を貫き通した。
 それがまさか、卒業式の日に彼女から告白を受けたときは驚いた。相思相愛になれるだなんて夢にも思っていなかったから、あのときは照れ隠しに「先生の胸に飛び込んで来ォい!」と言ったものだが、その言葉の通りに飛び込んできてくれた彼女の身体を抱きとめて、ああ、本当に美奈子は自分を選んでくれたのかと実感したものだ。
 それがつい先月の話なので、「恋人同士」として付き合う期間よりも「先生と生徒」として接した時間の方が長いのは仕方ない。故に、彼女が自分を呼ぶときに「先生」と思わず呼んでしまうのも仕方ない。大迫こそそちらの呼び方に慣れてしまっているし、そもそも美奈子のことも「小波」と呼んでしまうほどだ。けれど、いつも、いつだって「小波」と呼んだあとにしまったと心の中で歯噛みしているのだ。「美奈子」と名前で呼びたくて、相手にも「力」と呼んで欲しくて。けれどその提案をどのタイミングで提示すべきか、大迫は悩んでしまう。らしくないと我ながら情けなく思うが、やはり教師と生徒としての期間が長さが物語ってしまっている。
 つと、隣を歩く美奈子がこちらを見た。考え事をしていただけに突然彼女と目が合ったような形になってしまい、どきっと心臓が強く鼓動を打つ。
「そういえば先生、わたし、観たい映画があるんですけど」
「映画?」
「はい! ……えっと、その」
「どうした?」
「あの、ですね? 今日はカップルデーとか、らしくて……その、だから、あの、カップルだと半額なので」
「カップル」
 彼女の言葉の中の単語だけを問い返せば、美奈子はますます顔を赤くして俯いてしまう。あのとそのとえっとを繰り返している様はかわいらしくて、ああ、やっぱりもう生徒ではないんだとじわじわと大迫は実感する。
「そうだな。……小波」
「はいっ」
「カップルデーっていうことは、俺とおまえは間違いなくカップルだ」
「はいっ」
「そこで、提案がある」
「はいっ」
「美奈子」
「はいっ。…………はい?」
「ほら、今度はおまえの番だ」
「え」
「カップルなんだから、名前で呼ぶべきだと思うんだが」
 目を白黒させている美奈子にそう提案して見れば、相手はさらに目をぱちぱちと瞬く。そうして今度はこれ以上ないくらい顔を赤くさせて、視線を足元へと落とした。ちらっと大迫へ伺い見たあと、再び足元へと視線を落とす。あの、とか細い声が聞こえて、大迫は美奈子の指先をちょいと握った。ぴくっと彼女の手が震えて、もう一度「あの」が繰り返される。
「…………ち」
「うん」
「か、ら…さん」
「もう一度、今度は繋げて言ってみろぉ」
「あ、……ちから、さん」
「今度はもう少し大きな声で」
「や、あの、その」
「ほら、頑張れ美奈子」
「ちょ、ちょっと待ってください! え、映画見たあとくらいなら頑張れると思うので!」
「映画を見るためにはちゃんとカップルにならないとだめだ」
「えええええええ!」
 素っ頓狂な声を上げて本当に困った顔をする美奈子に思わず吹き出してしまえば、ひどい! と抗議の声が上がった。すまんすまんと謝りながら、彼女の頭を優しく撫でる。さらさらと心地よい髪質を手のひらに感じると、「力さんのばか」と弱弱しい抗議の声が聞こえてきて。
 その何とも言えない反則的な声音と彼女の表情を目の当たりにした大迫は、美奈子に負けず劣らず顔を真っ赤に染める結果となった。


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小話リク:大迫ちゃんで卒業後の先生呼びについてあれこれでした!ありがとうございました!

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佐伯小話

佐伯ははやくデイジーに指輪を買ってあげればいいのにっていう!ていう!

 ペアリング、というものがある。当然それが何なのか、何を意味するのかはわかっている。
 先日久しぶりに会った針谷という友人というより悪友はにやにやとした趣味の悪い笑みを張り付けて「虫避け」と称してそのペアリングでも買ってやればいいんじゃないかとぬかしてきた。必要ない興味ないと即座に切り捨ててはみたものの、そのあとに続いた針谷の「でも女って、やっぱそういうの欲しいんじゃねーの? いくらあいつだって女には変わりないんだし」という追加攻撃がじわじわと尾を引いている。そんなタイミングが良いのか悪いのか、今日はあいつと称された女――あかりと二人で出かける予定だ。しかもまた最近新しくオープンしたショッピングモールに、だ。何々だよ、と佐伯は口の中で悪態を吐いて、待ち合わせの場所で人混みへと視線を向ける。当然待ち合わせとして使われるその場所には、佐伯以外にもカップルの待ち合わせ人がそこここに存在する。待った? ううん今来たところ。なんて、ありきたりな会話が溢れる中で、どうしても視線はカップルたちの手元へと向いてしまう。そのたびに針谷のにやけた顔が脳裏を過り、くそ、ともう一度悪態を吐いたところで「瑛くーん!」と呑気な声が飛んできた。
「おまた、いた!」
「遅い」
「いや、た、確かにちょっと遅れたけど! だから突然チョップとかはないと思うな!」
「ウルサイ」
「えー…何か、ご機嫌ナナメ?」
「別に」
「ふーん」
 行くぞ、と佐伯が促せば、あかりはそれ以上何も言わずに佐伯の隣に並ぶ。思わずいつもの調子で歩きかけて、あかりの歩幅に合わせてペースを落とす。ちらっと横目であかりを伺えば、彼女の首元には依然佐伯がプレゼントしたチョーカーが掛かっていた。それだけでさっきまでの蟠りがほんの少しだけ下がって、我ながら単純だなと思う。佐伯はそっと嘆息をしたあと、そっとあかりの指先に触れる。ちょい、と引っ張るように握れば、あかりが嬉しそうに佐伯の手を握り返してきた。いやいや、そうじゃない、と内心だけで佐伯はつっこむ。いやうれしいんだけども。手を繋ぐのはいいんだけども、ちょっとだけ指のサイズとかそういうのを確認してみようかなと思ってしまった自分がバカみたいだなと自己嫌悪に陥る。
「あの、さ」
「何?」
 ごほん、とわざとらしく咳払いをしてから全力でさりげなさを装いつつ、佐伯は口を開いた。あかりが見上げてくる視線を見返すことなどできず、明後日を見やりながら続ける。
「おまえはさ、その……ペアリングとか? そういうのって興味あるのか?」
「え、別に?」
「え?」
「だってほら、わたしって抜けてるから。せっかく瑛くんにもらった指輪とか失くしそうだから」
「あー…確かに」
「でしょ?」
 屈託ない笑顔付きで念を押されてしまい、佐伯は内心でちくしょう針谷と完全に八つ当たりをしていた。それでも繋いでいる彼女の左手を改めて見やりながら、言う。
「……本番のは、失くしたりするなよ」
「え?」
「なんでもない」
「え、ちょっと! 何が?」
「なんでもない! 行くぞ!」

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ハロウィンっぽい瑛主

ツイッターで「デイジーが佐伯に『Trick or treat』と言うと、冷たい眼で「如何なる悪戯も受けて立つぞ」とでも言うように構えます。」という診断が出て面白すぎたので小ネタです。

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 カレンダーにある10月31日という日付の下に「Hallowe'en」の文字が記載されている。昨今の日本でも随分浸透してきた海外のイベントだ。珊瑚礁でもその恩恵にあやかるべく、9月の半ば辺りからはハロウィン限定スイーツを提供している。その中でも特にかぼちゃのタルトは評判が良く、これは後々の定番商品として扱うかを目下検討中だ。というか、佐伯と共に働くもう一人の従業員が大層気に入ってしまい、「これ、いつでも食べられたらうれしいなあ!」などときらっきらの邪気のない目を向けてきているのが一番の要因ではあるが。
 むしろ店の定番商品としてではなく、彼女のために作ってやらないでもないとふいに考えてしまったところでぶんぶんと頭を振る。だめだろ俺。あいつを甘やかすな俺。と、そんな風に己に言い聞かせるように内心で独りごちるものの、店の冷蔵庫にはしっかり彼女用のカボチャのタルトが用意されているのであった。佐伯はちらっと冷蔵庫を見やり、
(いやでも今日はハロウィンだし! あのバカはきっとこれに乗じて「お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ!」とかなんとか言ってくるに違いなからその準備だ! そう! 俺は正しい!)
 などとやっぱり誰にともなくそんなことを胸中で繰り返していれば、かちゃり、と従業員用の入り口のドアが開く音が聞こえた。
 振り返った先には案の定思考の議題となっている人物――海野あかりがそこにいた。彼女は視界に佐伯の姿を見つけると、ぱっと顔を笑顔に変えた。にこにこーっと笑って佐伯のそばへ駆け寄ってくる。その仕草で「あ、来るな」と思った。何がってそれは、
「瑛くん! Trick or treat!」
 両手を胸の前に揃え、佐伯が想像した通りの言葉を彼女は口にした。そうして瑛はその手と彼女の顔を交互に見やり、そして、
「・・・トリックを選んだらどうするんだ?」
「えっ?」
 佐伯の返した言葉は完全に意表を突いたのか、あかりは笑顔のままで固まってしまった。その笑顔を両手を差し出したまま数秒固まって、もう一度「え?」と繰り返す。一方で佐伯は不敵な笑みを浮かべて「やれるもんならやってみろ」とばかりにあかりを見返す。
「え、と。・・・えーっと」
 唸るようにあかりはその場で固まり、ひとまず差し出していた手をぎゅっと握る。視線を右、左とそれぞれ一回ずつ逸らしたあと、もう一度佐伯を見た。そうして足元へと視線を落とすと、
「・・・・・・・だ」
「だ?」
「ダイナミックアタック!」
「はっ?」
 どーん! と割と勢いよくあかり自身が佐伯へと飛び込んできた。完全に虚を突かれた佐伯はそのままあかりを受け止め、その勢いで背後の壁にぶつかった挙句、ごん! と鈍い音と共に頭をぶつける始末だ。
「あ、ごめ! 瑛くんごめん! ちょっと勢いつきすぎた!」
「・・・・・・おまえな」
「おおおおお怒らないでお父さんごめんなさいお父さん反省していますお父さん!」
「ああそうだよなおまえはそういうやつだよな。そこを想定できなかったお父さんが悪いよな」
「なんか色々と投げやりな気がするよお父さん」
「そんなこと言うとトリートの方、やらないぞ」
「え! やだうそお父さん大好き!」
 佐伯が冷蔵庫を指させば、あかりはあっさりと身を翻して冷蔵庫へと駆け寄っていった。そんな彼女の後ろ姿を遠い目で見つめながら、
「・・・・・・そういうやつだよ」
 と佐伯は少しでも彼女に期待した自分自身を恨むように、ぐったりと呻いた。

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久しぶりの勢いの小ネタですが久しぶり過ぎて文章の書き方を忘れたなど・・・

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琉夏小話

 うわああああん! と豪快に泣く子供がいた。服装からして性別は男。年齢は多分小学生に上がるかそこら。琉夏は暫くその少年を見つめたあと、よっこいしょと彼の前にしゃがみ込む。
「オマエ、迷子?」
 単刀直入のど直球で問うてみれば、相手はひっくと一度泣き声を引っ込めたかと思えば、再びうわああああん! と泣きだした。心なしか、さきほどよりボリュームが上がったように思える。
「おお、さすが迷子」
 なんて。
 琉夏は少しずれたところに感心したあと、左右に一度ずつ首を振り、制服のポケットを漁る。小銭とレシートとWestBeachの鍵に混ざって突っ込まれた非常食のひとつを取り出す。棒つきのポピュラーなそれを、琉夏は少年へと差し出した。
「ほら」
 言って、少年の目の前へとアメを翳す。再び彼の泣き声が弱まったところで、琉夏は相手の手にしっかりとアメを握らせる。
「男は簡単に泣いちゃだめなんだって、知ってる?」
「…?」
 唐突な琉夏の言葉に、少年はきょとんとしたあと、数回目を瞬かせた。目にはいまだ涙の膜はあるものの、すっかり泣くタイミングを削がれてしまったらしい。涙で濡れた頬を、奇跡的にポケットに入っていたぐしゃぐしゃになっていたティッシュでふいてやる。
「よし、男前」
 ぽん、と頭を叩いてやれば、まるでそのタイミングを見計らったかのように遠くから母親らしい女性が走ってきたのが見えた。琉夏は少年に女性の姿を指さして教えてやれば、彼はぱっと笑顔になって一目散に走っていく。その後ろ姿をしばらく見送ってから、琉夏はよっこらしょと立ち上がった。ちょうど少年が母親の元に辿りついたところで踵を返すと、いつもは考えないようにしている重い感情が疼いた気がした。
「…かっこ悪ぃ」
 そう独りごちて、ポケットの中へと手を突っ込んだ。変わらずポケットの中には無意味なもので溢れていて、ぐしゃぐしゃなレシートをさらに無意味に握りつぶす。と、携帯電話が振動して着信を知らせた。琉夏は暫くその着信を無視していると、一度携帯電話は振動を止めた。けれどすぐにまた震えだしたので、諦めたように携帯電話をポケットから取り出す。折りたたみ式のそれを開いてみれば、ディスプレイには電話とメールがそれぞれ一通ずつ表示されていた。琉夏はメールボックスを確認すれば、幼馴染の美奈子からだった。
『さっき、ゲームセンターでたくさんアメちゃんゲットしたから、明日あげるね(*^_^*)』
 そんな他愛もない短いメールと袋に詰め込まれた大量のアメが写された写真が添付されていた。
 琉夏はメールの画面を閉じて着信の方を確認すれば、それはやはり美奈子からのものだった。彼はそのまま美奈子へと電話を掛けると、相手はワンコールが終わるくらいのタイミングで応答した。もしもし、という彼女の後ろから聞こえる音が騒がしいことから、まだゲームセンターにはいるのだろう。
「メール見た。まだゲーセン?」
『うん。でもそろそろ帰るけど』
「じゃあ、ちょっとそこで待ってて。今から行く」
『え? 琉夏くん、どこにいるの?』
「ちょうど商店街のとこ」
『いいけど、そんなにアメちゃん不足?』
「どっちかっていうと、美奈子ちゃん不足」
『……もう、またそういうこと言って』
「うん。だからさ、待ってて?」
『はいはい』
 呆れたような彼女の声を合図に、通話を終えた。
 そのあとはさきほどの少年のように、ゲームセンターを目指して走り出す。待っている相手は母親ではないけれど。
 ふいに、あの少年と同じ頃の自分を思い出す。ばいばいと引っ越す彼女に向かって手を振り、淡く抱いていた恋心を小さな箱の中に詰めて、きつくきつくフタをした少年だった琉夏。二度と開かないようにと、心のいちばん深いところにしまって見えないように隠していたのに、はば学の入学式で彼女と偶然の再会を果たしてからその箱が僅かに存在を主張し始めた。それでもその箱に詰めた気持ちと向き合いのはまだこわくて。冗談と気まぐれで誤魔化してでしか、まだ、彼女とは向き合えない。
 いつか、もしこの箱のフタを開けることができたなら、と。
 そこまで考えて琉夏はぎゅっと唇を引き結ぶ。だめだ、と思考を中断させて、その気持ちを望む根底をひとまず頭から追いやった。
 今はひとまず、彼女からアメちゃんをもらうことだけに専念しようと、甘い味覚にすべてを委ねることにした。

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琉夏小ネタ

 口に広がる甘い味は、お手軽に得られるちいさな幸せだ。
 甘い甘いキャンディーを舌先で転がせば、その甘さはじわりじわりと口咥内を侵食していく。そうしてゆっくりゆっくり溶けていって、最終的にはあっけなく消えてしまう。ほんの少しだけ残った甘い面影が消えてしまう前に、琉夏はすぐに二つ目を口の中に放り込んだ。カラコロと軽い音を立てて、ゴミとなった包み紙を制服のポケットの中に押し込む。
 琉夏くん、と背後から呼ばれた声に振り返り、ほんの少しだけ目を細めた。視線の先には久しぶりに再会した幼馴染の彼女がいて、ぱたぱたと小走りでこちらに駆け寄ってきた。その仕草は子供のころと何も変わらなくて、さらには彼女の纏う空気だとか、そういった色々なものすべてが変わらな過ぎているところを目の当たりにすると、無性に泣きたくなる。まるで、口の中に広がるこの甘いキャンディーのようなちいさな幸せを夢みて、そうしてそれを本当に望んでしまいそうになる錯覚。幸せを得られる資格なんてないのにと、琉夏は思い直して口の中のキャンディーを噛み砕いた。がりがりと砕かれる音が頭の奥まで響いていく気がして、残骸となったキャンディーを無理やりに飲み込んだ。ざらりとしたひどく喉越しの悪い感触と、それに反した甘い味はまるで、悪夢を連想させた。

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普通状態琉夏のめんどくさい心理状態を悶々するブームがやってまいりました。

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