待ち合わせ場所である駅前で、あかりは大きめのバッグを足元に置いた。左腕に巻かれた腕時計で時間を確認すれば、待ち合わせの時間より二十分も早い。まるで遠足を目前に控えた小学生よろしくウキウキそわそわとした気持ちでいっぱいだ。早すぎる到着に周囲を見渡し、当然待ち合わせ相手はまだ来ていないと思っていた矢先、
「……早いな」
あかりが来たのと反対方向から、彼女と同じように大きめのバッグを手にした瑛が現れた。
「瑛くんこそ、早いね」
「まあ、ほら、新幹線だし。乗り遅れるわけにもいかないだろ」
「そうなの! だからわたしも早めに来ようと思ったら早く来すぎちゃって。瑛くんも同じで良かったー」
にこにことあかりが機嫌良く笑うと、何故か瑛の顔はどんどん渋く顰められる。眉間の皺が寄っていく理由がわからずにあかりが小首を傾げれば、すぐさま彼女の額にチョップが落とされてしまった。
「痛い!」
「コンビニ、行くぞ」
「それだけ言えばいいじゃない! チョップは必要ないでしょ!」
「能天気なおまえが悪い」
「意味わかんないよ」
横暴な瑛の言い分に唇を尖らせて抗議するも、彼は相手にしないようにさっさと歩きだしてしまった。その後ろ姿を慌てて追いかけていけば、ちらっと振り返った瑛と目が合った。あかりは再び笑顔を浮かべ、瑛の隣に並ぶ。彼の服の端を掴んで、軽く引っ張った。
「晴れてよかったね」
「そうだな」
「瑛くんとの旅行、楽しみだよ」
「…そうだな」
同じ単語を繰り返す瑛ではあったが、その顔が妙に険しくなっていることに、あかりはつっこみを入れないことにした。また迂闊なことを言って、チョップの制裁を受けるかもしれない。触らぬ瑛にチョップなしだ。
そもそも瑛との旅行に行くことになったのも、彼の気まぐれなのだ。瑛の家でたまたま点けていたテレビが「近場の旅行特集」なる番組を組んでいて、「旅行、行きたいなー」と何となく呟いたあかりの言葉に、「…行くか?」と珍しく乗ってきたのが原因だ。普段なら人混みの多いところは(建前として)嫌がる瑛の珍しい反応に、思わずあかりは食いついてしまった。
「行きたい!」
「即答かよ」
「だって、瑛くんと旅行に行きたいもん」
「…おまえ、ちゃんと意味を理解して言ってる?」
「え?」
「……わかってたよ。おまえがそういう鈍なやつだっていうのは」
「ええー? なにそれ?」
「ウルサイ。あんまり騒ぐと連れてってやらないぞ」
「ごめんなさいお父さん」
恋人同士になっても変わらない親子漫才を経て、話はとんとん拍子に進んでいった。宿泊は一泊二日と短めな上に、初めての旅行とあって場所は近場の熱海だ。はばたき市から新幹線に乗って一時間ほどの距離なのと、「旅行っぽい場所」というあかりの意見が通った結果だった。
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以前某方と熱海旅行に行ったときのネタを瑛主で書こうと思ったいた瑛プラスお試し版。
こんなノリでどうかなーと妄想だけが先行しています。
旅行の記憶が遠くなる前に書き上げたい気持ちだけはあります。いつもこれだよ。
[2回]
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