GSP3での琉夏新スチルで〇〇目線でネタバレ全開です。
まだ見てないよ!これから見るんだよ!という方は回れ右!
似ていると、思った。
誰にも期待せず、未来にも期待せず。そして何より、自分自身に一番期待していないところが、少し前の自分とよく似ていた。
カツカツと音を立てながら、黒板に数字の羅列を綴っていく彼。明らかな校則違反である少し眺めの金色の髪が揺れ、それと一緒にやっぱり校則違反であろう左耳のピアスも揺れる。
見た目だけならこの上もなく「不良」であるが、中々どうして、彼の発想力は興味深い。さすがあの氷室が一目置くだけあると、若王子の口角は自然と上がる。けれど、彼が時折見せる表情だとか、雰囲気に、昔の自分が重なって見えるのもまた、事実だ。
「早く大人になって、誰の邪魔にもならないようにしたい」
本来の目的は彼の進路相談のはずなのだけれど、まるでこちらがついでのような感覚になってしまっていた。けれど、こちらの問いに答えた彼の言葉の中に、確かに昔の自分を見た気がした。
その日は「宿題にさせてください」と言い残し、別れた。
夕方の、少し人通りが多い商店街を通って家路に着く。
つと、ほんの少し前まで毎日通っていた定食屋の前を通り過ぎた。相変わらずいい匂いが鼻孔をくすぐるけれど、若王子は立ち寄ることなく、むしろ足を速めて帰り道を急いだ。
「ただいま」
相変わらずのちょっと古ぼけたアパートのドアを開ける。すると、まず始めに出迎えてくれたのは一番若王子と古い付き合いの猫だ。にゃあと猫は鳴くと、若王子の足元にすり寄ってきた。その身体をひょいと抱き上げて、ただいま、と言えばおかえりと言う代わりにごろごろと喉を鳴らして頭を若王子の首元に押し付けるようにしてきた。
と、
「おかえりなさい」
今度は、ちゃんとした人間の声が出迎えてくれた。
つい数年前までは高校生だったはずなのに、大学生になった途端急に大人びたように見える。若王子は猫を抱えたまま、彼女に向かってもう一度、ただいまと言った。
「ごめん、待ったかな?」
「平気ですよ、ちょうどご飯が出来上がったところですし」
「やや、それはうれしい。先生もうペコペコです」
「『先生』じゃないですよー」
「ああ、ごめんなさい。さっきまで進路指導していたから、つい」
「進路指導? こんな時期に?」
「特別なんです」
「…ふーん」
「どうしたの?」
「なんでもありません。さて、ご飯にしましょう」
「ヤキモチさんですか?」
「……」
「ちょっとうれしいけど、僕の話を聞いてくれる?」
「はい…」
少しだけ拗ねたような表情をしつつも、彼女は素直に頷いた。それを確認して、若王子は言葉を続ける。
「昔の自分と、進路相談してるんです」
「え?」
「すごく僕に似た生徒を紹介されました」
「え、会ってみたい!」
「だめです。すごいイケメンですから、浮気しちゃいますよ」
「しませんよ」
「どうかな~?」
「もう!」
ふざけたような言い合いを続けて、彼女の手が若王子の胸元を軽く叩いた。彼は相手のその手を掴むと、じっと真っ直ぐに彼女の目を見つめる。そんな若王子の態度が予想外だとでもいうように、彼女はさっきまでのふざけた調子から一気に困ったように眉を下げた。すると、唐突に若王子の片腕に抱かれていた猫が、にゃあ! と大きく鳴いて、ぴょんと器用に飛ぶと部屋の隅へと逃げてしまう。思わずその動きに意識が向いてしまった彼女の腕を引いて、若王子はぎゅっと自分よりも小さい身体を抱きしめた。
「ど、どうしたんですか?」
「…僕は幸せ者だ」
「へ?」
「こんな僕でも、幸せになれるんだ」
「貴文さん…」
「あの子が、昔の僕と本当によく似ていたんだ。だから、ちょっとセンチメンタルな気分になったのかもしれない」
「そんなこと言われたら、ますます会ってみたくなっちゃうじゃないですか」
「いくら君の頼みでも、こればかりはぶっぶーですよ」
「ふふ、わかりました」
冗談めかしていう若王子の言葉に、彼女もくすくすと笑い出す。そうして暫く二人で笑い合っていれば、ご飯を催促するように数匹の猫たちが足元に纏わりつき始めた。その様子にやっぱり二人揃って笑うと、狭いキッチンで猫たちと自分たちの夕飯の準備を始める。
ようやく使い方をマスターした炊飯器の蓋を開ければ、真っ白なご飯が炊きあがっていた。視線の先には彼女の笑顔があって、若王子は幸せの定義についてもう一度、ゆっくりと心の中で考えるのだった。
[2回]
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