ネタバレを含んでいるので畳みます。
京也さんのせいでラーメン屋→プリン屋→パン屋に転職しまくってる。
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(うわあ)
買い出しで立ち寄ったスーパーの一角。妙に女性客(しかも若い)が集まっているのが気になって人の間から覗き見れば、そこにはでかでかと京也のポスターが貼られていた。そのポスターの横には「新商品!」とポップが飾られ、小さめのDVD再生機からは商品のCMをエンドレスでリピートしている。
『大人のプリン、プレミアム&ビター……。アーン、してみろよ?』
いつか偶然見た収録現場を思い出して、けれど実際にCMとしてみると今さらのように恥ずかしくなってきた。普段は飄々とした態度でいる彼なだけに、こうやって真剣に仕事をしてる様を目の当たりにするとやっぱり「アイドル」なのだと再認識する。当然CMとして撮影されているのと、液晶越しというマジックも手伝ってかいつもよりも割り増しでかっこよく見えた。
(何だろう。何か、悔しい)
そんなどこに向けての敗北感を覚えながらも、結局は一つ手にとってカゴに入れた。会計を済ませて店に戻り、他の材料と一緒にプリンも冷蔵庫に入れる。そのときも、
(新商品の研究材料だから!)
などと、やっぱり誰に向けての言い訳かわからない言い訳を独りごちていた。
そうしてお買い上げしたプリンはちょうど人の出入りも落ち着き、休憩がてらに食べてみることにした。ら、ちょうど点けっぱなしのテレビからは聞きなれたCMソングが流れ、ちょうど食べようとしていたプリンのCMが始まる。
『大人のプリン、プレミアム&ビター……。アーン、してみろよ?』
思わず最後まで見届けしてしまったあと、はっと我に返る。自分以外には誰もいないというのに、思わずきょろきょろと辺りを見渡してしまった。今度こそ!
と気合いを入れてプリンの蓋を剥がそうとすれば、カランコロンと来客を知らせるドアベルが鳴る。
「ちーっす」
軽い挨拶と共に入ってきたのは、タイミングが良いの悪いのか、京也その人だった。彼はきょろりと店内を見渡したあと、いつもの指定席ではなくカウンターの席へとやってきた。
「ちょうど暇な時間?」
「あ、うん、そう」
「じゃあラッキーだったな。メニューちょうだい。……お?」
「え?」
つと、京也の目が、美菜子の手元へと落ちる。美菜子も同じようにその視線を辿れば、今しがた食べようとしていたプリンがそこにはあった。
「……あ、や、これは、その」
「何だよ、チェックしてくれてたのか?」
「え、えーっと、あーっと」
「よーし、じゃあ特別サービス。貸してみな」
「…何を?」
「プリン」
「…何で?」
「アーン、してやるよ」
わざと一段落低い声で、京也は言う。ついでに彼の必殺技の一つである流し眼まで使ってきて、美菜子の中の熱が一気に上がった。ずるい!
と喉元まで出かかった声を押し殺し、代わりにメニュー表を突き出した。
「どうぞごゆっくりご覧ください!」
「あれ、プリン食わねえの?」
「お客様がいるのに食べられません!」
「ええー、別に俺は気にしねえのに」
「わたしは気にするんです!」
それだけを言って、結局未開封のプリンは再び冷蔵庫の中へと戻された。背後で楽しそうに笑う京也の気配を感じながら、透専用の激辛チリソースを混ぜてやろうかと、そんな悪だくみが脳裏を過ったのであった。
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