この話を書いてたら公式で透さんにやられたっていう。
せっかくなのでぺたり。
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店内に残る最後の客を送り出し、美菜子はようやく一息を吐いた。今日はマスターが私用のため、午後は一人で切り盛りをしていたのだ。休日よりか人の出入りは少ないとはいえ、やはり一人でのやりくりは大変だ。それでも今日を乗り越えた安心感から、忘れていた空腹が訴えるようにきゅうっと鳴いた。咄嗟にお腹を押さえると、さらにもう一声、しかもさきほどりも大きな音が上がる。そう言えば忙しさにかまけて、昼食は朝食に作って余っていたスープを流し込むように食べただけなのを思い出す。
「何か食べよう…」
美菜子は呟いて、ふらふらとキッチンへと戻ろうとする。
と、カランカランと鳴るドアノブの音に、反射的に振り返った。いらっしゃいませと言おうとして、もう閉店時間を回っているのを思い出す。けれど「すみません」とこちらが言うより先に、相手はそのままずかずかと店内に入ってきてしまった。その見慣れた常連客の顔に、美菜子は二度瞬きをした。
「あれ、剣人さん?」
「飯、頼む」
「頼むって…すみません、今日はもう閉店です」
「なんでもいい。金は払う」
「もう、だからそうじゃなくて」
きゅるるるるる。
二人の会話に口を挟むように、三度目の腹の虫が鳴いた。しん、と二人の間に沈黙が落ちて、美菜子は頬に熱を感じながらそろそろと視線を上げた。
「……あ、の」
「なんだ、おまえも腹減ってんのか」
「そ、そうですよ! 今日はマスターもいなくて忙しくて、スープしか食べてないんです!」
「俺もそんなもんだし、じゃあ二人分で何か食い物」
「へ?」
「俺とおまえの二人分」
「で、作るのはわたし?」
「他に誰が作れるんだ?」
「…閉店だって言ってるのに」
「金は払う」
「わかりました。作ります。でも、材料がもうないから、有り合わせですよ?」
「いい。おまえの料理ならなんでも」
「…うれしいんだか複雑なんだか」
もう、と美菜子は観念したように呟いて、キッチンへと戻る。殆ど何もない食材と余った残りものに暫く悩んで、結局ピラフを作ることにした。ちょうど牛バラ肉も余っていたことだし、肉類の料理が好きな剣人にはちょうどいいだろうというのもある。
まずは玉ねぎをスライスし、電子レンジで加熱すしてからバターとサラダ油をひいたフライパンで炒める。玉ねぎが飴色になったところで牛バラ肉を追加し、暫く炒めてから残り物のご飯も投下。塩コショウに醤油を少々、最後にパセリをふりかけて出来上がりの簡単ピラフだ。
「はい、お待たせしました」
「サンキュ」
カウンターの席に座った剣人に差し出したあと、美菜子は立ったままピラフを食べようとすれば、剣人は不思議そうに小首を傾げてきた。
「隣、座らないのか?」
「え?」
「そこ、座る場所ないだろ?」
「ええ、まあ」
「閉店して他に客いないんだし、隣来いよ」
言うなり、剣人はぽんぽんと自分の隣の席へと促す。
美菜子は数秒どうしようか悩んだあと、結局は空腹と今日一日の疲れに負けて、お邪魔しますと彼の隣へと並ぶように腰を下ろした。
「いただきます」
「召し上がれ」
意外と律儀な剣人が妙にかわいく見えた。そうして一口、彼の口へとピラフが運ばれ、そのまま無言で食べ進んでいく様にほっと息をつく。美菜子も同じように食べ始めて、けれど時折職業病的に剣人のコップへと水を注ぐ。いつも思うことだけれど、剣人の食べっぷりは豪快だ。そんな見事な食べっぷりを目の当たりにして、少しだけうれしいやら恥ずかしいやら。
結局剣人の分にが多く盛り付けたのに、美菜子の方が食べ終わるのは遅かった。
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