店内で掛ける用のBGMを探しにやってきたのは、チェーン店として有名なCDショップだ。CDの他にもDVDのレンタルも行っているので、予定のない休日にはそこそこお世話になっている。しかし今日はレンタルコーナーではなく、購入用のブースへと足を運ぶ。邦楽、洋楽、クラシックと様々なジャンルが取りそろえられている中で、ふいに掛かっている曲が耳に届いた。足を止めて音の方へと進路を変えれば、曲と一緒にプロモーションビデオが流されている。液晶画面の中にはまるで王子様を連想させるような衣装を身に付けた3Majestyの3人が映し出され、デビュー曲である「Show Up」を歌っている。液晶テレビの横には彼らをお勧めするポップが飾られていて、何だか妙な気持ちになる。
美菜子は並べられたCDの一枚を手にしてジャケットへと視線を落とせば、ぽそ、とすぐ耳元で声が掛けられた。
「…買うの?」
「ひゃっ!?」
突然のことに裏返った声を上げてしまい、美菜子は慌てて振り返る。
「し、んのすけさん」
「ここに入る前に君の姿を見かけたから、追いかけてきちゃった」
「もう、驚かさないでくださいよ」
「ごめん」
謝りながらも、彼は楽しそうな笑みを浮かべる。そんな慎之介の表情に毒気を抜かれように肩を竦めて、しかし美菜子ははっと我に返る。今、自分が手に持っているのはまさしく目の前にいる慎之介たちが歌っているデビューシングルだ。そのことに気が付けば、じわじわと恥ずかしさがこみ上げてきた。ええとと言葉を探し、しかし戻すのも躊躇われて、結局どうにも身動きが取れない。慎之介はそんな彼女の反応を楽しむように笑みを浮かべたまま、ひょいと彼女の手からシングルCDを取り上げてしまう。あ、と思わず声を発すれば、彼はまるで笑みを貼りつけたまま、口を開いた。
「王子様、なんだって」
「え?」
「僕。プロフィールが非公開っていうのもあって、本物の王子様なんじゃないかって噂されてるんだ」
「あ、そう言えばそうでしたね」
「……全然王子様らしくないのにね」
ぽつんと、呟いた言葉が、ひどく寂しく聞こえた。そんな彼とは裏腹に、プロモーションビデオの中の慎之介はきらきらと輝いている。笑って、輝いて、向けられる視線は本当に王子様のようだ。――なのに。
どうして、目の前の彼はこんなにもさみしそうに笑っているのだろうか。
美菜子は何かを言おうとして、けれど一度言葉を飲み込む。彼の態度に逡巡するも、しかし覚悟を決めて口を開いた。言う。
「そんなこと、ないですよ」
「そう?」
視線はCDに落とされたまま、短く慎之介は問う。いつもの温和な慎之介との印象が違い過ぎて、戸惑いと困惑に飲まれそうだ。それでも目の前にいるのは、間違いなく音羽慎之介で。プロモーションビデオの中にいるアイドルな彼も、美菜子の料理を食べて「おいしい」と言ってくれる彼もすべてひっくるめて「慎之介」なのだ。そうしてできることなら、笑っている彼の方が好きだと、美菜子は思う。
だから、
「慎之介さん」
「ん?」
「ケーキ、食べましょう!」
「え?」
「元気が出ないときは甘いものです! 慎之介さんのために特別ケーキ作りますから! 今日は大盤振る舞いです!!」
ぐっと拳を握って力説すれば、きょとんとした慎之介の目と目が合った。ら、すぐにぷっと慎之介が吹き出して、くるりとこちらに背を向ける。そうしてなおもくつくつと笑いに震える肩を見守っていれば、まだ笑いを引きずった慎之介が振り返った。
「参った。僕より君の方が王子様みたいだ」
「ええ?」
「でも」
「やっぱり、僕にとってはお姫様でいてほしいかな」
「え、と?」
「なんてね」
そう言って、にっこりと慎之介が笑う。
そんな彼の笑みを目の当たりにして、やっぱり王子様なんじゃないかと美菜子は真剣に思ったのであった。
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