忍者ブログ

イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

志波小話

やばい、びっくりするくらい文章が不調すぎる。
王道のべったべた展開なのにこれはまずい。

-----------------


 灰色の分厚い雲から、およそ遠慮など知らない勢いで降り続ける雨を目の当たりにして、志波は眉を顰めた。
 今日は6限目をサボって図書館で寝ていたら、寝過ぎた。図書委員である女子から遠慮がちに起こされて、ようやく自分の状況を把握したほどだ。まだ寝ぼけている思考で教室に戻り、すでにHRも終了したクラスから荷物を回収して帰ろうとして、今に至る。
 朝の天気予報など見る習慣はないので、当然カサなど控えているはずもなく。もう少し小ぶりならば走って帰るという選択肢もあったのだが、さすがにほんの数メートルでずぶ濡れになるほどの雨模様だとそれは憚れる。
 志波はどうしたものか考えを巡らせて、周囲を見渡した。誰か予備のカサを持ってるなんて奇特な生徒はいないかと思ったところで、背後から声を掛けられた。
「志波くん?」
 聞きなれた声に振り返れば、そこには顔見知りの女生徒がいた。彼女は不思議そうに志波を見上げて、小首を傾げる。
「どうしたの?」
「ああ、ちょっとな」
「ちょっと?」
「帰れねえ」
「え? …あ」
 外を見つめる志波の視線を追って、彼女――海野あかりは彼の帰れない理由に気がついた。そうして暫く悩むように眉を寄せたあと、あかりは志波の隣に並んだ。
「折りたたみ傘だからちょっと小さいんだけど、良かったら途中まで入っていく?」
「あ?」
「ほら、駅前にコンビニあったじゃない? そこでビニール傘が買えると思うから、そこまで一緒に行こう」
「…遠回りじゃないのか、おまえ」
「大した距離じゃないよ」
 言って、笑うあかりに志波は断る理由がなかった。彼女には申し訳ないが、この雨は夜まで降り続けるだろう。志波はあかりの言葉に甘えて、彼女の折りたたみ傘に入れてもらうことにした。オレンジ色のワンポイントが入った、志波なら絶対買わない傘の下に、二人揃って並ぶ。そうして、志波は傘の柄を掴んだ。
「貸せ」
「え?」
「俺は入れてもらう身だし、身長差もあるだろ」
「ご、ごめんね、小さくて」
「謝ることじゃない。むしろ、おまえはそれくらいで」
 言いかけて、志波は唐突に言葉を切った。きょとんとしたあかりの目が見上げてくるのを無理やり視線を外し、誤魔化すように後ろ頭を掻く。
「わたしがなに?」
「別に、大したことじゃない」
「えー、気になる!」
「いいから、さっさと帰るぞ」
「わ、待って!」
 彼女の傘を手に、先に歩き出す志波を慌ててあかりが追いかけてくる。
 折りたたみ傘に並んで入るも、どうしても手狭だ。志波はなるべく彼女の方へと傘を傾ければ、あかりがそれに気がついてこちらを見た。ちょっとだけ困ったような、怒ったような顔で持って、彼女は言う。
「そんなに傾けたら、志波くんが濡れちゃうよ」
「元々海野の傘だろう、これは」
「そうだけど、それじゃあ一緒に使ってる意味がないでしょ」
「じゃあ、おまえがもう少しこっちに来ればいい」
「へ?」
 言って、志波はあかりの肩を掴んで引き寄せた。とん、と彼女の肩が志波の胸に辺りに当たる。
「あの…」
「お互い、これくらいならまだマシか」
「そ、ソウデスネ…」
 何故かカタコトの言葉で持って、あかりは頷く。志波はそんな彼女の様子を不思議そうに見つめたあと、行くぞと歩き出す。と、スピードを上げて走る車の接近に気がついて、志波はあかりを庇うように道路の隅に寄った。ばしゃん、と盛大な水音を上げるも、被害はズボンのひざ下くらいで済んだ。
「大丈夫!?」
「ああ、海野は?」
「わたしは平気だけど」
「なら、良かった」
 彼女の返答にほっとしたのもつかの間、お互いの顔の位置が随分近い距離にあることに気がついた。そうして、先日の『事故』のことを思い出したのは、二人ともほぼ同時だったのだろう。さっと顔を背けたあと、数秒。妙な沈黙のあと、「帰るかか」と切りだした志波の言葉で、二人は駅まで無言で歩くはめになったのだった。

拍手[0回]

PR

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

カレンダー

12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

P3P

ザックス身体測定

プロフィール

HN:
なづきえむ
性別:
女性
職業:
萌のジプシー
趣味:
駄文錬成

バーコード

ブログ内検索