いちゃいちゃする天宮とかなで
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日曜日の今日は、当然星奏学園もお休みだ。部活の練習もなく、どうしようか迷っている矢先に天宮からお茶会をしようと誘いがあった。当然断る理由のないかなでは二つ返事で頷き、彼の通う天音学園までやってきたのだ。
天音学園の所有する薔薇園に来るのは、これで二度目だ。それでもやっぱり数え切れない種類と、咲き誇る薔薇の美しさにため息が零れる。
かなでは手近な薔薇の元へと駆け寄ると、その場にしゃがみ込んで薔薇と同じ目線の高さになる。より一層薔薇の香りを強く感じながら、かなではそっと花弁へ指先を伸ばした。と、すぐ隣に同じようにしゃがむ人の気配に、視線と顔をそちらへ向ける。当然そこにはかなでを誘った本人である、天宮の姿があった。
「迂闊に触ろうとすると、危ないよ」
やんわりと彼は言って、かなでの指先を捕まえた。そうしてその指を自分の方へと引き寄せたかと思えば、彼の柔らかい唇が指先に触れる。かなでは驚いて固まってしまうと、天宮はくすくすと楽しそうに笑った。その笑みにどうしていいのかわからず、ただ顔を赤くして俯けば、当足元付近にも咲く薔薇たちにじっと見つめられているような気分になった。
「以前、君とここに来たときは」
ふいに、天宮が言葉を発した。かなではつい顔を上げると、天宮は薔薇を見つめながら話を続ける。
「ここでしか生きられない、生かされているこの薔薇たちが、あんまり好きじゃなかったんだと思う」
「……」
「でも、今はそうじゃないよ。君のおかげでね」
言って、天宮はかなでへ向き直る。中性的な印象のある彼が笑うと、何とも言えない迫力があると思うのは自分だけだろうか。色素の薄い目が細められて、ゆっくりと笑うさまは男の人でも「きれい」と表現しても差しさわりがないだろう。
「この薔薇たちはここで精一杯生きている。だからこそこんなにもきれいに咲いているんだと、最近は思えるようになったんだ」
「天宮さん」
「でも、僕にとっては君という薔薇が一番なんだけど」
さらりととんでもないことを言ってのけたかと思うと、天宮はかなでへと顔を近づけてきた。不安定な態勢なだけあって、かなでは逃げることもできずにただうろたえるだけだ。相手の手が頬を撫でて、徐々にお互いの顔の距離が近づいていく。夏の大会以降、天宮と恋人関係になったとはいっても、未だにかなではこういう雰囲気には慣れずにいた。どうしていいのかわからずに、毎回うろたえてしまうのだ。
「天宮さ」
「違うよ」
動揺しまくっているかなでとは対照的に、天宮はひどく冷静に、そうして甘い声で囁くようにかなでに言う。
「ねえ、かなでさん。ちゃんと呼んで。僕は君に、名前を呼んで欲しい」
ストレートな言葉と、真っ直ぐに見据えられた視線に頭の中が真っ白になる。濃い薔薇の香りも相まって、ふわふわと足元が覚束ない。まるで夢の中にいるような錯覚を覚えて、けれど触れられている頬から伝わる確かな天宮の体温は、確かな現実なのだと自覚する。かなでは彼の手に自分の手を重ねて、少しの躊躇いのあとに彼の名前を呼ぶ。
「……静、さん」
そうして、間近で微笑む彼の笑みを見て、やっぱり夢なんじゃないかと思うほどには彼のことが好きで。
けれどこうして、彼の隣にいられることが幸せなのだと痛感するのだった。
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天宮久しぶりすぎて誰これ状態
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