「初デートしよう」
校門を出たところで、唐突に琉夏が言った。あまりにも唐突過ぎたので、美奈子は思わず「は?」と間の抜けた声を出してしまうも、彼はまったく気にする風でもなく握っていた手を引っ張った。
「『オトモダチ』としてのデートはいっぱいしたけど、恋人でのデートは今日が最初。んで、制服デート出来んのは今日で最後だからさ」
ね? と促されて、美奈子はデート、と口の中で反芻する。確かに琉夏と二人で出かけたことはたくさんあったけれど、これからは彼が言うように恋人として。彼氏彼女としての「デート」になるのかと改めて実感する。そして、先ほど琉夏としたキスを思い出す。そうだ、もう自分たちは恋人同志になったのだ。ということはつまり、これからもあんな風にキスをしたり、今みたいに手を握ったり腕を組んだりとあれこれ考えて、ふいに最終段階まで思考が一足飛びしてしまった。ら、琉夏の目から逃れるように俯く。以前「やらしー」といってくる琉夏に「もう!」と怒っていたけれど、もはや否定などできない。
「美奈子? どうかした?」
名前を呼ばれて、少しだけ視線を持ち上げて琉夏を見やる。彼はどこかきょとんとした表情でこちらを見ていたので、自分一人だけやましいことを考えているようでますます気恥ずかしが募る。
「な、なんでもないよ! ほら、行こう!」
誤魔化すように言って、今度は美奈子が琉夏を引っ張り歩く。おっとなんて言いながらも、彼はすぐに自分の隣に並んでくれた。
ふと、繋がれた手が一瞬離れたかと思うと、すぐに繋ぎ直される。指と指を絡めた、言わば『恋人繋ぎ』というやつだ。しっかりとお互いを繋ぎとめるようなそれに、今更のように羞恥心が襲ってきた。けれどそれと同じくらいにうれしくて、思わずきゅっと手に力を込めて握り返した。
「……悪い子になったら、どうしよう」
「え?」
「なんでも」
ぼそりと隣で聞こえた呟きを聞き返すも、琉夏はにっこりと笑った。そうして不意打ちで彼女の頬に唇を押し当てれば、もう! とお決まりな美奈子の声が上がった。
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