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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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デビト小話

 アルカナ・デュエロでフェリチータが優勝して一カ月が経つ。
 小さな事件はあちこちで起こるものの、それ以外は比較的平穏で平和な毎日が送られていた。――ただし、フェリチータ以外の話だが。
 アルカナ・デュエロの一件以来、ファミリーの一員であるデビトとは恋人同士になっていた。正直に言えば、フェリチータの思い描く恋人像とデビトは、180度真逆にあると言えるだろう。彼女の理想とする恋人はもっと物腰が柔らかくて優しくて、例えるのならば絵本の中に登場するような王子様。それがフェリチータがずっと思い描いていた恋人像だ。しかし恋というものは恐ろしいもので、いつの間にか落ちてしまうものだと最近学んだ。故に、この金貨の幹部であるデビトのことを好きになってしまったのだから。
 マンマに言わせれば「人生なんてそんなものよ」らしい。納得できるようできないのは、長年培われてきたルカの教育の賜物か。
 とにもかくにも、恋人という甘い響きに酔いしれていたのはほんの数日の間だ。その数日の間に、今まで気にしていなかったデビトの女性遍歴を嫌というほど目の当たりにしてしまったのだ。彼が女性に対して惜しみなく愛を囁いていたことは知っていたが、自分が「恋人」となると話は別だ。
 つまりフェリチータは、「ヤキモチ」を妬いていた。
 なのでこの半月ばかりは、剣の仕事が忙しいという言い訳と、ルカという最大の防御壁を盾に逃げ回っているのが現状である。
「……はあ」
「あら、そんな風にため息を吐いてちゃ、かわいい顔が台無しよ?」
 そういって、フェデリカはいつもと変わらない優美な笑顔を浮かべた。
 フェリチータは慌てて背筋を伸ばし、手にしていたワンピースを身体に当てて見せる。
「こ、このワンピースがかわいくて、つい」
「ありがとう。でもそんな嘘じゃ、金貨の幹部さんは誤魔化せないわよ」
 あっさりと自分の心の内を見透かされてしまい、フェリチータの表情が引きつって固まる。次に視線を足元に落とすのと一緒に、肩も下げた。視界の端で、自分の髪が揺れるのが見えた。
「……わたし、やっぱり子供かな」
「そうねぇ。でも、焦って無理な背伸びなんてする必要はないと思うけど? 今のあなたにしかない魅力もあるんだし」
「でも」
 と言いかけたところで、フェデリカドレスの扉が来訪者を知らせる鐘を鳴らした。からんからんと乾いた音に条件反射で振り返れば、そこには話題の中心であるデビトの姿があった。フェリチータは一瞬思考が固まるも、すぐに我に返ると手にしていたワンピースをフェデリカに返した。
「フェデリカ、これはまた今度来たときに買うから! それじゃあ!」
「て、オレが見す見す逃がすと思ってんのか? バンビーナ」
 店の唯一の出入り口の前で、デビトが通せんぼをするように立ち塞がる。思わず得意の蹴りが出そうになるも、場所が場所なだけに結局は何も出来ずに終わる。そんなフェリチータの数秒の葛藤の間に、デビトは距離を詰めて彼女の腕を掴んだ。
「悪ぃな、フェデリカ。ちょっと優先事項が出来たんで、また今度改めて来るぜ」
「はいはい、精々嫌われないようにね」
 そんなマイペースなフェデリカの声に拍車を掛けるように、にゃーんと彼女の猫のフランが呑気に鳴いた。


「ねえデビト、離して」
「逃げねえなら離してもいいゼ?」
「に、げないよ」
「わかった、手は離さねェ」
「デビト!」
 抗議の声で相手を呼ぶも、デビトはまるでどこ吹く風だ。そのまま見慣れた道を進んでいくので、目的の場所がイシスレガーロだと気がついた。確かに屋敷に戻るよりも、彼の仕事場であるカジノの方が近いのは事実だ。しかし、この気まずい雰囲気で、金貨のスーロたちに会うのは気が引ける。と、まるでそんなフェリチータの心境を察したかのように、デビトは一つ手前の角を曲がった。フェリチータが戸惑うのも構わず、デビトは一件の宿の中へと入っていく。入口にいる男へと二、三言葉を掛ければ、相手は頷いてそれ以上は何も言ってこなかった。完全にフェリチータだけが置いてけぼりを食らっている間に、デビトは宿の一室のドアを開けた。内装は特にこれといって変わったところはない。むしろ、必要最低限のもの以外は何もない、と言った方が正しい。
「デビト、ここ」
「ここなら誰にも邪魔されねえだろォが」
 言って、彼は部屋の鍵を掛けた。かちゃん、と金属音がちいさく響いた。
「で? お嬢様はオレのナニがご不満なんだ?」
「…不満っていうか」
 言葉を濁し、フェリチータは視線を逸らすように俯く。逃げ回っていた分、こうしてデビトと相対すると如何に自分が子供っぽいことをしていたのかを痛感する。フェデリカのような大人の女性ならば、もっとうまく立ち回れるのだろうかと考えて、さらに気持ちが落ち込んでしまう。
「フェリチータ」
 名前を呼ばれて、顔を上げる。するといつもは義眼を隠している眼帯を、彼は外していた。自分と同じ色の宝石が埋め込まれた目に、どきりと心臓が鳴る。
「あの時から、オレのすべてはオマエのものだって言っただろ?」
 囁くようなデビトの声に、心臓は情けなくもあっという間に鼓動を速めた。俯いた視線の先には、自分とデビトの足先がある。相手が一歩距離を詰めてきたのが分かって、フェリチータは一歩後退する。そのやり取りを数歩分繰り返せば、すぐに背中が入ってきたばかりのドアにぶつかった。顔のすぐそばにデビトの手が置かれ、まるで彼に囲われているような態勢になる。
「オレが信じられねェなら、オレの心の中を見ればいい。このオレが、いつも誰のことを考えてるかすぐわかるゼ?」
「……それは、嫌」
「なんで?」
「だって、わたししかデビトの心の中が見られないなんて、フェアじゃないもの」
「……ッハハ!」
 つと、唐突に笑いだしたデビトに対して、フェリチータはきょとんした表情を返した。
「本当、バンビーナはイイオンナだなァ」
「…バカにしてる?」
「してねえよ。さすがこのオレが骨抜きになるだけあるってこと」
 そう言うと、デビトはフェリチータの身体を抱きしめてきた。ふわりと彼の香水の香りが鼻腔を擽り、迂闊にもときめいてしまう。けれどそれと同時に泣きたい衝動も湧き上がり、フェリチータはデビトの胸を押し返すも、自分を抱きしめる彼の腕はますます強くなった。
 デビトの腕の中で少しだけ身じろぎ、フェリチータは呟くように問う。
「……わたし、子供っぽくない?」
「アン?」
「隣に並んでて、嫌じゃない?」
「バンビーナの悩み事はそれか?」
「……」
「なるほどな」
「デビ――ッわ!」
 唐突に抱きあげられて、フェリチータは咄嗟に彼の首元へしがみついた。その間、ほんの数歩先にあるベッドの上へと、彼女は下ろされた。見下ろしてくるデビトの視線に、一か月前のアルカナ・デュエロの決勝戦が終わったときと重なる。
 あのときもこうしてベッドに押し倒れたものだが、結局はキスだけで終わった。続きはまた今度なといったデビトの言葉を思い出せば、まるでそのタイミングを見計らったかのようにデビトが口を開いた。言う。
「あのときの続き、するぜ?」
「……ちょ、ちょっとまって、ここで?」
「当然。安心しな、誰も来やしねえよ」
「で、でも」
「もう待ったなしだ。オマエが女に自信がねえっつうなら、このオレが全部教えてやる。安心してオレ色に染まっちまえよ」
「安心…?」
「そこは突っ込むトコロじゃねェ」
「……でも、デビト」
「あ?」
「わたしだけじゃなくて、デビトもわたし色に染まってくれないと嫌」
 対抗心から思わずそんなことを言ってしまうと、デビトにしては珍しく、随分と隙だらけな表情をした。
「………ホントによ、大したオンナだぜ」
 数秒の間を置いて、デビトは苦笑を零した。
 その反応にフェリチータは少しだけ笑うと、改めて彼へと手を伸ばしたのだった。

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