忍者ブログ

イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

ゆるぼリク3 冥加とかなで

冥加さんだけで精一杯でした・・・

--------------

 いつもより二割、否、三割増しほど複雑な表情をした冥加の横顔を盗見みて、かなでは綿を詰められる前の状態の、くたっとしたうさぎのぬいぐるみの一つを手に取った。
 周囲は女友達同士、または恋人という組み合わせで賑あうこの場所は、オリジナルのぬいぐるみが作れるとういことで密かに話題なのだ。
 たまたま今日の星奏学園と天音学園の合同練習のあと、唐突に冥加から妹の誕生日プレゼントの相談(多分)を受けて、参考の一つにでもと一緒に同行したのだが、彼はこの店を目の当たりにしてからずっとこんな調子だ。
 かなでは今しがた手にしたぬいぐるみとは違う種類のぬいぐるみも持ち、冥加に訊く。
「これなんか、結構女の子には人気らしいですよ?」
「理解できん」
「そうですか? 確かに綿を詰める前はちょっとくたっとしてわかりづらいかもしれませんけど、これはこれでかわいいと思いますし、綿も自分の好きな柔らかさまで入れてくれるので愛着も湧くと思うんです」
「俺が理解できないのはそこじゃない。まあその思考も理解できんが」
「そんなこといってたら、プレゼントなんて決められないじゃないですか」
「……俺の代わりに貴様が決めろ」
「だめですよ。ちゃんと詩織ちゃんのことを考えてあげないと」
 そうかなでが言うと、なぜか冥加は舌打ちをした。そうしてさらに複雑になっていく表情に、今度はかなでの方が困ってしまう。両手に持ったぬいぐるみをそれぞれ元の場所に戻し、うーんと腕を組んで考える。かなでも今年の夏に横浜に来たばかりなのと、休日は殆どバイオリンの練習に費やしているので、実はそんなに流行について詳しいわけではない。この店だって、たまたま(さまざまな)情報に詳しい友人に教わったから知っただけなのだ。
 困った、とかなでが途方に暮れかけたそのとき、何とはなしに目を向けたぬいぐるみケースの中の一体と目が合った――気がした。ととと、とかなではそのぬいぐみに駆け寄ると、両手で抱きあげる。沢山ある種類のぬいぐるみの中で、それはスタンダードなテディベアだった。けれど、他のテディベアよりもちょっとだけ眼がつり上がっているように見える。確かに同じ種類でも表情はすべて違うというのがこの店の売りだが、それにしてもこの子だけは特に目元がきつく見えてしまい、そんなぬいぐるみをかなでは誰かに似ていると思った。
「おい」
 ふいに、背後から声を掛けられて、ぴんと背筋を伸ばす。
 そうして振り返ると、呆れた顔の冥加と目が合った。瞬間、「あ」と思わず声を上げてしまった。
「なんだ?」
「な、なんでも!」
「おかしなやつだな。……それ、気に入ったのか?」
「え、あ、はい」
「寄こせ」
「え?」
 突然の冥加の言葉を理解するよりはやく、彼の手がかなでからテディベアを奪い去ってしまった。そうして冥加の後を追うも、元々の身長差から彼の方がはやくレジに到着してしまう。こちらでよろしいですかとお決まりのセリフで問う店員に、ああと頷く冥加。プレゼント用のラッピングやリボンの見本を店員が取り出したところで、かなではようやく冥加の隣に追いついた。
「あの、待ってください」
「なんだ、違うのがいいのか?」
「そうじゃなくて、じ、自分で買いますから!」
「気にするな。付き合わせた礼だ」
「でも」
「リボンはこの赤で、ラッピングはこれで」
 言い淀むかなでには構わず、冥加はさっさと話を進めてしまう。隣でヤキモキしながら事の流れを見守ることしかできないでいると、ふいに冥加がこちらを見降ろしてきた。数秒目が合うものの、再びふいっと顔を正面に戻されてしまう。
 冥加さん? とかなでが口を開くより、店員の方が一歩はやかった。
 店員は慣れた様子で一枚の紙を提示すると、接客スマイルでこう言った。
「では、お名前をお決めください」
「は?」
 思わず、といった表現がぴったりと当てはまるような反応を、冥加は返した。しかし店員は臆することなく同じ言葉を繰り返す。
「あの、あとでプレゼントされた本人が名前を登録しに来ることは可能ですか?」
「ええ、大丈夫です」
「じゃあ、それでお願いします」
「両方ですか?」
 そう問われて、あっとかなでは呟く。かなではちらっと冥加を見上げ、次に他のぬいぐるみよりも目つきの鋭いテディベアを見やる。そうして、
「その子も、後日で」
「かしこまりました」
 店員は追及するまでもなく、そのまま会計を進めていく。隣に立つ冥加から視線を外しつつも、かなでの中ではしっかりと名前が決まっていた。

 そうして会計が終わった後、最後に綿を詰める作業が冥加に取って最大の難関なのであった。



「はい、ではこの子にココロを入れてあげるのでハートを選んで温めてください」
「ほら、冥加さん」
「……なんで俺がやるんだ」
「詩織ちゃんへのプレゼントですよ!」
「貴様がやれ」
「じゃあ、一緒にやりましょう」
「やらん」
「はい、じゃあハートは冥加さんが選んでください」
「……」

拍手[2回]

PR

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

カレンダー

01 2025/02 03
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28

P3P

ザックス身体測定

プロフィール

HN:
なづきえむ
性別:
女性
職業:
萌のジプシー
趣味:
駄文錬成

バーコード

ブログ内検索