ミーンミーンと蝉の鳴き声が騒がしい。
日差しもきつく、太陽の光を照り付けるアスファルトからは日差しが反射して、目が痛いくらいだ。
「暑い」
「ウルセー」
コンビニに到着した途端、琉夏の発した一言には兄の罵声が返された。琥一はさっさとバイクのエンジンを切ると、さっさとコンビニの店内へと入っていってしまう。琉夏もそれに続くようにバイクから降りて、兄の後を追う。いらっしゃいませーという間延びした店員の声を聞き流しながら、琉夏はまっすぐにアイスコーナーを目指す。対する琥一は、適当な雑誌を手にしてページを捲っていた。
さすがに店内はエアコンが効いていて快適だ。WestBeachにある唯一の冷風材料である扇風機(拾いもの)が、先ほど寿命を全うしてしまったらしく、うんともすんとも言わなくなってしまったので、応急処置としてコンビニに非難してきたというわけである。今は天国だが、あと数分であの灼熱地獄のような場所に戻るのかと考えてると、若干どころか相当うんざりしてしまう。冬よりは夏の方が比較的好きだが、それにしても限度がある。琉夏は少しでも涼しさを継続させようと、ソーダ味のアイスを手に取った。それを持ったタイミングで、いらっしゃいませーという店員の声が上がる。琉夏はなんとはなしにそちらへと目線を向ければ、入口の所に立っている一人の少女と目が合った。
「琉夏くん」
「美奈子」
まさかの幼馴染との再会に驚いていれば、それに気づいたらしい琥一も雑誌をおいてやってきた。
「二人とも、お買いもの?」
「ていうか、涼みにきた」
「ええっ?」
「扇風機、壊れちゃって。WestBeachにエアコンねえし」
「あ、あー…」
言う琉夏の言葉に、美奈子は色々なことを察したらしい。彼女も数回遊びに来ているだけに、あそこの偏った設備は把握済みだ。冬なんて、室内なのに上着を着て過ごすこともある。
「大丈夫? 熱中症とかにならないでね?」
「だってさ、コウ。そういうわけだからエアコン買ってきて」
「バカ、買うわけねえだろ」
「じゃあ拾ってこいよ」
「テメエはもう暑さでイカれてんのか」
「二人ともっ!」
こんな掛けあいは日常茶飯事ではあるが、さすがに狭いコンビニ店内では目立ってしまう。レジ横に立つ店員がちらちらとこちらに視線を送っているのに気がついて、琉夏は軽く肩を竦めて見せた。
「とりあえず、ここはやめとこう。平和的にアイスで解決だ」
「意味わかんねえ」
「美奈子、コウが奢ってくれるって」
「テメエは本当に人の話を聞かねえのかコラ」
「琉夏くんも琥一くんもストップ!」
ぐい、と二人の間に割って入った美奈子が、下から見上げて目を吊り上げていた。ちょっとだけその勢いに面食らうと、琥一は舌うちをし、琉夏は降参とばかりに手を上げた。
「ケンカしないの。アイスならうちにあるから、良かったら寄ってく?」
「え? いくいく」
「おい、バカルカ」
「コウは行かねえの?」
「…んなこと言ってねえだろ」
「じゃあ、決まり」
ね? と吊り上げていた目を笑みに変えて笑う幼馴染に勝てる術など、この兄弟には用意されていないのであった。
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