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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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A.P.H.(日本とアメリカ)


 ――勘違いをしていた。


 何百年に及ぶ鎖国に終幕を降ろすきっかけとなったのは、唐突にやってきた黒船の来訪だ。数百年と天との岩戸のように固く閉ざされていた我が国だったけれど、一度開いてしまえばあとは簡単。瞬く間に世界は開け、国は変革を始め、たくさんの知識を得ようと躍起になった。着物から洋服へ変わるように日用品から食文化と幅広く欧米の文化が世の中に溢れ、まるで自分が強くなったかのような、そんな勘違いをしていた。驕りが自滅へと導くことなんて、今までの歴史からわかっていたはずなのに、そこまで考えが追いつかないほどのぼせていたのだろう。一気に開けた世界は魅力的すぎて、冷静な判断を鈍らせていた。
 このまま世界のすべてが自分のものになればいいと思うのは、国として生まれた所以。強くあろうとするのは当然のことだとしても、なぜ。こうして武器を持ち、戦うことしか術はなかったのだろうと考えるのは、自身の敗戦が確信に変わったところでようやく気がつかされたから。
 もっと他に道があったはずではないか、と。遅すぎる後悔に飲み込まれそうになる。

「…日本」

 目の前に立つ、若くして大国と成ったアメリカがまっすぐにこちらを見据える。
 いつもはひまわりのような笑顔で笑いかけてくれるのに、今はそんな表情が伺えるはずもない。
 刺すほどの冷たい視線を受け、日本は知らずに奥歯を噛み締めた。

「チェックメイトだ」

 静に。けれど冷淡な声が響く。
 嗚呼、わかっている。わかっていた。どれほどの覚悟や様々なものを投げ出しても、とうの昔にこの国の敗戦は決まっていたのだと。
 それでも日本はアメリカから地面へと目線を落とす。真っ白だったはずの軍服はすっかり薄汚れてしまい、それがまた惨めな気持ちに拍車を掛ける。

「アメリカさん」
「日本。これ以上の戦いは無理だと、賢い君ならわかっているだろう」
「でも、私は」
「日本」

 びくり。肩が跳ねて身を強張らせれば、じゃり、とアメリカが地面をする音がやけに耳につく。ふっと自分に影が落とされ、俯いた視線先に相手のつま先が見えた。それでもなお、日本が顔を上げずにいれば、アメリカが短く息を吐いたのがわかる。そして、

「オレに、奥の手を出させないでくれ」

 そのどこまでも底冷えするような声音に、日本はただ、頷くしかなかった。 



--------------


いや米日ではなくあくまで日本&米のつもりなんだけど、な!
最後の最後でなんであんなどS仕様になったんだアメリカ…

しかしAPHネタはデリケート過ぎて難しい…!!

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俺と受験と夏休み(ヒバツナ文)⑥



 ついに、夏休みは最終日まで後二日を残すのみとなった。
 綱吉は朝起きてからお昼を回る前に、(どこからか)雲雀が用意してきた並盛大学入試の過去問をやらされていた。
 高校最後の夏休みを犠牲にしたのである。さすがの綱吉も少しは――というか、絶対合格圏内には入りたい。否、入らなければ自分の命の危険性をひしひしと感じていた。最近の雲雀は夏休み前に比べるとひどく親しみやすくなったけれど、忘れてはいけないのは彼が雲雀恭弥その人だということだ。
 雲雀の機嫌を損ねたがゆえに何度もトンファーの餌食になってきたじゃないか、と。忘れかけていた恐怖を思い出して、綱吉は強くシャーペンを握り直した。

「そこまで」

 まるで本番の試験さながら時計を持っていう雲雀はまるで、最後の審判を下す死神のようにみえる。口が裂けてもそんなこと言えやしないが。
 綱吉は握っていたシャーペンから手を離し、過去問の用紙を雲雀に差し出した。
 雲雀は差し出された用紙を受け取れば、早速赤ペンを取り出して採点に入る。マル、バツ、マル、マル、と雲雀の指先が流れるように動いていくのを見守りながら、綱吉は生きた心地がしない。

(どうかギリギリのラインの点数はとれていますように!)

 祈るように両手を握りしめていれば、「終わったよ」という雲雀の声に、綱吉はびくっ、と大げさなくらいに肩を揺らした。そろそろと伺うように雲雀を見れば、その手には採点された過去問の用紙があって。
 トンファーが飛んでくる気配は、ない。

「まあ、このまま勉強を怠らなかったら受かると思うけど」
「あ、ありがとうございます!」

 受け取った過去問を見直して、今日まで生きてきた中で一番マルのついたプリントを目の当たりにしてしみじみとがんばったなあ俺、と綱吉は呟く。正しくは雲雀の恐怖政治によく耐えた、ともいうけれど。

「今日は外でご飯食べようか。奢ってあげる」
「えええ!?」
「何」
「いや、雲雀さんの優しさにちょっとびっくりして…」
「噛み殺されたい?」
「遠慮します」

 咄嗟に土下座をする綱吉だったけれど、雲雀が冗談でいっているのはわかっていた。その証拠にトンファーを構えることはせず、変わりにキッチンへと向かっていった。
 キッチンへ立って、お湯を沸かす雲雀の背中をぼんやりと眺めながらいつからだろう、と綱吉はふいに考えた。
 いつから、こんな風に雲雀と冗談をいえる関係になっていたのだろう。
 ずっと恐怖の対象でしかなかった雲雀恭弥という人間に、それ以外の感情を覚え始めたのは。

(俺は、雲雀さんを)

 胸中で言いかけた言葉を慌てて否定するように首を振る。駄目だ。こんなの。こんな、こんな感情は雲雀に迷惑が掛かる。
 綱吉はまるで自分の気持ちに蓋をするかのようにぎゅっ、と目をつむる。気づかれては、いけない。一方的な自分の感情を気づかれてはいけないと。言い聞かせるように独りごちれば、雲雀がコーヒーを淹れて戻ってきた。
 無言で置かれた綱吉の分のコーヒーをありがとうございます、と受け取れば、砂糖もミルクもいれていないブラックのコーヒーを一口飲み込むと、独特の苦味が口内に広がり。
 それは、まるで。
 今の自分の気持ちを代弁してるようだと。
 思った。









(明日は帰るのか)

 真っ暗な天井を見上げて、綱吉はぼんやりと考える。
 夕飯は雲雀が言った通りに、彼の奢りで外へ食べに出かけた。どこにいくのかと思えば行き着いた先は山本の実家である寿司屋で、暖簾をくぐればたまたま店の手伝いをしていた山本に声を掛けられた。そのまま山本とたわいもない会話を交わせば、あからさまに雲雀から不機嫌オーラを察知し、これ以上ここにいるのは危険だと判断した綱吉は慌てて山本の父親に持ち帰り用の寿司をお願いして結局は雲雀のマンションで夕飯を済ませたのだ。

(まあ、奢ってもらったことに変わりはないし)

 ちらりと、綱吉は横目だけで雲雀を見る。明かりの点いていない寝室ではただの黒い影にしか見えないけれど、雲雀は確かに隣で寝ている。
 このマンションに拉致されてきた日は、雲雀の隣で寝るだなんて天地がひっくり返ってもありえない! てゆうか無理! と騒いでいたのに、今ではすっかり一緒に寝ることに抵抗などなくなってしまっていた。むしろ定着すらしているのではないか、と。そう思うと、何だか妙な気分だった。
 夏休みの開始と同時に始まった雲雀宅への泊まり込み大学受験合宿は、一日目からして帰りたくて帰りたくて仕方がなかったのに、今は。帰ることが少しだけ――寂しい。
 決して楽しいことばかりではなかったし、たまに(とゆうか頻繁に?)トンファーで殴られたりもしたけれど、それでも夏休みが終わってしまうことが。雲雀の傍から離れるのが寂しいと思うのは、やっぱり、

(俺、雲雀さんのこと)

「沢田、起きてる?」
「はいぃっ!?」

 寝ているとばっかり思っていた雲雀から突然声を掛けられて、驚いた綱吉は素っ頓狂な返事をしてしまう。どっ、どっ、どっ、とうるさく鳴る心臓を静めることもできないままでいれば、のそり、と隣にいる雲雀が起き上がる気配。次いで、覆い被さるように雲雀が綱吉の顔の横に手をついてきた。
 心臓が、うるさい。

「ひばり、さ」

 綱吉が名前を呼ぶ唇に、雲雀の唇が触れる。ちゅ、と軽く音をたてて触れたそれは離れ、またすぐに重なる。何度も触れあわせるだけのキスを繰り返すと、雲雀は囁くようにして綱吉に訊く。

「抵抗しないの?」
「いや、その、なんていうか」
「抵抗しないならこのまま続けるけど」
「……さすがにそれはちょっと待ってください」

 どこから突っ込んでいいのかわからず、綱吉は冷静に対応してるようではあるが頭は完全にパニックを起こしていた。雲雀はなおもキスを続けてくるものだから余計に冷静な判断などできようはずもない。

(何で? どうして? 何で俺雲雀さんとキスしてるの、ていうかこれはされてるんだよな? え? 何で雲雀さんが俺にキスするのか意味がわかんねーよ!)

 混乱した思考のまま、とりあえず雲雀の下から抜け出そうと試みるが、更に体重を掛けて密着されれば雲雀の顔が。唇が、耳許に寄せられる。そして、

「綱吉」

 そう、呼ばれて。
 ぴたり、と綱吉の動きが止まった。
 今。
 今、雲雀さんは「沢田」じゃなくて、「綱吉」と、呼んだ?
 幻聴かと目を見開けば、まるで見透かしたように雲雀が「綱吉」と名前を呼んでくる。

「雲雀、さん」
「綱吉、綱吉、…つなよし」

 何度も繰り返し名前を呼んで、雲雀は綱吉の身体に触れる。パジャマ代わりのTシャツの上から探るように手を動かされれば、ぞくりと背筋が粟立った。

「ん、んっ」

 咄嗟に逃げるように身体を動かせばば、それを封じるように雲雀が抱きしめてくる。首筋にキスをされて、そのままなぞるように唇が鎖骨を辿る。明確な意思を持つ手の動きに困惑しながら、けれども綱吉は流されまいと必死に口を開いた。

「ひばりさん、こんな、の。俺、勘違いしますよっ?」
「勘違い?」

 綱吉の言葉に、ぴくりと反応した雲雀は動きを止める。
 暗闇とはいえ、慣れた視界とこの近さならば相手の表情は十分に伺える。つまりは雲雀が怒っているのはどうしようもないほどにわかってしまうわけで。しかしこのまま、有耶無耶に流されたくはなかった。

「ひ、雲雀さんが俺のことすき、とか…そういう…勘違、いてぇッ!」

 がぶっ、と。綱吉が最後までいう前に、雲雀の犬歯がまるで言葉を遮るかのように首筋に噛みついてきた。しかも思い切り。

「この僕が、冗談でこんなことするとでも?」

 手加減も遠慮もなく噛みつかれた痛みに悲鳴を上げれば、不機嫌な雲雀が犬歯をぎりぎりとつきたてまま(痛い!)地獄を這うような声音(怖い!)で訊いてくる。

「ねえ、本気で思ってるのかい?」

 やばい。綱吉は本能的に悟った。
 今の雲雀の不機嫌度は近年稀に見るほどの不機嫌さだ。これはあれだ。骸を目の前にした時と同じくらいの不機嫌さじゃないだろうかってそれはかなりの生命の危機に瀕している!
 しかも、その不機嫌の原因が自分ときた。
 そして何より、重ねて訪ねられてくるその内容には、首に走る痛みとは別の意味で泣きたくなった。
 だって、それは、つまり。

「雲雀さん、俺」

 我慢しなくていいってことですよね?

「雲雀さんのこと、すき、です」

 言った後はどうしようもなく恥ずかしかったけれど、「よくできたね」なんてさっきの不機嫌オーラはどこにいったのか、優しく笑う雲雀をみたらもうわけがわからなくなった。
 その後は文字通り、別の意味で訳が分からなくされてしまったのだけれど。




 *




「じゃあ、お世話になりました」

 来た時と同じくらい軽い荷物を手に、玄関に立った綱吉は雲雀を見上げて、言った。
 それから一歩、玄関から足を踏み出すと、「綱吉」と雲雀に呼ばれる。当然のように「沢田」から「綱吉」と呼ばれることが少しだけ恥ずかしくもあったけれど、嬉しいのも本音だ。綱吉が振り返れば雲雀は珍しく困ったような表情で、

「受験が終わって、合格したらまた……ここに住まない?」

 と、言う。
 一瞬、雲雀の言葉に動きを止めた綱吉であったけれど、それは本当に一瞬で、

「……はいっ!」

 次の瞬間には満面の笑顔で頷くと、綱吉は雲雀のマンションを後にした。
 それからまた数ヶ月の月日が過ぎて、季節は夏から冬に変わってから再び喜びの報告と共に綱吉はこのマンションにやってくるのだけれど、それはまだ。
 もう少し、先の話。


------------

終わり!

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俺と受験と夏休み(ヒバツナ文)⑤



「出掛けるよ」

 夏休みもあと二週間余りとなった今日、唐突に。
 何の脈絡もなく雲雀はいうと、綱吉の返事も聞かずにさっさと出掛ける支度を始めてしまう。
 シャーペンを握りしめ、参考書を開いて懸命に課題と格闘していた綱吉は即座に雲雀の言葉と動きに反応ができずにいたが、目が合った雲雀から促されるような視線を受けるとようやく我に返った。慌てて使っていたノートやら参考書やらをおざなりに片付けると、出掛ける準備を始める。とはいっても所詮一介の高校生。出かける準備とはいってもテーブルの上に置かれた携帯電話と、トートバッグに入れっぱなしの財布を取り出してジーンズの後ろポケットにねじこむくらいだ。
 そうして綱吉は玄関で待つ雲雀を追い掛けるが、すでに靴を履き終わっている彼に「遅い」と言われてしまった。すいません、といつものように謝って軽く頭を下げれば雲雀の横をすり抜ける。綱吉が出て、誰もいなくなった玄関のドアに鍵をかけたのを確認すると、二人はマンションを後にした。

「そういえば今日、花火大会でしたっけ」

 連れて行かれた先の賑わいを目の当たりにして、綱吉は雲雀を見上げた。
 道の左右には様々なテキ屋が軒先を連ね、すれ違う人たちの浴衣姿が目に留まる。

「僕は集金があるから先に神社の方にいってて」
「……まだそれ、やってたんですね」

 ひくり。
 昔の記憶を思い出して、綱吉は思わず頬を引きつらせた。
 雲雀と別れて一人になった綱吉は、獄寺や山本と一緒にチョコバナナの店を出したりしてたなあと昔を思い出していた。何とはなしに目に付いた店のチョコバナナを一本買ってみれば、ついでとばかりにたこ焼きと焼きそばとトウモロコシも購入し、チョコバナナをほうばりながら目指すのは雲雀にいわれた神社だ。
 さほど掛からずして到着したその神社は、昔から変わらない面影そのままを残しながら、ひっそりと佇んでいた。
 実はここが隠れた花火スポットなのだが、何故かあまり知られることがない。まあ、だから「隠れたスポット」なのだし、人混みを避けて静かに花火を堪能できるのは得をした気分で素直に嬉しい。
 綱吉は適当な芝生の上に腰を下ろすと、購入した焼きそばとたこ焼きとトウモロコシのどれから食べようか悩んでいれば、ドーン! と腹に響く音が上がった。更にその音の後には、空に満開な光の華が咲く。思わず手を止めて、連続で上がる花火を見上げる。

「きれいだなあ」

 毎年変わらない花火に素直な感想を口にする。
 と、唐突に見上げていた視界が暗くなったかと思えば、いつの間にか集金から戻ってきた雲雀が綱吉を見下ろしていた。

「ひば、いて」

 綱吉が雲雀を呼ぶ途中、上から何かが落下してきた。雲雀が綱吉の顔の上へとぺち、と軽い音を発して落下させた「それ」を手にとって見れば、「合格祈願」と書かれた小さな御守りだった。
 綱吉は驚いて雲雀を見ると、雲雀はそっぽを向いて自分の隣に腰を下ろす。

「雲雀さん、これ」
「さっきもらったから、あげる」
「……もらったんですか?」
「何か文句でもあるの?」
「ありませんよ」
「…噛み殺されたいみたいだね」
「何でそうなるんですか!」

 ようやく綱吉をみたと思った雲雀は手にトンファーを握っていて。
 咄嗟に逃げるようとするけれど、手にあるお守りの存在に自然、頬が弛むというもの。
 「もらった」と雲雀はいう。それが本当か嘘かわからないけれど、どちらにしても。自分のことを考えてくれたのだと、少しは自惚れてもいいだろうか。

「雲雀さん」
「なに」
「俺、受験がんばりますね」

 そう、綱吉がいえば。
 雲雀は彼の買ってきたたこ焼きの一つを口に放り込みながら、

「当然でしょ」

 と、ぶっきらぼうに返した。

 綱吉は雲雀から夜空へと視線を上げれば、変わらずに花火が止むことなく打ち上がり続ける。
 しかし、変わらない花火とは違って「何か」が綱吉の中で変わり始めたことにはまだ、自覚していなかった。




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俺と受験と夏休み(ヒバツナ文)④


「ええっ? ランボが夏風邪?」

 朝、母親からの電話に何かと思って出てみればそういう事だった。
 ビアンキとリボーンはすでに一日出かけてしまっているらしく、奈々は奈々で今日の夜には高校の同窓会があるとかで家にはイーピンとフゥ太しかいなくなってしまうらしい。

『だからね、つーくん。お勉強がんばってるのに悪いんだけど、今日だけお家に帰ってきてくれないかしら?』
「あー…わかったよ。ちょっと雲雀さんに言ってからそっち戻るから」
『ごめんね~』

 ぴ、とボタンを押して通話を切ると、綱吉は携帯を閉じた。やれやれとため息を吐いて、夏の日射しが照りつけるベランダから室内へと戻る。ひんやりとした冷房の空気に迎え入れられれば、綱吉はテーブルに頬杖をついてニュースを見ている雲雀の隣に腰を下ろした。

「雲雀さん、ちょっとお願いがあるんですが」
「ん?」

 テレビから綱吉へと視線を向けて、雲雀は短く訊く。綱吉はえーと、と少し言い淀んでから口を開いた。

「あの、ランボが夏風邪引いたらしくて、今日一日フゥ太とイーピンしかいないみたいなんです。明日には戻ってくるんで、一度家に戻ってもいいですか?」
「ふうん」

 いう彼の言葉にそう軽く相槌を打つと、雲雀は少しの間の後にいいよ、とそっけない返答をして再びテレビへと視線を戻してしまった。

「雲雀さん?」
「なに」
「あ、いや。じゃあ俺、支度しますね」
「ん」

 と、返事を返す雲雀の視線はやはりテレビに向けられたままだ。
 何となく――本当に何となくだけど綱吉は雲雀の様子に僅かな不自然さを感じた気がした。けれど、『不自然』と思ってはみたものの。それが何なのかと聞かれれば説明の言葉が思い浮かばない。
 それでも何だかしっくりこないなあと首を傾げるけれど、目の前の雲雀はテレビから流されるニュースをぼんやりと見ているだけ。
 結局綱吉は「気のせい」だと無理矢理言い聞かせて、自分を納得させてから立ち上がった。



 *



「ただいまー」
「お帰りツナ兄!」
「おかえりなさい!」

 久しぶりの我が家に顔を出せば、フゥ太とイーピンが飛びかかる勢いで綱吉を出迎えてくれた。足やら腕やらにまとわりつく二人をそのままに自分の部屋に向かえば、布団にくるまって呑気に寝ているランボの姿があった。

「なんだ。風邪引いたって聞いてたけど意外と大丈夫そうだな」
「うん、昨日の内に熱は下がったから今日は様子見みたいなものなんだ。ママンが心配性だからツナ兄がいた方がいいだろうって」

 チビ達の中では「お兄ちゃん」のフゥ太がにこにこと答える。床に座って寝ているランボの額に触れてみれば、確に掌に感じる体温は平熱のようだ。それなりに心配をしていた綱吉はほっ、と安堵の息を吐く。すると、フゥ太が機嫌よく綱吉の背中に抱きついてきた。

「ねえねえツナ兄! 久しぶりなんだし、ゲームの対戦しようよ!」

 いうフゥ太に便乗して、イーピンもまた綱吉の膝の上に乗り上げ、すっかり上達した日本語で構ってくれと主張してくるではないか。

「おまえら、俺が受験生だってこと忘れてるだろう」

 一応建前のように言ってはみるものの、なんだかんだで綱吉自身も久しぶりに感じる騒がしさが楽しくて。強請られるままテレビに繋げた状態のゲーム機を起動させれば、フゥ太が最近買ったばかりの格闘ゲームのソフトをセットした。スタートボタンでオープニング画面を飛ばして、対戦モードを選択。キャラクター画面に移行すれば、綱吉とフゥ太は各々得意なキャラクターをセレクトした。対戦の開始だ。
 テレビから『Fight!』のかけ声が掛かると二人は慣れた手付きでコマンド入力を繰り返し、最初は綱吉が優勢になる。フゥ太のキャラクターが徐々に、けれど確実に体力が減っていく。と、劣勢だったフゥ太は綱吉の攻撃を交したその瞬間を見逃さず、すぐさま超必殺技を繰り出した。狙い違わず、それは綱吉のキャラクターに命中。更にふっ飛んだ相手を追い掛け、続け様にコンボを叩き込められてしまえば勝者はフゥ太であった。

「やったー! 僕の勝ち!」
「まじかよ…」
「ツナ兄、もう一回!」
「望むところだ!」

 いうなり綱吉は腕捲りをし、臨戦態勢に備えて膝に乗せていたイーピンを下ろした。再び画面はキャラクター選択に戻り、今度は違うキャラクターにしようと綱吉はカーソルを移動させていく。
 と、

「ツナいるー! ランボさんもゲーム!」

 突如背後から上がった騒がしい声に振り返れば、いつの間にか起きてしまったらしいランボが布団から這い出てきたところだった。
 綱吉の腕の中に頭を突っ込めば、もぞもぞと妙な動きでコントローラーへ手を伸ばす。

「こらランボ! おまえはおとなしく寝てろ!」
「ランボさんも遊ぶもんね!」
「俺がなんで帰ってきたと思ってるんだよ!! いいから布団に戻れっ」
「あーそーぶー!」

 ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ。

 プラス一人(一匹?)が増えただけなのにも関わらず、一気に部屋は火のついたような大騒ぎになった。
 へばりつくランボを引っ剥がして布団に押し戻すと、息つく暇もなくかまえかまえと言わんばかりに甘えてくるフゥ太とイーピン。仕方がないのでその二人の相手をしてやっていれば、またもやランボも「遊ぶ!」と騒ぎはじめるからエンドレスループだ。
 綱吉はどうにかこうにか三人の相手をしてやっていると、あっという間に時間は過ぎて夜になってしまっていた。
 フゥ太、ランボ、イーピンの三人に母親の奈々が用意してくれていた夕飯を食べさせた後は、騒ぎ疲れたのか三人共ぐっすりと寝に入ったのを見て、ようやく綱吉は人心地着いた。
 そうしてフゥ太の布団を掛け直してやると、ふいに雲雀のことを考えた。

(雲雀さん…ちゃんとご飯食ってるかな)

 どうせ明日には戻るというのもあって、深く考えずに出てきてしまったけれど。
 そういえば冷蔵庫の中に食べられるものがあっただろうかと考えを巡らせてみる。

(どうせなら何か作ってきた方がよかったか。て、いっても一日だけだし、そんな心配することないよな? ランボじゃないんだし)

 胸中で呟いて、また。今朝、雲雀に感じた違和感を思い出す。気のせいだと思い込もうとすればするほど、それは綱吉の心に波紋を広げる。
 何だろうか。この雲雀に対しての不自然さは。否、不自然というよりは、違和感といった方が近い気がする。それは雲雀が、ではなく、

(俺が?)

 つと。
 そこで思考が止まる。何か。はっきりとしないけれど、『何か』が掴めそうな気がした。けれど、突如発したランボの「ガハハハハ!」という寝ぼけ笑いに阻まれて結局は掴みきれずに思考は霧散されてしまった。

「……寝よ」

 言うなり、綱吉はため息を吐いて無理矢理目を閉じたけれど。
 眠りに辿りつくまではまだ少し、遠い。




 *





 次の日。
 自宅から雲雀のマンションに戻る途中に寄ったスーパーの買い物袋を下げた綱吉は、彼の部屋の前でインターフォンを鳴らすのを躊躇っていた。

「うーん」

 一人ドアの前で唸りながら、何をこんなに緊張しているんだろうか、とか。たった一日しか経っていないのに、とか色々言い訳をしながらも、指がどうしてもインターフォンを押せないでいる。
 やっぱり何も変わっていない黒いドアを見つめ、中にいるであろう雲雀を想像すればまた、うーんと唸ってしまう。

(あーもう! どうにでもなれ!)

 買い物袋の重さに指が痺れてきたのも手伝って、半ばヤケになりつつ綱吉は腕と指をインターフォンに向けて伸ばした。

 ピンポーン。

 単調な電子音が鳴って、綱吉の来訪を室内へ告げる。少しの間の後に室内にあるインターフォンの受話器が上がる気配に続いて、声。

『誰?』
「あ、俺です! 沢田です!」
『……空いてる』

 それだけ言われて、通話は切られた。綱吉は言われた通りにドアノブを回してみれば、雲雀のいう通り鍵は掛かっておらず(不用心だな!)、玄関を開けて中に入るとちょうど雲雀が顔を出したところで。
 ばっちり視線が合ってしまった。

「…ただいま、戻りました」
「おかえり」

 へら、と何とか笑ってみれば、昨日と何ら変わらない雲雀から出迎えの言葉を返された。
 そのまま雲雀は綱吉に歩み寄ると、おもむろにその黒い頭をぽすり、と綱吉の肩に乗せてきた。
 予想外の行動に思わず持っていたスーパーの袋を落としそうになったけれど、中に卵が入っていたことで綱吉を現実に引き留めてくれた。が。ある意味生き地獄だ。

「雲雀さんっ?」
「……お腹空いた」
「へ?」

 ぽそ、と言われた呟きに、思わず間の抜けた声を上げてしまった。そしてまさか、とある考えが浮かんで口の端が引きつった。

「…雲雀さん、昨日何食べました?」
「食べてない」
「はあ!?」
「面倒だったから食べてない。どうせ沢田、今日戻ってくるから」
「いや確にそうですけど! でもだからって何も食べないで待たないでくださいよ!」
「君が今すぐ作ればいい話じゃない?」
「……それ、屁理屈っていいませんか?」
「僕に意見するなんて偉くなったものだね?」
「食べたいものは何でしょうか雲雀さま!」


 肩から頭を上げた雲雀の顔が至近距離で笑うものだから、本気で泣きそうになった綱吉はそう言うしかなかった。
 雲雀はそんな綱吉に満足したのか「ハンバーグ」とだけ言い残して、手に持っていたスーパーの袋を奪うとさっさとキッチンに向かう。

 果たして。

 綱吉の買い込んできた材料がハンバーグだと知ってのことかどうか、確かめる術はないけれど。
 去り際に、ふっ、と。
 微笑むようにして笑った雲雀に一瞬どきりとしてしまったのは、言わないでおこうと誓った。





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俺と受験と夏休み(ヒバツナ文)③


 人間の適応力っていうものはすごいなあと、綱吉は他人事のように思いながら目を覚ました。
 雲雀のマンションへ強制合宿を強いられてから一週間が経過していた。
 初めてここに拉致されてきた時は様々なプレッシャーに押しつぶされそうだったけれど、三日も経てば人は現状を受け入れるしかなくなるらしい。否、確かにそれもあるが、中学一年のある日からいきなり赤ん坊のヒットマンが家庭教師として押しかけてきてからはマフィアのボスになるべく、撃たれたり死んだり生き返ったり修行したり暗殺部隊と戦わされたりと現在進行形で(※ここ重要)忙しい為、綱吉には非現実を受け入れてしまうというあまり嬉しくない免疫が知らずについてしまっていた。
 目の前で起きて、巻き込まれていく日常をどれだけ否定しようが逃げようが、それらが叶うわけがないと本能で悟った上での諦め、ともいうけれど。
 そのことに少しだけ落ち込みながら、綱吉は上半身を起こした。隣ではいまだ眠りにつく雲雀がいる。
 雲雀の部屋に夏休みの間だけ住み込むのは覚悟したのだが、よくよく考えれば『あの』雲雀恭弥の家に客用の布団などあるはずがなく。初めて訪れた日の夜に、床で寝ろと言われるのを覚悟していたのだが、返ってきたのは予想外の返答だった。

「一緒に寝ればいいだけでしょ」

 さらりと。
 事もなげに言われた言葉に反応できず、その日何度目かの思考停止体験を経験した。
 確かにあの日はうっかり気を失って、気がついた時には雲雀のベッドに寝かされていた。ついでに目を覚ました時には何故か隣で雲雀が昼寝をしていたけれど。
 あれだけでも心臓に悪いというのに毎日一緒に寝るだなんて!
 綱吉は胸中で頭を抱えはしたが、かといって毎日床で寝るのは正直、しんどい。
 結局綱吉は様々な葛藤の末、雲雀のベッドに寝かせてもらうことになったのだけど、それとは別にいつの間にか朝昼晩のご飯係りになってしまっていた。

(だってあの人、放っておいたら何食べてるかわからないし!)

 すでに冷蔵庫内は綱吉の領域だった。初めの一日目は夕飯しか食べていなかったのでわからなかったが、雲雀は基本的に自分で料理をしないらしい。まあその辺は想像の範囲内だったけれど、それ以前に彼は食事を買いに行ったり食べに行ったりという行為が面倒のようで。食べることは嫌いではないが、買いに行くのが嫌だという。そうなると必然的に出前が多くなるのだが、電話を掛けるのも億劫な時も少なくないらしく、そうなると雲雀の主食は専ら栄養ゼリーやカロリーメイト等々。
 さすがの綱吉も三日目には見ていられなくなったのと、自分もそれだけでは辛くなっていたのもあって勉強を教えてもらっているお礼(お詫び?)も兼ねて料理をする役を買って出た。
 とはいっても所詮一介の男子高校生。作るといっても大ざっぱなものしかできないというもの。けれど、沢田家には面倒を見なければならない子供たちが多数居候しているので、食べられないものではない。この時ばかりは母親・奈々の「今時の男の子は料理くらいできなきゃだめよ~」と無理矢理台所に立たせてくれてたことをありがたく思った。

(それにしても)

 ちらりと、綱吉は隣で眠る雲雀の姿をみて、

(あんなんばっかりしか食ってないのに俺より身長が高いなんて、詐欺だ!)

 そうぶちぶちと文句を独りごちながらベッドを抜け出した。
 ダイニング兼用のキッチンに立つと、乾かしておいたフライパンをガスコンロの上に置いて火を点ける。適度に熱したところに油を引いて卵を割り入れれば、怒りをぶつけるように菜箸を動かしてスクランブルエッグを作りあげていく。再び冷蔵庫を開けてレタスを取り出し、ざっと洗って適当にちぎった葉を皿にのせる。その上に先ほどのスクランブルエッグを加えて、トーストとコーヒーを用意しようとすれば、背後でドアが開く。

「おはよ」
「おはようございます」

 ふわあ、とあくびをひとつあげて、雲雀は顔を洗いに洗面所に向かった。
 雲雀が戻る頃にはすっかり朝食は出来上がっていて、テーブルについた雲雀は今日配達された新聞を広げる。綱吉はコーヒーを淹れたマグカップを二つ持って座れば、一瞬、あれなんかこれ夫婦みたいじゃない? とか思ってしまった。そんな馬鹿な。


 ともあれ。
 二人の朝は何だかんだでこんな調子で、一日は始まる。







「沢田、ここの計算間違ってるよ」
「あ、すいません。どこですか?」
「五問目と六問目。この二つは引っ掛け問題だから」

 気をつけて、と雲雀は綱吉が間違った問題をスラスラと解いてみせる。
 流れるような文字を目で追いながら、雲雀の教え方はうまいなあと感心してしまう。否、うまいのは綱吉の苦手な部分を見つけることが、かもしれない。今みたいに数学の問題を解いて行き詰まればどこで計算式が食い違っているのかをすぐに指定くれるものだから、さすがの綱吉にもわかりやすい。
 雲雀は五問目の問題を解いてみせては六問目を解いてみなよ、と綱吉に言った後は再び文庫本を開いた。

(こうして黙っていれば、きれいな人なんだよなー)

問題を解いている合間にちらりと雲雀を見て、思う。少し癖のある黒い髪と、髪と同じ色の目は切長で。縁取るような睫は長くて更に雲雀の容姿を際立たせているというもの。雲雀の性格、というか行動故に表だって騒がれたりはしないけれど、それでもしっかりと根強いファンがいることを綱吉は知っている。

「…ねえ、僕に何か言いたいことでもあるの?」
「うわすいません! ぼんやりしてました!!」

 少しのつもりがいつの間にか雲雀を凝視してしまっていたらしく、文庫本から不機嫌に上げられた目線から逃れるように、慌てて問題に向き直った。しかし、雲雀は本を閉じて綱吉に手を伸ばしてきた。
 やばい噛み殺される! と覚悟して目を閉じるものの、その手が綱吉に届く前に携帯の着信音が部屋に鳴り響いた。

「君じゃないの?」
「すすすすいません!」

 ピカピカと点灯を繰り返して鳴り続ける携帯電話を放られて、綱吉は謝りつつも受け取った。慌てて携帯を開いてみれば、ディスプレイ画面には「獄寺隼人」の文字。

(獄寺、くん?)

 どうにも嫌な予感しかしないけれど、かといって出ないわけにもいかない。綱吉はささやかな抵抗として雲雀に背を向けると、覚悟を決めて通話ボタンを押した。

「もしも…」
『ご無事ですか十代目ー!!!!』
「ご、獄寺くん…」

 飛び込んできた予想通り過ぎる獄寺の叫び声に、綱吉はひくりと口許を引きつらせた。
 やばい。この調子だと獄寺くんは今、俺がどこにいるか知ってしまっている。
 一気に頭の中に起こりうる最悪の事態が駆け抜けた。ちらりと、綱吉は背後にいる雲雀の様子を伺ってみる。雲雀は無関心を装うように読書を再開させてはいるが、纏っているオーラは間違いなく不機嫌そのものだ。
 絶対さっきの獄寺くんの声聞こえてるよ! と板挟みな現状に泣きたくなったけれど、今は泣いている場合じゃない。

「獄寺くん、えと、どうかした?」
『リボーンさんから聞きましたよ! 今、雲雀の野郎に拉致されてれしいじゃないですか!? すぐに助けにいきますから…っ!』
「うわあああ! ちょっとまってちょっとまって落ち着いて獄寺くん!」
『安心してください十代目! 俺のダイナマイトで跡形もなく片付けますから!』
「だからちょっと待ってってばー!!」

 それが一番嫌なんだってば!
 そう続けることはできないのがもどかしい。しかしここで諦めてしまっては、自分を守る為! と使命感に燃えた自称右腕と、並盛最強の元・風紀委員長のバトルで軽くマンションの一つや二つの犠牲が出るのは明白。綱吉は獄寺の勢いに負けないくらい声を張り上げて、必死に彼の誤解(拉致の部分はこの際スルーして)を解くべく言葉を選んで説き伏せた。
 結構な時間を要して、何とかしぶしぶ納得した獄寺に安堵して、綱吉は携帯を切ってため息を吐いた。受験の為の数学問題より、こっちの方がよっぽど骨が折れるというものだ。

「お迎えは来ないのかい?」
「…雲雀さん、全部聞いてたじゃないですか」
「まあ、君の選択は正しいんじゃない? 余計な血を見ないで済んだわけだし」
「……どうも」

 がっくりと、様々な疲労感を背負いながら綱吉は肩を落とした。
 そして何気なくもう一度雲雀を見やれば、少しだけ。
 彼の顔が楽しそうに笑っているように見えた。


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