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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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西ロマ

これの続き。


「というわけなんやけど、どう思う?」
「…どう思うもなにも」

 ないでしょーが、と。その言葉は最後まで言うことはせずに、フランスは半眼で長い付き合いの悪友を見やった。だがその悪友はこちらの視線に気付くこともなくテーブルに肘をつき、両手で顎を支えてため息を吐いている。だめだ。コイツ本気でわかってない。むしろため息を吐きたいのはお兄さんの方だよ。そう胸中で呟き、フランスは手元にあるアルコールの入ったグラスを持ち上げた。久しぶりに相談があるだなんていってくるから、面白半分でやってくれば単なる惚気話を聞かされるはめになるとは思わなかった。それでもフランスはワインを一口飲み、あー、と適当な相づちを打ちながらスペインに訊いてみる。

「おまえ、本気でわかんないの?」
「わかんないからおまえに相談してるんやないか」
「…ですよねー」
「ロマーノが癇癪起こすのはいつものことやけど、今回はちょっと違うねん。徹底的に俺と顔合わさんようにしとるし、飯の時間になっても顔出さへん。勝手に自分で何か食ってるみたねんけど、ここまで避けられたことはないんやで?」
「おまえの鈍感さって、ここまでくるといっそ清々しいわー」
「はあ? 今は俺の話やのうて、ロマーノの話やろ」

 ぐっと身を乗り出し、少しだけ怒ったような様子のスペインにフランスは苦笑を返す。以前も同じような悩み相談を受けたことはあったが、今回は少しばかり勝手が違う。スペインが鈍感なのは同じだが、相手の坊ちゃんの心境はあからさまに変わっているのは明白だった。

(さてどうしようかね、この困ったさんは)

 まあ困ったさんは目の前の相手だけではないけれど、と付け加えて、フランスは緩くグラスの中のワインを揺らす。赤い液体を眺めつつ、未だうんうんと唸りながら頭を抱えるスペインへ何気なくフランスは訪ねてみた。

「おまえはさ、ロマーノのことどう思ってんの?」
「どうって?」
「そのまんまの意味」
「いきなり訊かれても…大事な子分だと思ってんで?」
「ふうん。でもさ、いつまでもロマーノだって子分のままじゃないでしょ。おまえんとこにきてから大分経つし、そろそろ独立する頃合いなのかもな」
「はあ!? 何いうとんの! ロマーノが独立なんてまだまだ早いわあ!」
「そうか? 案外、子供だって思ってんのはお前だけかもよ」
「そんなことないやろ」
「本当にただの子供なら、自分から口へのベーゼなんてしてくるかねえ」
「……あれは、ただのイタズラで」
「スペインさー」

 コンコン、とフランスは指先でテーブルをノックするように数回叩いた。スペインの言い分はもっともに聞こえる。だが、それでも少しだけ、鈍感という言葉で片付けるには浅はかな気がしてきた。
 スペインはどこか居心地が悪そうに視線を逸らすけれど、それには構わずに言葉を続ける。

「本当は気付いてるんじゃないの? ロマーノの気持ちも、自分の気持ちも」
「何、を」
「鈍感で気がつかないふりしててもいいけど、そうしてる間に全部手の届かないところに行ったらどうにもならないんじゃない?」
「フランス」
「ちょっとばっかし、お兄さんからの忠告。今日は優しいフランス様が奢ってやるから、さっさと家帰ってロマーノちゃんと仲直りしてこいよ」

 じゃあなと一方的に話を終わらせたフランスは、伝票を片手に席を立ち、ひらひらと手を振り去っていく。遠ざかっていく揺れる金髪を長めながら、一人取り残されたスペインは飲みかけのビールを一気に飲み干した。先ほどまでほろ酔いの気分だったのが、フランスの言葉で酔いが覚めてしまった。それでもアルコールはしっかりと身体に残っていて、揺れる身体に付き合いながらふらふらとしたあしどりで店を出ると、家路への道のりを歩いていく。まだまだ夜遅くまで開店されている店から聞こえる笑い声を遠くに聞きながら、スペインはぼんやりと夜空を見上げながらてくてくと歩く。今夜はきらきらと光る星達はなりを潜め、どんよりとした夜空が広がっていた。まるで今の自分のようだなとスペインは自嘲に近い笑みを浮かべると同時、先ほど言われたフランスの言葉と、先日のロマーノの行動が交互にリピート再生されていた。

「…俺の気持ちとか、言われてもなあ」

 ぽつり。声に出して呟いてみると、まるでタイミングを見計らったかのように、ぽつん、とスペインの鼻のの頭に雨粒が落ちた。するとあっという間にざああああ、と雨が降り始めた。だが、スペインは焦って走り出すことはせず、同じ速度で歩みを進める。
 できたばかりの水溜まりの上を歩けば、ぱしゃん、とちいさく水が跳ねた。




「……」

 唐突に降ってきた雨の音に、ロマーノはベッドから起き上がってカーテンを開けた。真っ暗な夜空は何だかこわくて、思わずぶるりと震える身体へ胸中で叱咤した。

「まだ帰ってこないのかよ、ばかスペイン」

 ベッドに潜り込んではいたが、ずっと眠れずにいた。
 数日前に自分からキスを仕掛けてからどんな態度をしていいかわからず、あれ以来ロマーノはスペインを避け続けていた。スペインが何か言いたそうにしているのは当然わかってはいたが、ここまで自分から逃げてしまうと、すでに引き戻せないとこまできているというもので。
 それでも数時間前にスペインが出掛けていったのを窓越しに見ていていて、その時の彼が手ぶらで出掛けていったのをロマーノは思い出した。こんな土砂降りな雨でも中々帰ってこないことに一抹の不安が過ぎる。このまま帰ってこないのではないかという思考を無理矢理追い出して、毛布をはねのた。

(い、一応! 世話をやかせてやってる身としてはそれなりに心配してやらないでもないだけだ!)

 そうロマーノは、誰に対しての言い訳なのかわからないことをぶつぶつと独りごちて、ベッドから降りた。パジャマの上に適当な上着を羽織ってから部屋を出れば、すでに館の人間は寝静まり、しん、とした気配が広がるの廊下に「こ、怖くなんかねーぞこのやろー」と言い、ペタペタと一人分の足音を響かせながら玄関へと向かう。
 ぎい、と重く軋んだ音を上げてドアを開けると、一際雨の音が大きくなる。ロマーノの手には自分の分とスペインの傘があった。
 キョロキョロと周囲を巡らした後、前方に向けて目を凝らす。だが、どれだけ目を細めてみても、スペインの姿は見当たらない。
 ロマーノは唇を引き結び、自分の分の傘を広げると雨が降り続ける外へ一歩を踏み出した。





「今更やけど、こない濡らしもうてどないしよ」

 衰える様子を見せない雨足ににぼやいて、スペインは濡れて張り付いた前髪をかきあげる。
 館までの距離が後少しとなったところで、ふいにスペインは我に帰った。それはロマーノがいるからに他ならないことは、さすがのスペインもわかっていた。
 あの子供を引きとってから、それこそ数えきれないほどのケンカをしてきた。スペインの家の言葉を中々覚えようとしなかったり、言い付けた仕事をさぼったり。それこそもっとたわいもない、些細なことが原因のケンカもしてきた。それでも、気がつけばお互いに自然と仲直りをしてきたというのに。

「…ロマーノ」

 フランスの言った「独立」という単語が脳裏を過ぎる。わかっている。いつかは彼と弟が一つのイタリアとして戻る日がくることは。そうしてその日がきたら、自分は、

「スペイン!」

 ふいに、自分を呼ぶ声が聞こえた。続いて、激しい雨音とは別にばしゃばしゃと水音を上げて、ちいさな身体の子供が――ロマーノが、こちらに駆け寄ってくるところだった。

「ロマーノ…?」
「てめえこんなずぶ濡れで何してんだ!」
「ロマーノこそ何してるん?」
「おまえが帰ってくんのが遅えから迎えにきてやったんだろーが!」

 ほら受け取れ! と突き付けられた傘を言われるままに受け取り、けれど差すことはせずにスペインは呆然とした様子でロマーノを見下ろす。
 そんな相手の態度に、さすがのロマーノも反応に困ってしまった。うろうろと視線を動かし、とりあえず自分の傘を精一杯腕を伸ばしてスペインの頭上へと掲げる。

「……」
「……」
「……腕が痛えぞ、あほスペイン」

 ばしゃん!
 一際高い水音を上げ、スペインは膝を着いてロマーノを抱きしめた。その拍子にロマーノの手から傘が離れ、後方へと転がっていく。あっという間にロマーノも濡れ鼠となってしまい、文句を言おうと口を開きかけたが、「ロマーノ」と。ひどく弱々しいスペインの声に何も言えなくなってしまう。

「すまんなあ、こんな情けない親分で」
「…そんなの、知ってる」
「こんな俺でも、ロマーノはええの?」
「……なに」
「これから先、もっと大きなって後悔さしたくないんや」
「後悔するって、勝手に決めつけんな!」

 叫んで、ロマーノは思い切りスペインを突き飛ばした。完全に油断をしていたスペインは突き飛ばされて、地面に腰をついた。
 それでもなお、言葉を続けようとすれスペインを無視し、ロマーノが言う。

「お、俺がおまえのこと好きなんだよ! 格好いいだとか悪いとか関係ねえんだよ! つうかスペインが格好悪いなんて今更だし、それでも好きなんだっつーの! 悪いか!?」

 ぜえはあと一気に吐き出して、ロマーノは肩で息をする。その後にスペインのバカヤロー! と盛大に泣きはじめた。わんわんと大声で泣く姿を見るのは久しぶりで、スペインは思わず吹き出してしまう。

「笑うな!」
「ごめんなあ」
「軽い!」
「いやもう…ほんまにロマーノはかわええなあ」
「うっせーばか! 離せ触るなあっちいけ!」
「それはちょっと無理やわー」

 ぎゅうとロマーノを腕の中に抱きしめて、スペインは微笑う。じたばたと抵抗するロマーノをものともせず、スペイン。

「なあロマーノ」
「なんだよ!」
「おまえのこと、好きでいてもええ?」
「は…っ?」
「ロマーノが今よりうんと成長して、じいちゃんになってもずーっと好きでいてもええか、て。なあ?」
「……ばかじゃねえの」
「うん、だから突き放すなら今の内やで」
「だから、ばかだっつーんだよ!」
「いたあ!」

 ごす! と思い切り頭突きをお見舞いされてしまい、スペインは悲鳴を上げる。しかしロマーノはスペインの頭を掴み、頭突きでつけた額と額をくっつけた状態の至近距離でスペインを睨みつけた。

「先に好きったのは俺だってこと忘れんな!」
「…せやな」

 ロマーノの返答にスペインが泣き笑いような表情を浮かべると、ひょいと彼を抱き上げた。
 珍しく彼から文句は降ってこず、代わりにしっかりと首に腕が回される。
 スペインはいつの間にか止んでいた雨に気がついて夜空を見上げれば、きらきらと星空が瞬いていた。

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瑞芬(APH)

 カタカタと窓枠が風に叩かれる音が、妙についた。同時にすき間風が部屋に入り込み、フィンランドはぶるりと身体を震わせる。首元まで掛けてあった毛布を更に引き上げて、頭を覆うようにすっぽりと被り直す。それでも寒さが拭えない気がして、フィンランドは毛布の中で身を縮こませた。
 そうすることで、昔、スウェーデンと共にデンマークの家から飛び出して、野宿をした日のことを思い出した。あの時は寒さに震わせていた身体をスウェーデンが抱き寄せてくれたけれど、今はその彼はいない。フィンランドは震えの止まらない身体を落ち着かせるように膝を抱え、きつく目を閉じた。
 しかし明かりのない室内と、更にはベッドの中では目を閉じていても開いていても、ただ真っ暗闇な景色だけが漠然と広がるだけで。
 そんな何も見えないはずの視界でも、どうしてかスウェーデンの顔が浮かんでは消えていく。主に思い出すのはいつものむっつりとした無表情な顔だが、たまに。極稀に見せる微笑みも確かにあった。それを思い出すとひどく心臓が痛み、ずきずきずき、と鈍い痛みが全身に広まるような錯覚を覚える。
 実のところデンマークの下で働いていた時はあまり交流はなくて、飛び出してから初めてまともに向き合ったスウェーデンはこわくて堪らなかった。
 口数は少なく、感情の起伏もあまり見せない彼はフィンランドにとって正直苦手なタイプで、スウェーデンからも逃げ出したいと考えたことは何度もあった。
 しかし日々を過ごしていく内に、少ない言葉の中にある優しさに気づいて。無表情だと思っていた顔にあたたかい感情を見つられるようになってからは、そんな考えなどいつの間にかどこかにいってしまっていた。

 それはきっと。
 「しあわせ」だったのだろうと、今になってフィンランドは気がついた。

 しあわせだったのだ。
 一緒に暮らし始めた当初のスウェーデンに対する気持ちは大きく変わり、何気ない会話や、ただ、隣にいられることがしあわせだった。

 けれどそのことに気がついたのが、絶対に彼に伝えられない今だなんてとフィンランドは苦笑交じりの自嘲を浮かべる。
 ロシアとの戦いで負け、自分だけがここに連れてこられた。
 嫌だと抵抗する言葉は当然聞き入れてもらえず、動けないスウェーデンを振り返れば今まで見たこともない泣きそうな彼と目が、合って。そんな顔、デンマークから幾度の折檻を受けた時ですら、見たことなんてなかったのに。


「帰りたい」

 少しだけ強引だけど、優しいスウェーデンの元に帰りたい。
 声にだして、祈るように呟いてみても当然それが叶うはずもない。童話のようにいかないのだとわかってはいても、言わずにはいられなかった。
 そうして暗闇に浮かぶスウェーデンの姿へと無意識に手を伸ばすも、届くはずもない指先を握り締め、ついに目から涙が零れた。

「スー、さん…ッ」

 それでもなおスウェーデンの名前を呼び、嗚咽だけは零すまいと唇をきつくかみ締めた。

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日&中(APH)



 上官命令。
 上官命令。
 上官命令。

 何度も頭の中でそう言い聞かせて、日本は気を抜けば泣いてしまいそうになる自分をなんとか自制するように勤めた。
 いつもは着物を好む彼だが、今日は真新しい真っ白な軍服姿である。首をぐるりと囲むように作られた襟にはまだ慣れず、息苦しい。とはいっても、理由はそれだけではないのだが。
 今、日本は彼を――中国のふいをつくことに成功し、馬乗りのように相手の身体に乗り上げている。そうして、引き抜いた愛刀が中国の顔の真横に突き立てられていた。
 カタカタと、知らぬうちに震えている身体が刀身に伝わり、かちゃかちゃとちいさな金属音を響かせる。その音がやたら耳について、日本は一度、唾を飲み込む。しかし口の中はカラカラに干からびていたから、正確には喉を動かすだけだったが。

「…日本」

 つと。
 中国が自分を呼んだ。その声にびくりと身体は大きく跳ね、思わず刀を手放しそうになるのを寸でで堪える。もう一度、しっかりと柄を握り直すと背後から悲鳴なような声が上がった。

「日本!?」
「兄貴!」

 その声に思わず振り返れば、そこには韓国と台湾の二人の姿があって。
 ぐらりと、急に視界が揺らいだ。
 日本は咄嗟に突き立てていた刀を引き抜き、その場から一目散に逃げ出した。途中、もう一人のきょうだいである香港とも擦れ違ったけれど、彼はどこか冷めた視線を寄越すだけで、自分を止めようとはしてこなかった。だからそのまま走り出した足を止めず、日本は呼吸が乱れて苦しい中でも走って、走って、走って――――逃げて。

 がくん、と急に膝の力が抜けたところで、盛大に地面に転んでしまった。がしゃん。手元から離れた愛刀を地面に落としたために派手な音を上げる。
 痛かった。
 転んだ身体は当然ながら、それよりもずっと、もっと。身体の、心臓の奥が痛くて痛くてたまらない。上官命令だ、と何度も何度も何度も自分に言い聞かせて正当化してみたところで、結局自分は何一つ納得などしていなかった。そうして、自分が彼を――中国を切りつけた事実も変わることはない。先程中国を切り付けた感触を思い起こし、再び震えだした右腕を左手で掴んだ日本はその場で蹲ると、唇から嗚咽を零し始めた。目からも流れる滴が頬や鼻筋を通り、地面に染みを作る。

「…あに、うえ…」

 自然と口から出た言葉が、もう随分昔に止めてしまった彼の呼び名だったなんて、皮肉だ。



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にーに対してのみツンなターンな日本!と考えていたはずなのにどうしてこうなった…

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西ロマ(APH)




「もう子供じゃない」

 いつも通りのおやすみのキスを頬にしようと思った矢先、スペインから見ればまだまだ子供なロマーノがそんなことを言ってきた。
 思わず動きを止めてまじまじと相手を見やると、ロマーノはその視線に居心地の悪さを感じたように一度視線を逸らし、けれど意を決したようにしっかりとスペインを見る。というか、睨む。

「…ええと、ロマーノ? なんか変なもん食うたか?」
「おまえと同じもん食ってんだからそんなわけねーだろ!」
「せやよな…じゃあ眠いんやな、早うおやすみ」
「おまえ、人の話聞いてねーだろ!」

 ぽんぽん、とロマーノの肩を叩いて眠るよう促せば、がしっと襟首を掴まれてしまう。そのまま押し倒す勢いでロマーノが体重を掛けてくるものだから、突然のことに構えていなかったスペインはあっさりと背中からベッドに沈んだ。その際にベッドの縁へ強かに頭をぶつけたけれど、痛みを訴えるより先にロマーノがスペインの腹の上へと馬乗りになってきたため、うっと呻くような声を上げた。しかしそんなスペインにもお構いなしに彼は不機嫌な表情とオーラを発したまま、ずい、と彼に顔を近づけてきた。と、そこで改めてロマーノの頬がうっすらと赤くなっているのに気がついて。「ロマーノ?」と呼びかければ、ぴく、と細い肩が揺れる。そして、

「…だから! オレはもう子供じゃねーんだから、ほっぺたにおやすみのキスとかじゃなくてだな…その!」
「うん?」
「だあああ! おまえは本当に鈍感!!」

 そう叫びながら、ロマーノは倒れる勢いを利用してスペインの唇に自分のそれを重ねた。が、勢いをつけすぎたあまりに、ガツ! と思い切りお互いの歯と歯が当たってしまい、重なった唇の間から、それぞれにくぐもった声が漏れた。けれど、ロマーノがしっかりとスペインの襟首を掴んで離さなかったため、その態勢は継続される。
 じんじんとぶつかった歯から伝わる鈍い痛みが少し治まってきたところで、スペインはそろりと目を開いては、相手の様子を伺い見る。
 今、自分がロマーノとキスをしているのだという自覚はあったが、どちらかというと子供同士がおふざけで唇を合わせているような認識だった。オーストリアから渡された時よりも確実に成長しているとはいっても、やはり今の彼はまだまだ子供なのだ。
 スペインはすぐ目の前にあるロマーノの、きつく閉じられた目と眉間にしっかりと寄った皺に思わず噴出してしまいそうになるも、自分の襟首を掴む手と、身体の上に乗っている身体から微かに震えている振動に気がつけば、一瞬呼吸が止まった。
 ロマーノがもっとちいさな頃から絶えずケンカを繰り返してはきたけれど、最近ではもはやスキンシップと愛情表現の一部なのだと受け止めていた。だからこそ、嫌がらせにしてもこんなことをするような相手ではないのはよくわかっているつもりだ。
 ならば、なぜ?
 疑問符ばかりがぐるぐると回り、さっぱり答えが出ないでいるところで、ふいに唇が離された。至近距離にあるロマーノの顔は先ほどより赤く染まり、ついでに機嫌の悪さも増したのは気のせいではないだろう。

「…おまえ、まだわからないって顔してんな」
「え、あー…ははは」
「本当、鈍感」

 呟いて、身体を起こせば改めてスペインを見下ろすロマーノ。そして、

「…なんでこんな奴が好きなんだ…」
「え」

 独り言のようなその言葉は、けれどしっかりとスペインの耳に届いていた。スペインは考えるより先に反射的に身体の方が先に動いていた。すぐさま身を起こしてロマーノの腕を掴んでは、訊く。

「今、何て言うた?」
「何も言ってない」
「嘘や」
「嘘じゃない!」
「ロマーノ」
「うるさい」

 ぷい、と顔を背け、スペインの腕を振り放そうとするのを許さず、スペインはもう一度「ロマーノ」と相手の名前を呼ぶ。しかしまたもや「うるさい!」と言いう彼には構わず、今度はスペインからロマーノを引き寄せた。ぽす、と未だ腕の中に収まるサイズの身体を抱きしめて、相手の耳許へと唇を寄せる。そうして、「もう一回」と囁くと、ううう、と唸る声が返ってきた。この子供相手の持久戦には慣れたことだし、辛抱強く待つかと構えたところで予想外な反応が返ってきた。

「……すき、だ」

 しがみつくように背中に腕が回されると同時、先ほどよりしっかりとした言葉で告げられた。

「ホンマ?」
「…こんな嘘、吐くかよ」
「じゃあホンマなんやね」
「しつこい」
「だって嬉しいんやもん」
「……そーかよ」

 いって、顔を隠すように額を肩口に埋めるロマーノは近年の中で一番かわいいんじゃないかと、スペインは確信に近いものを感じていた。
 だが、

「あー、こういうのがあれか。実の子供にようやく懐かれた父親の気分ってやつやんなあ」
「…は?」
「あ、せや、ロマーノ。唇へのちゅーは好きな人としかしたらあかんで?」
「……おまえ…」
「うん?」

 にこにこにこにこ。
 オーストリアからロマーノを預かった日から今日までの出来事を走馬灯のように思い返し、屈託のない笑顔を浮かべるスペインに対して大人しくなったはずの子供から再び不機嫌なオーラが点る。
 しかしそれには気がつかずに昔話を語るスペインに目を細め、今度は近年では一番機嫌の悪い顔で彼を見据えるロマーノ。口を開く。

「やっぱりわかってねえじゃねえか! このバカーッ!!」
「いたあ!? ロマーノ痛い! 耳かじったらあかあああああああん!!!!」

 真夜中に悲痛なスペインの叫び声が響くも、助けにくる人の気配はなかった。




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あのフランス兄ちゃんにあそこまでされて気付かないんだから、スペインの鈍感さは並じゃないと思うんだ…
ちょうがんばれロマーノ。

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仏英(APH/ 学パロ)


「この、くそ、が…!」
「ほらほら坊ちゃん、頑張れー」
「だま、っれ!」

 ぜっ、ぜっ、と激しく呼吸を繰り返すのと合わさるように、ぎっ、ぎっ、と漕いでいる自転車が悲鳴を上げた。自転車の後ろに乗っているフランシスは呑気なものだ。

「おーこわ。でも勝負をいいだしたのはおまえで、負けたのもおまえだからね」
「だ、から! うるせえよ!」

 殆ど叫ぶように言い放ち、気を抜けば態勢を崩してしまいそうになる足を叱咤する。ちくしょう。口の中で呻くように言えば、背後でフランシスが笑う気配に舌打ちをした。
 そもそもどうしてこの男と自転車に二人乗りをしているかというと、フランシスが言った通りに自分からふっかけた喧嘩が原因だ。
 次の試験で負けたら何でも言うことを聞いてやる、だなんて。どうしてそんな約束をしてしまったのかと、あの時の自分を殴り飛ばしてやりたい。そもそもそんな約束をしてしまったのだって、売り言葉に買い言葉ないつもの口喧嘩の発展からきたものだったはず。
 しかし一度言ってしまった言葉が取り消せる術はなく、結果、試験はフランシスに一点差で負けてしまった。

(一点差ってのが、むかつく!)

 勝負に勝ったフランシスの出した条件は、このきつい坂道の上にあるスイーツ専門店まで彼を自転車で送り届けることだった。イギリスも何度か行ったことはあるので、その坂がどれほどきついのかは身に染みて理解している。確かに評判になるだけのスイーツが揃えられているが、場所が場所なだけにいつもなら自転車に乗ったまま登りきるだなんて無謀なことをしようとは思わない。――だからこそ格好の罰ゲームなのだが。
 アーサーは顔を上げて、目的地までの距離を確認する。と、目印である店の赤い屋根を目に留めて、ぐっと力強くペダルを踏みしめた。ラストスパートを掛けるために腰を浮かせて、最後の力を使い果たすようにスピードを上げていく。背後からは、適当なフランシスの声援が上がる。

「…着いた、ぞ…ばか…」
「ごっくろーさん」

 目的地である店の前に自転車を止めて、ぜえはあと肩で息をする。サドルを下げて固定させた愛車にもたれかかれば、フランシスはちょっと待ってなと言い残して店の中に消えた。言われなくてもしばらく動けねーよと内心で毒づいて、乱れる呼吸を整えるのに専念する。
 それから数十分の時間をおいて、フランシスは店の名前が印字されている白い箱を片手に戻ってきた。ついでに当然のように再びアーサーの自転車の後ろに乗るものだから、おい、と低い声で口を開く。

「何してんだ?」
「ええ? 次は俺んちまで送り届けるに決まってるでしょーが」
「ハア!? てめ、さっきの条件はこの店に来ることだろ!」
「言うことを聞くのが一つだなんてこともいってないだろー?」
「はああああああああっ? 冗談じゃねえ!」
「勝負を持ちかけて、負けた人は誰でしたっけー?」
「…ぐ」

 返された言葉に当然二の句が告げるはずもなく。アーサーは文句を飲み込んで、代わりに唇を噛んだ。そんな自分の様子を見たフランシスは堪えるに笑うから、余計に苛立ちは増していく。なので乱暴に自転車に跨ってやれば、後ろから伸びてきた腕が腰に回されてきた。驚いて振りほどこうとするも、咄嗟に相手の手にあるスイーツの入った箱が眼についてしまい、動きを止めた。

「…何のつもりだ」
「アーサーの乱暴な運転に落とされないようにしてるだけ」
「うぜえしねむしろ落ちろ」
「ひどいねえ」

 くすくすくす。耳許に寄せられたフランシスの唇から、ちいさく漏れる笑い声にカッと身体が熱くなる。すると、今度こそアーサーが本気で振り払おうとするのを見越したように、フランシスは更にきつく抱きついてきた。ついでにちゅ、とわざと音をたてて耳たぶに唇を押しつける。

「フラ…っ!?」
「早く帰って、お茶にしようぜ」
「するかボケェ!」
「はい、発進ー」
「人の話を聞けよ!!」

 散々たるアーサーの反対意見は当然通ることはなく、フランシスの言われるままに彼の自宅へと自転車を走らせる結果になったのは、いうまでもない。




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アルとは違った雰囲気でぎゃあぎゃあ言わされるアーサー。笑
どっちにしても振り回される子!

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