忍者ブログ

イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

琉夏小話

実は手芸部のファッションショーをみてからずっと考えていたネタである。
皆考えつくと思うけど我慢できなかったんだ…



------------------


 ふう、と思わずため息を吐いてしまって、いけないいけないと気を取り直す。慣れないドレス姿に丸まってしまいそうになる背筋を伸ばし、今度は落ち着かせるように深く深呼吸。もうすぐ吹奏楽部の演奏が終わり、その後は手芸部のファッションショーが始まる。つまり、自分の出番だ。手芸部に入部して三年目となる今年の文化祭は、何か派手なことをやろうという意見でまとまった。そこまではよかったのだが、まさか全員で作り上げたウェディングドレスを着ることになるとは思ってもみなかったわけで。「次期ローズクイーン」という後押しで決まってしまったのだが、正直そのプレッシャーは少しだけ重荷だ。周囲がそう囃し立てているのは知っているが、自分はそんなつもりは毛頭なかった。むしろもっとかわいい子や素敵な子はたくさんいるだろうにと思って仕方ない。

「よ、花嫁さん」

 そんな色々なことを考え込んでいるところへ、聞きなれた声が割って入ってきた。はっと顔を上げてみれば、予想通りの幼馴染がそこにいた。琉夏くんはいつものはば学の制服を着崩したまま、上履きの踵を踏んだ足でこちらに歩み寄ってくる。

「ドレス、似合うね」
「本当? ありがと」
「このまま攫っちゃってもおっけー?」
「だめです」
「ちえ」

 いつもの冗談交じりの会話を交わして、わたしはつと、思い出した。それは誰しもが憧れるウエディングドレスのジンクス。本当の結婚式の前にドレスを着ると婚期が遅れるという、ひな祭りの人形を出しっぱなしにしているのと同じ言い伝えだ。
 わたしは手にしているブーケを抱えなおして、視線を舞台へと向ける。吹奏楽部の演奏は最後の盛り上がりを見せていた。

「わたし、結婚式以外でドレス着ちゃったから結婚できないかも」
「え? なんで?」
「そういうジンクスがあるの。ウェディングドレスを結婚式以外で着ると婚期が遅れるって」
「ふうん」

 わたしの言葉を聞いて、琉夏くんが曖昧な返答を返した。男の子だし、興味がなくて当然か。そう考えると、なぜか妙に落ち込んでしまった。と、ちょうどそのタイミングで舞台上の演奏も終わり、一度すべての明かりが落ちる。練習の通りに吹奏楽部が舞台上から降りたのを見計らい、裏方の手芸部員が舞台設置に取り掛かる。そうしてスピーカーから厳かな音楽がかかり始めれば、舞台上にも照明が点いてゆく。部員の誰かに名前を呼ばれて、舞台に向かおうとした際に肩を掴まれた。思わず振り返ってみれば、薄暗い視界の中でも琉夏くんが真剣な表情でこちらを見据えているのがわかる。

「…おまえの婚期が遅れても俺が責任取るから、頑張ってこいよ」
「え?」
「ほら、いってらっしゃい」

 ぽん、と背中を押されてしまい、わたしは聞き返す暇もなく舞台へと進まされてしまった。部員の一人に手を取って促され、まるで結婚式さながらの曲をBGMに舞台の上を進む。当然ファッションショーなので舞台の上を行き来して戻ってくるのだが、まるでひとりきりの結婚式のような錯覚に襲われる。そもそもひとりならば、結婚式以前の問題だけれど。
 しかし舞台の端まで歩き、ターンして戻る視線の先には琉夏くんがいて。
 まるでわたしを待っているように手を伸ばしているものだから、思わず駆け出してしまいたくなった。

「お帰り、俺の花嫁さん」

 打ち合わせ通りのルートを回って戻ってきたわたしを、笑顔の琉夏くんが出迎えてくれた。わたしは咄嗟に言い返す言葉を見つけられずに俯いて、少しの間を置いてからようやく「もう」と言い返したのだった。

拍手[2回]

PR

コルダなう

ざくっと今日までのコルダプレイレポです。

1回目プレイ→よくわからないままファータを追いかけて奔走。最初のセレクションでどべになり、二回目のセレクションで何故か奇跡的に2位を取るも、三、四回ともどべで本当にただの奇跡でした。ありがとうございまs(ry
当然誰も攻略できずに終了のお知らせ。

2回目プレイ→やっぱりファータを追いかけまくる。気がつけばすべてのファータを集めて名誉ファータに認められてた件。火原先輩とはなんとなく仲良くなったものの、何故か1回目より親密度が低いミラクル。意味がわからない。
当然誰ともエンディングは迎えられずっていうか、そもそも恋愛イベントも起こらない。私はなんのゲームをしているのかと訝り始める。

3回目プレイ→そろそろ誰か落とさないことには私のコルダ熱のライフはゼロよ!ということで、ずっと火原先輩を狙っていたのを変えて土浦に目標をロックオン。最初に出会ったのが土浦だったからとかそんなまさか。
とりあえず気になる人の目の前でがんがん演奏しろという助言をいただいたので、土浦のストーキングを開始。ことあるごとに彼を付け狙い、しつこく演奏エリアに入れて弾きまくる。その甲斐あってかどうにか恋愛イベントが発動。3回目にしてだよ!どういうことだよ!という憤りを感じつつも、土浦くんがラ・カンパッネラのことを呟いたのでこれは弾けというフラグか…と楽譜を集めるもののレベルが足りなくて演奏できない件。
なん…だと…と、リアルでつっこみ、結局最後までラ・カンパッネラは弾けないものの土浦クリアー。良かった!こんなにも達成感のある乙女ゲーも久し振りだよ!
という調子に乗った私はそのまま4回目をプレイ。

4回目プレイ→ようやくコツを掴んだので、最初の狙いの瑛違う火原先輩を再びターゲットに。土浦同様ストークをし、目の前でがんがん演奏。火原先輩の「こら」にきゅんとしてごろごろした。我ながらMOEポイントがわからない。そうこうしてる内に先輩もクリアー!

5回目プレイ→そして次のストーク先を決めておらず、なんとなくノリで柚木先輩君に決めた!とプレイ開始。以前友人から柚木先輩の素顔の話は聞いてたんですが、実際目の当たりにするとざわざわしますね…!
おまええええええええええええええええ!!!!!
とPSPの画面に向かって全力で叫びたい衝動に駆られた。しかしどうして今のところコルダの中で一番好きかもしれなくてこわい…なにこれ…
思わず友人にメールをしたためたら、「なづきの好きそうなタイプじゃないのに!」と返信。ええ、私もそう思います。だからこそのびっくりです。
柚木先輩、恐ろしい人!
ひとまず先輩もクリアーしたものの、やっぱり欠落したイベントはある模様。
しかし次にいくでござるの6回目の現在は先生狙いです。
もう少しコルダ頑張ってきます!


そして柚木先輩小話を投下してゆくでござるの巻(`・ω・´)

------------------

「おはよう」

 背後から掛けられた声を聞いた途端、ぴしりとわたしの世界が凍った。しかしあくまでも凍ったのは「わたしだけ」の世界だから、その他大勢の人たちは通常通りの時間が流れている。むしろ数名の人たちは凍るどころか春爛漫だろう。何も知らない頃のわたしなら、きっと同じ気持ちだった。むしろ知らなくてよかったのだ。あのまま何も知らずに優しくて素敵な先輩と、ただの一般人な後輩。その関係のままで良かったはずなのに、どこでどう間違ったのかわたしたちの関係は違うものへと変化してしまった。いうなれば、弱肉強食だ。弱いものは食べられる。まさにその通り。そうして、弱者の立場に立たされているのはわたしなのだから、泣きたくもなる。

「柚木先輩…」

 おそるおそる振り返って強者の名前を呼べば、そこには誰もが憧れる素敵な笑顔を前面に貼り付けていらっしゃる柚木先輩が、車の窓を開けてこちらを見ていた。ついでに手招きをされてしまい、思わず数歩後退する。途端、その笑顔が少しだけ引きつったのがわかった。それは極々ささやかな変化だけれど、わたしにはわかってしまう。それもなんだかくやしい。

「良かったら車にどうぞ? 一緒に学校に行こう」
「結構です」

 ぴしゃり、と跳ね除けるように言うわたしの言葉に、先輩の笑みがますますダークに深まっていくのわかる。車の中の先輩とわたしには距離がある。さすがにこれ以上は何もいえないしできまいと、わかっているからこその態度だ。……あとで仕返しがくるとわかってはいても、すべての嫌がらせに応じてなるものか!
 わたしは内心で固く決意し、再び何か言うべく口を開いた先輩の言葉に身構える。と、

「柚木センパイ、おはようございまあす!」

 語尾にハートマークが飛びまくった声が割って入ってきた。思わず二人揃ってそちらを見てしまうと、見慣れた柚木先輩親衛隊の女子の姿があった。当然先輩の本性を知りもしない彼女は無邪気に彼の車に駆け寄り、何事か話かけ始めれば、さっきまでのダークさなど微塵も残さずに先輩は柔らかい笑顔で対応する。

(チャンス!)

 注意が余所に移った瞬間を逃さず、わたしは踵を返して最初から猛ダッシュを開始した。背後からはちくちくと刺さるような視線をいやが追うにも感じたけれど、気にしにしない! 気にしたら負けだ! と呪文のように繰り返して走り続ける。結局学校に到着するまで走り続けてしまい、けれど当然車の先輩の方が先に登校されていた。おはよう、と本日二度目の朝の挨拶をされてしまい、うわあとわたしは内心でのみ声を上げた。
 けれど諦めるのはまだ早い。今はちょうど登校ラッシュだ。すれ違う生徒たち(特に女子)が柚木先輩柚木先輩と朝の挨拶をしてくるから、それを返すのに忙しい。お優しい柚木先輩はファンの子たちを放っておけるはずないんだから。
 わたしは意を決して、先輩のいる校門へと進んでいく。走ってきたために乱れた呼吸はすっかり落ち着いたはずなのに、今は違う意味で息苦しい。どきどきとざわつく心臓の音がうるさくて、縋るようにバイオリンケースを抱えた。

「帰りまで逃げたら容赦しないからな」

 通り過ぎ様、ぼそりと告げられた言葉に思わず足が止まりそうになる。けれどどうにかそのまま校舎の中まで歩くことに成功し、下駄箱に辿り着いた途端に力尽きた。わたしのライフはゼロよとばかりに思わずしゃがみ込んでいれば、心配顔の土浦に声をかけられてしまった。

(なんだかなあ)

 どうにか立ち直って教室に向かう途中で、独りごちる。なんだかなあ。繰り返して、柚木先輩とのやり取りに眉根を寄せた。
 最終セレクションまであと3日。
 こんな調子ではだめだ。しっかりしないと。
 そう思い直してヴァイオリンケースを握りしめれば、どこからか音色が聞こえた気がした。ファータでもいるのだろうかと周囲を見渡すも、クラスメイトたちの姿しかそこにはなかった。

拍手[0回]

レベルE大好きな私が通りますよ+新名小話

遅まきながらレベルEアニメの知らせになんとも複雑な心境です。
ああでもクラフト隊長の不憫さが声つきで拝めるのならばやっぱり楽しみの割合のが大きいかな!不憫な隊長にきゅんきゅんして仕方ないですがこんなこといっても大好きですよ隊長!クラフト隊長の部下になりたい。あんな上司理想すぎる結婚しt(ry
もう10年以上前の作品ですが、富樫作品の中では幽白と同列に並ぶくらい大好きな作品です。……うんまあ幽白は蔵馬がいるからどうしたって抜きん出てしまうんだけど!
純粋に漫画の中でも好きだけれど、女の子を食べて体内で受精させる宇宙人の話とかどうするんだろうと一抹の不安は過ぎります。
でも逆に楽しみで仕方ないのはカラーレンジャーですけど!!!!!!!!!
ゴールデンハンマーを落とされる王子を想像すると顔がにやにやします。あと結婚式の話ですね。ルナ王女かわいい。ディスクン星人の皆さんもかわいい。
これはDVDになったら買う勢い。漫画も久しぶりに読み返そうかな。

--------------------

(新名小話)




 それなりに賑わっている購買の前で、一人の女子生徒の後ろ姿を見つけた。肩口で切り揃えられた髪を揺らして、ゆらゆらと左右に身体を揺らしている。おそらく隙を見て人ごみの中に飛び込むつもりなのだろうが、こちらからしてみれば足元がおぼつかないように見えてハラハラする。ハア、と新名はため息を吐いて、その女子生徒へと近づいた。声を掛ける。

「そっこのカーノジョ」
「ニーナ」

 わざと軽い口調で呼びかけて、ぽんと肩に手を置くと相手は驚いたようにこちらを見た。が、すぐに声を掛けたのが自分だとわかると、その顔が笑みに変わ る。実をいうと、新名は彼女が笑顔になる瞬間がとても好きだったりする。ゆっくりと花が開くようにほろこぶ笑顔を前にすると、不思議とこちらも笑みになる。そうして、彼女の笑顔に何度救われたことだろうか。

「あんまフラフラしてっと、転ぶぜ?」
「大丈夫だもん」
「とかいって、この間洗濯物を一人で抱え込んで盛大に転んだのは誰でしたっけー?」
「う」

 ずばり痛いところを突かれたらしい。美奈子は先ほどまでの威勢と一緒に首を縮込ませた。黒目がちの目が気まずそうに逸らされる様はまるで小動物のようで、それがまたかわいくて思わず噴出してしまう。と、さすがにこれは一つ年上の彼女のプライドを刺激してしまったのか、下げた目じりを吊り上げた美奈子は「ニーナ!」と強い口調でこちらの名前呼ぶ。
 よく百面相とういう表現を聞くけれど、まさにそれは彼女のためにあるのではないだろうか。笑ったり怒ったり悲しんだりと、ほんの数分の間 に美奈子の表情は目まぐるしく変わる。

「はいはい、オレが悪うございました! お詫びに代打で買い物してきてやるから、許して?」
「……いらない」
「え、まじで怒った?」
「そうじゃないけど…」
「じゃあ、なに?」

 どんどん混んでく購買をちらりと横目で伺いながらも、新名は意識を美奈子に集中させる。彼女の目は再び困ったように下げられて、口元を指先 がなぞるように触れる。何か言いよどむような様子を数回繰り返し、美奈子はようやく観念したらしい。ふっと息を吐き出すと、そろりと視線を動 かして新名を見つめる。

「最近ニーナが頑張ってるから、はばたきミックスジュースでも差し入れしようと思ってたの!」

 そう言い切って、美奈子は改めて恥ずかしさが込み上げてきたのか顔と一緒に視線を逸らした。ぷいと逸らされた横顔の頬は少しだけ赤くなっている気がする。ついでに唇を尖らせる彼女をみて(何このかわいい生き物)と新名は内心で頭を抱えて地団駄をした。公衆の面前だとはわかっているけれど、思い切りハグしたい衝動に駆られるそれをどうにか押しとどめる。落ち着けオレ。踏ん張れオレ。ここでそんなことをしたら天然な彼女はちょっと驚いてかわいく窘められるだけ済むだろうが、うっかりボディーガードの兄弟に見つかった日には、明日を無事に迎えられるかもわからない。冗談ではなく、かなり本気で。
 新名は今にも美奈子を抱きしめたがっている腕を後ろに回し、相手に視線を合わせるように少しだけ屈んだ。

「じゃあさ」

 内緒話をするように声を低くして、続ける。

「ご褒美に今度の日曜日、デートして?」
「え?」
「だめ?」
「……ううん。いいよ」
「じゃあ、約束」
「うん」

 にっこり笑って頷く美奈子を確認して、新名はまたもや胸中でガッツポーズを取った。ついでに彼を祝福するように、高らかなファンファーレも聞こえた気がした。

「ついでに、お昼も一緒する気ない?」
「うん、いいよ」
「ラジャー! では大佐、私は購買に行って参ります!」
「うむ、健闘を祈る!」

 冗談めかして額に手を添えれば、彼女も同じように敬礼を返す。
 軽すぎる足取りで、人がひしめき合う購買に向かうも何も苦ではなかった。


 たまにはこんな良いこと尽くしの日があっても、いいんじゃね?

拍手[0回]

琉夏小話

生徒会所属の悩めるバンビを書きたかったんですがどうにも尻切れトンボになってしまった…いや、いつもこんな感じだけどね!
紺野先輩と一緒に困るバンビがかわいいと思う。

--------------------

(どうしよう…)

 学校からの帰り道でのことである。
 とぼとぼと重い足取りで帰宅している美奈子は、所属する生徒会での会議が終わってからずっと同じ言葉を繰り返していた。どうしよう。もはや何度目かわからない言葉を今度はちいさく口に出して呟く。こんなにも美奈子が悩んでしまう原因は、先ほど行われた生徒会会議の内容が原因だ。その内容というのが、会長である紺野が提案した服装検査が近々実施されるというもの。
 生徒の見本にならなければならない生徒会に所属するだけあって、彼女が改善すべき点は当然ながら、ない。ならば何に悩んでいるのかといえば、それは幼なじみである二人――桜井兄弟が原因である。特に弟の琉夏は「歩く校則違反」と言われているような人物で、学園内でもあれほど堂々と金髪にピアスという出で立ちで登校してくる生徒は他にいない。否、ピアスだけなら兄も同様ではあるが。
 とりあえず生徒会役員としては違反者を取り締まり、正していくのが役目なわけで。しかし、素直にいうことを聞く相手ならばこんなにも悩んだりはしない。
(一応、言うだけ言ってみようかなあ)

 桜井兄弟と仲が良いのは紺野にも知られているため、こっそりと期待を込められた言葉をいくつか言われてしまっていた。それがプレッシャーになって、なお更悩ませる原因になっていた。
 夕暮れに染まるいつもの帰宅経路を進みながら、ふと、チェーン店である大型薬局の店舗に目を留めた。まるで吸い寄せられるようにふらりと立ち寄ってみる。軽快な音楽といらっしゃいませーという店員の声に出迎えられながら、髪染めのコーナーへと足を向けた。
 いくつもの種類のあるそれらを一通り見やり、黒染めのものを一つ、手に取ってみる。

(髪が黒いルカかあ)

 思い出せるのは、子供の頃の姿だ。さすがにあの時は普通の日本人らしく黒髪だった。身長だって大して変わらなかったんだよなあとぼんやり考えていれば、ぽん、と肩を叩かれた。あまりにも不意打ちなことだったので、大げさに驚いて振り返れば、少しだけ困ったような顔をした相手と目が合った。

「ルカ…?」
「ごめん、驚かせた」

 まさに今、思い描いていた人物の登場に美奈子は改めて驚いてしまう。
 当然こちらの心情など知るはずもない琉夏は、いつもの掴み所のない笑みを浮かべながら彼女の隣に並ぶ。その手にあるものを見て、わくわくとした子供のような笑顔を浮かべて、訊く。

「何? 美奈子も髪の毛染めたくなった?」
「生徒会の人間がそんなことするわけないでしょ」
「ええー、金髪でお揃いにしようぜ」
「しません」
「ちえ」
「ルカが黒髪になってくれればいいの」
「え? これ、似合わない?」

 彼女の言葉に琉夏は驚いたように言って、きれいに染まっている金色の髪に触れた。むむ、と妙に真剣な顔つきで自身の金髪を見つめる琉夏がなんだかおかしくて、思わず噴出してしまう。

「あ、笑ったな?」
「ごめんごめん」
「じゃあ罰として、おまえも金髪の刑だ」
「だめだってば」
「じゃあピンクとか? ……いいね、似合いそう」
「またそういうこと言って」
「俺は本気だけど?」

 言って、琉夏はこちらの髪先に触れるとじっと見つめてくる。なので、勝手に心臓がざわつく。思わず琉夏から視線を逸らし、俯いて口を開いた。

「……金髪が似合ってないわけじゃないけど」
「じゃあいいじゃん」
「でも学校の規則があるから」
「ええー」

 再び口を尖らせる彼に、これでは堂々巡りだと内心でこっそり頭を抱えた。しかも困ったことに、今の彼が好きだと思う自分がいるもの だからなお更たちが悪い。

(紺野先輩、ごめんなさい)

 やっぱり口に出すことはできずに、胸中でのみ先輩であり生徒会長の困った顔へと謝罪したのだった。

拍手[0回]

ハロウィン小話

最近嬉しいことがたて続いて逆にこわい。
なにこれ私しぬの状態の頭で考えたハロウィン小話。ぐだぐだにもほどがあるんだぜ…!

--------------------


 はっと気がついたら、そこはどこかの教会のようだった。わたしは跪いた格好で、手を組んでいることからするとお祈りをしていたようだ。

(お祈り?)

 そこでようやく自分の格好に気がついた。いつもの私服姿でも制服姿でもないわたしは、つまるところ「シスター」といわれている人たちの服装になっていた。あれ? と頭の中に疑問符を浮かべつつも、一先ず立ち上がって辺りを伺ってみる。やっぱり周囲は間違いなく教会の建物そのものだけれど、わたしはクリスチャンはない。それならどうしてこんなところに、しかもシスターの格好でいるのだろうかと首を傾げた。と、まるでそのタイミングを見計らったように、後ろから声を掛けられた。

「やあ、もう仕度は済んだかい?」
「ぐずぐずするな」
「紺野先輩に、設楽先輩?」

 お揃いのように神父の格好をした二人の先輩が現れて、わたしは思わず面食らってしまう。ぱちぱちと目を瞬かせて二人を見れば、設楽先輩がいらだたしげに前髪を掻きあげた。ああもう、とついでに声に出して唸ると、わたしの方へ歩み寄っくる。

「おまえが一緒についてくるって言ったんだからな。責任持てよ」
「…すいません、何のお話でしたっけ?」
「はあ? あんなにも駄々をこねておいて忘れたっていうのか?」
「……ごめんなさい」
「まあまあ設楽、落ち着いて」
「落ち着けるわけがないだろう! やっぱりこいつは置いていくべきなんだ」
「でも、彼らの説得には彼女は必要だと思うし」
「彼ら?」

 紺野先輩の言葉に何故か嫌な予感を覚えて、わたしは聞き返す。すると困って苦笑を浮かべる紺野先輩と、更に不機嫌な設楽先輩が同時にこちらを見た。
 あの、と言葉を続けようとしたその時、がしゃあん! と教会の窓ガラスが割れた。突然のことに驚いて目を瞑れば、ふわりと身体が浮くような奇妙な感覚に襲われる。けれどその反面で意識は落とされていくような気がして、心臓がひやりと縮みこんだ。

 こわい!

 咄嗟に何かに捕まるように手を伸ばせば、予想外にその手は掴み返された。
え、と再び驚いてぱちりと目を覚ますと、そこには見慣れたクラスメートと後輩の顔が並んでこちらを見下ろしていた。が、なぜか二人の頭には揃ってぴょこんとかわいらしいふさふさの耳が生えていたけれど。

「…嵐くんに、ニーナ?」
「おう」
「大丈夫?」
「あれ、わたし、先輩たちと一緒にいたはずなんだけど…」
「何いってんの。あんたさっきまで寝てて魘されてたんだぜ?」
「え?」

 そう言われて、わたしは再び目を丸くする。きょろり、と目を回して、そこで気がつく違和感。それが頭と腰の部分からきているのは明白で、わたしはそろりと手を伸ばしてみる。まずは頭からだ。

「わたしにも耳が生えてる…!?」
「? それがどうかしたんか?」
「あんたがかわいい黒猫ちゃんだなんて、今さらだっつーの」
「猫!?」

 ニーナの言葉をオウム返しのように言って、わたしはもう一つの違和感の原因である背後へと振り返る。そこには黒くて長い尻尾がわたしの気持ちを代弁するように、ぴんと立っていた。

「わたしが猫って……ええと、それじゃあ二人は犬なの?」
「俺ら?」
「違うって、オレたちは」

 と、なぜかそこで二人は言葉を切って、視線を合わせる。そうしてにやりと目を細めてわらうと、改めてわたしを見た。続ける。

「嵐さんとオレは」
「オオカミ男だ」
「え」

 二人の手が、まるでスローモンションのようにゆっくりとこちらに伸びてくる。それを他人事のように見つめていれば、再び視界が暗くなった。嵐くんのニーナの姿が掻き消えて、先輩たちのときと同じにように身体が浮いた感覚に襲われる。次いで意識が深く深く落とされていけば、それはいつの間にか本当の落下になっていた。ジェットコースターよりも早く、容赦なく落ちていく身体に驚いて手足をばたつかせる。当然そんなことをしたところで、落ちる身体が止まってくれるはずもない。
 と。

「大丈夫?」
「たく、本当に危なっかしいな。おまえはよ」

 三度聞き慣れた声をきいて、わたしはそろりと目を開けた。二度あることは三度あるという諺が脳裏を過ぎり、それなりの覚悟を決めて開けた視界の先には、やっぱり幼馴染の兄弟がこちらを見つめていた。ついでに言うならば服装も真っ黒なタキシードのようなもので、ご丁寧に服と同じ真っ黒なマントをはためかせている。少しだけ尖った耳に、ちらりと覗く八重歯からしてすでに予想は確信に変わっていた。

「…二人はヴァンパイア?」
「うん、そうだけど?」

 きょとんとした顔で頷く琉夏を見て、わたしはやっぱりとちいさなため息を吐く。けれどそこではっと我に返り、彼に横抱きにされたままな状態に気がついた。

「る、琉夏くん、降ろして!」
「俺はこのままでもいいけど?」
「よ く あ り ま せ ん !」
「ええー」
「降ろしてやれや」

 すぱん! とコウくんのつっこみの言葉と一緒に手が琉夏くんの頭を張り飛ばした。ヴァンパイアになってもいつもと一緒だなあと妙に感心しながら地面に足をついたわたしは、自分の頭に大きすぎる帽子を被っていることに気がついた。ついでにコウくんから箒を渡された経緯から推測するに、今回のポジションは魔女だろうか。

「早く一人前の魔女になれよ」
「…やっぱり」
「あ?」
「ううん、こっちの話」

 不審な目でわたしを見るコウくんに慌てて手を振り、話題を変えようと試みる。
「えと…そう! わたしここにくるまでに色々あったんだけど、二人は何か知らない?」
「色々って?」
「設楽先輩と紺野先輩は神父さんで、嵐くんとニーナはオオカミ男になっちゃうしで」
「……ちょっと待て」
「え?」
「ルカ」
「ああ、囲まれてるな」

 コウくんが話を遮った途端、二人は真剣な表情で周囲を見渡した。ぐい、と琉夏くんに引き寄せられて、思わず彼を見上げる。琉夏くんは安心させるように笑い返してくれたけれど、それがすぐにまた厳しい顔になるものだから、不安は更に募ってしまう。

「そこにいるのはわかってんだ! 出てきやがれ!」

 声を張り上げて、コウくんが言う。
 数秒の沈黙のあと、姿を現せたのは最初の神父姿の先輩たちと、オオカミ男な嵐くんとニーナだ。
 四人はまさに四面楚歌の状態のように円陣を組み、わたしたちを取り囲んだ。

「この状況なら自分たちが不利だっていうのは、わかるね?」
「大人しく降伏した方が身のためだ」
「そうそう、うちのマネージャーには絶対に怪我なんかさせたくねーし」
「…それでも抵抗する場合は、力ずくでいくしかないけどな」

 それぞれがそれぞれの言葉を発するも、琉夏くんもコウくんもどこ吹く風と言わんばかりに笑っている。そして、

「コウ!」
「おうよ!」
「きゃあ!」

 バサア! と二人がマントをはためかせて、視界が再び黒で覆われる。ついでに再び足が地面から離れ、琉夏くんとコウくんに身体を支えられるような格好でわたしたち三人は空に浮いていた。
 あっという間に遠くなる地上からは、小さくなっていく四人がそれぞれに何か言ってるのはわかったが、はっきりと内容まではわからない。ただ、怒っているのだけはわかったけれど。

「脱出成功」
「だな」
「でもこれって、何も解決しないんじゃあ…」
「じゃあ、連中が諦めるまで逃げればいい」
「悪かねえな」

 そうコウくんが頷けば、二人は揃って笑い始めた。そんな彼らに対して「もう!」と言って一喝したところで、はっとわたしは目を覚ました。
 けれどあまりの目まぐるしい展開の夢にわたしは自分が本当に起きたことに気がつけず、数秒机に突っ伏した体勢のまま固まってしまった。が、ひょい、と見慣れた金髪頭の幼馴染が顔を覗かせてきて、それでようやくグラウンドから上がる運動部の掛け声が耳に入ってきた。

「おはよ」
「…おはよう?」
「おまえ、すごく良く寝てたけど、寝不足?」
「……ではないと思うけど」
「ふうん」

 適当な相槌を返して、琉夏くんは立ち上がる。帰ろう、と促されて、わたしは慌てて立ち上がった。まだどこかふわふわとした感覚が抜け切らないまま、何とか鞄を肩に掛けて琉夏くんの後を追いかける。教室の出入り口で待っていてくれた彼は、わたしが到着した途端、あ、と声を上げた。

「なに?」
「今日ってさ、ハロウィンだろ?」
「そういわれれば…」
「うん、だから、trick or treat」
「え」
「お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうよ?」
「えええっ?」

 ずい、と琉夏くんが顔を近づけてくるので、わたしは思わず後ずさってしまう。そうして、何かないかと制服のポケットと鞄に手を差し込んでみるものの、確かな手ごたえは返ってこない。

「時間切れ」

 琉夏くんはささやくように言ったと思えば、素早く彼の顔が更に近づいてきて、わたしの頬に唇が押し当てられる。しかしそれはあっという間に離れていき、上機嫌で琉夏くんは笑って、言う。

「いたずらしちゃった」
「……もう!」
「逃げるが勝ちだ! Bダッシュ!」
「こら、待ちなさい!」

 身を翻して逃げる琉夏くんを追いかけて、わたしもオレンジ色に染まりつつある廊下を走る。バタバタと足音高く追いかけっこをしながら、いつの間にかわたしも笑っていたのだった。

拍手[0回]

カレンダー

12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

P3P

ザックス身体測定

プロフィール

HN:
なづきえむ
性別:
女性
職業:
萌のジプシー
趣味:
駄文錬成

バーコード

ブログ内検索