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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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ラビと琥一と琉夏の小ネタ

「好きな人との誕生日って、何すればいいんだろう」
「裸エプロン」
「却下」
「なんで? 男のロマンだろ、裸エプロン」
「それは琉夏のロマンでしょ」
「甘いな。コウもああ見えて好きだって、裸エプロン」
「そんなことない」
「ある」
「ない」
「ある」
「ないってば! だってそういうこと言われないもん!」
「……へえ」
「……は!」
「それってどういう状況なのか詳しく聞きたいなあ、オネエチャン?」
「詳しくいうようなことではありません」
「ふうん」
「……」
「……」
「……」
「……なんでずっと笑ってるの!」
「未来のオネエチャンの頑張りを応援したいっていう、弟としての気持ちがにじみ出てるだけだ」
「嘘つかない!」
「嘘じゃない。だからここはやっぱり裸エプロンで」
「またそこに戻るの!?」
「…何騒いでんだオマエら」
「コウ、ちょうどいいところに。さくらが裸エプロン…」
「しません!」
「は? 何の話だ?」
「だから」
「琉夏、いい加減にしないと怒るよ?」
「ちぇ。じゃあお邪魔虫は退散。ごゆっくり」
「……で、何がどうしたって?」
「な、なんでもないなんでもない!」
「……」
「……」
「……」
「……だ、から、その」
「おう」
「……は」
「は?」
「……やっぱり無理!」
「こら待て」
「いやー!」
「俺が悪者みてえな声出すな」
「だったら手を離そう!」
「離したら逃げんだろ」
「うん」
「それがわかってて離すわけねえだろうが」
「よし琥一、まずは落ち着こう」
「落ち着くのはオマエだ」
「だって裸エプロンとか出来るわけないでしょ!」
「裸エプロン?」
「……ッ、無理、やっぱり離して!」
「午後はふけるか」
「何言ってんの!」
「オマエからサービスしてくれるってんなら、受け取らないと悪ぃよな?」
「ちょっとまってお願いどういうことそれ!」
「そのまんまの意味だ」
「琉夏のばかー!」



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久しぶりにラビ書いたら残念な結果になった\(^o^)/

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琥一小話

ハッピーバースデー、コウちゃあああああああああん!!!!!!!!!
というわけで、ものすごく短いですが気持ちとしては全力で祝っています。本当に!生まれてきてくれてありがとうコウちゃん!SUKIDA!!
コウちゃんは琉夏とバンビにやかましく祝われたらいいと思います。そんでウルセーとか言いつつそっぽ向けばいいじゃない。本当はうれしかったりすればいいじゃない。そんなコウちゃんがいとしくしてたまらない。しかしこんなにも好きなのに書けないジレンマ。悔しい!

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 ぱたぱたと足音を起てながら、美奈子は校内を忙しなく走り廻っていた。
 こんなところを氷室になど見つかっては即刻「廊下は走らない!」と注意の言葉が飛んでくるのはわかっているのだが、それでも彼女は走らずにはいられなかった。というのも、今の時間は午前中の授業を終えたお昼休み。朝から休み時間の度に走り廻っているのだが、彼女の目的の人物――幼なじみの片割れである桜井琥一の姿が見つからないのだ。遅刻常習犯な琥一なので、午前中に姿が見えないことは多々あった。それでもひょっとしたらという気持ちに掛けて彼の教室を覗いてみたものの、本人はおろか、弟の姿もないのである。
 それでも休み時間毎に顔を出し、今現在が四回目のトライ中だ。
 お昼ご飯を食べることすら後回しにし、お昼休みに賑わう廊下を通り過ぎる。まず手始めに彼の教室へ行き、そのあとは屋上、購買にも立ち寄って空振り。残るは体育館の裏辺りかと考えて、美奈子は一度足を止めて息を吸い込む。五月も半ばに入いれば、季節は徐々に夏の気配を見せ始めていた。来月には衣替えが待っているけれど、半数以上の生徒が現時点でもブレザーを着ていられないほどの陽気である。美奈子自身も登校時には着ていたブレザーを自分の席に引っ掛けてシャツとベスト姿になっているが、それにしても今日はまた一段と暑い気がする。美奈子は手で顔を仰げば、暑さのせいか、なんだか目眩すら覚えてしまうほどだ。今からこんなに暑いと思ってしまっては本番の夏の到来時にはどうなってしまうのかと考えている矢先に、前方の数メートル先で他の生徒より頭一つ分高い見慣れた後姿を発見した。
 美奈子は殆ど脊髄反射で走り出し、「コウちゃん!」と相手の名前を呼んだ。相手はいつもの顰め面でもって振り返ってくれたが、その途端に何故かぐにゃりと世界が歪む。
(あれ?)
 と。
 歪む世界の中で、がくんと唐突に足場がなくなった気がした。続いて、急激に意識が遠のいていくのを感じる中で、なんだか琥一が慌てた様子で自分を呼んでいる気がしたのを最後に、ふっつりと美奈子の意識は途切れた。


(…あれ?)
 ふっと目が覚めたとき、美奈子は意識を手放したときと同じ言葉を思い浮かべた。薄く開いた目が最初に映したのは、ほんの少し薄汚れた白い天井だ。それから横に視線を動かせば、いつもの顰め面をより険しくさせた琥一と目が合った。
「……気が付いたか」
「コウちゃん?」
 相手の名前を呼んで起き上がろうとして、けれどそれは琥一に寄って塞がれた。両肩を押さえつけられてベッドに沈まされると、琥一が深いため息を吐く。
「オマエな、そんな熱があんのにフラフラ出歩いてんじゃねえよ」
「熱?」
 指摘された言葉をオウム返しのように言って、美奈子は数秒考えた。
 今朝からさっきまでの自身の行動を思い返し、そういえばと思い当たる。確かに朝起きたときは、ちょっとだるい気はしていた。あまつ五月にしては暑すぎる陽気だなとか思ってはいたけれど。
 そうか熱があったのかと今更のよう思い知って、けれどそれらが分かってはいても、間違いなく美奈子は今日、学校に来ていた。それこそ、這ってでも。
 だって、今日だけはどうしても休めない理由があった。
「コウちゃん」
「あ?」
「誕生日、おめでとう」
 そう美奈子が言うと、琥一は動きを止めた。顰め面をぽかんとした表情に変えてから数秒。それはたちまち怒りの感情へとバロメーターが振られていくのがわかる。何となく怒鳴られるのを覚悟して、美奈子はちょっとだけ身構えた。が、予想していた雷は落ちず、代わりに盛大なため息を吐かれてしまう。
「……オマエよ」
「なに?」
「ぶっ倒れてまで優先することじゃねえだろ」
「するよ。するに決まってるよ。だってコウちゃんの誕生日なんだもん」
「だからよ」
「大切な人が生まれた日を、祝っちゃだめなの?」
 琥一の言葉を遮るように言い募れば、再び彼は沈黙した。じっと琥一の目が美奈子を見据え、けれど彼女もまた、相手を真っ直ぐに見つめ返す。
 暫く無言で見つめ合っていれば、先に根負けしたのは琥一の方だった。
本日三度目のため息を吐いた彼は、大きな手で持って美奈子の目を覆い隠す。当然真っ暗になった視界には何も映さない。コウちゃん、と美奈子は見えない視界のままで相手の名前を呼んだ。
「いいから今は寝て、とっとと熱下げろ」
「ん」
「オマエの体調が回復したら、いくらでも祝われてやるから」
「うん。……コウちゃん」
「…なんだ」
「プレゼント、ちゃんと用意してあるんだ」
「そうか」
「ケーキも焼くから」
「あんまり甘くすんな」
 苦笑混じりに言う琥一の声を聞いて、うん、と答えた口元が、思わず笑ってしまえば「寝ろ」とお小言が降ってきた。美奈子は視界を覆い隠す手のひらの下、改めて瞼を閉じればより強く彼の体温を感じられる気がした。そうして、琥一が生まれてくれたから、こうして一緒に居られる。たまにケンカをすることもあるけれど、それもすべて彼がここにいるからこそだ。
 コウちゃん、と声には出さずに胸中で彼を呼ぶ。今日の目的を達成できたお陰か、今更のようにどっと眠気が襲ってきて。
 今度は自分の意志で、意識を手放したのだった。

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天宮小話(コルダ3)

ダークホース天宮。
初登場時はどうしようかと思ったけれど、後半の怒濤の展開に色々持っていかれました。悔しい。でも好き。

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 いつもの練習スタジオに向かう道すがら。前方で人待ちをしているであろう女性の姿を見つけて、天宮は思わず足を止めてしまった。彼の見知った少女かとよくよく観察してみれば、その女性が人違いなのがわかってほっと胸を撫で降ろす。が、すぐにその女性の元へ待ち合わせの相手であろう男性が駆け寄り、仲良さそうに寄り添っていく様を目の当たりにした途端、何故か心臓がずきりと痛んだ。天宮は思わず心臓に手を当ててみるも、しかし手のひらには変わらない鼓動が伝わり、先程の痛みも感じない。そうして少しだけ遠くなった二人の男女の後姿へと、もう一度視線を向ける。
(そういえば)
 と、初めて「彼女」と出会ったことを思い出した。勘違いで自分が予約していた部屋を彼女が使用していたのが始まりで、そのまま会話の流れで疑似恋愛の真似事をするということになった。そうして今日までその奇妙な関係が続いているのだが、あの時「恋をしているのか」という天宮の問い掛けに、「今している」と彼女は答えた。その時はなんてことは思わず、むしろ逆に恋を知らない自分には好都合だとさえ思えた。ただ己の音楽の向上と、知らないものを知りたいという純粋な興味なだけだったのに、今更になって彼女の恋の相手が気になってしまった。
 彼女は誰を想って、どんな恋をしているのか。
 そんな彼女ならば、天宮との関係は迷惑以外の何ものでもないだろう。
 嫌になったらやめてもいいよという自分の言葉を、決して忘れているわけではあるまい。
 けれど、あのお人好しの少女が自分から切り出すとも思えない。ならばここは天宮から言うべきなのだろうかと考えて、途端、今度は痛みではなくすっと胸の奥が冷えていくのを感じた。
 自分がさよならと告げたら、彼女はどんな顔をするのだろうか。
 わかったと素直に了承するだろうか、怒るだろうか、それとも――いやだと泣いてくれるだろうか。
 そこまで考えて、天宮ははっと我に返る。何を考えているんだろう僕は。こんな自分勝手なこと、それこそ彼女に迷惑だ。そう気持ちを切り替えようとした天宮は、頭を振っては空を仰ぐ見た。と、夏の日射しに目が眩む。
 その眩しさはまるで彼女が笑っている姿を彷彿とさせ、またもや心臓が痛んだ気がして。
 けれどその反面で、ひどく彼女の声が聞きたくなった。
 どうかしていると独りごちた天宮は、ため息を吐いて今度こそスタジオに向けて歩き出した。


 持て余している今の感情こそが、彼が求めて仕方ないものだと気が付くのはまだ少し先である。

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新小話(コルダ3)

まだクリアーしていないけれd(ry
新のワンコ具合にきゅんきゅんしつつ、肝試しと花火大会のスチルがさ…もうさ…だめだった…何あの子将来有望過ぎる。あと色々オープンなところが好き。自分の気持ちを隠さず性的なところに持っていこうとする片鱗が伺えるのがいい。そういう自分に正直なところ大好きだ!笑

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 ただいま、と言ってドアを開けると、おかえりという返事は返ってこなかった。元々住居人は極端に少ない寮だ。少し前まではこれが当たり前だったのだが、一時の夏の大会で沢山の人が寝泊まりしていただけに、この寂しさに戻るのはもう少し時間が掛かるだろう。そう考えて、かなでは思わず苦笑する。寂しいのは、何も人がいなくなったからではない。いつも真っ先におかえりと言ってくれる新の声が返ってこないのが、寂しいのだ。
 すでに夏の全国大会は終わり、彼らがここに留まる理由はなくなった。各々がそれぞれの場所での日常があり、新も当然その一人だ。至誠館のメンバーと一緒に仙台へ帰って行ったのはついこの間。新幹線に乗るまで見送りに行くと、発車寸前まで彼はかなでの手を握ってくれていた。
「絶対絶対また会いにくるから、約束するから泣かないで」
 そういう新の方が泣きそうな気がして、思わず吹き出してしまうと新は笑うところじゃないよとむくれた。けれど、そのすぐあとにかすめるようなキスをされてしまったので、軍配的には新の勝ちなのだけれど。
「…敵わないなあ」
 去り際に、大好きだよと囁いた新の声と、表情を思い出す。一つ年下の彼は普段は無邪気に振る舞っているというのに、ふとした瞬間にひどく大人っぽい表情をみせるから困る。そのたびにかなでの心臓は大忙しだ。どきどきとうるさくなる心臓に振り回されてしまい、彼に悟られないように四苦八苦する。だが、大体は筒抜けらしく、緊張してる? なんて訊く彼は無邪気な笑顔だったりするのでそのギャップにまた追い詰められる。
「新くん」
 無意識に彼の名前を呼んでみれば、まるでその返事とばかりに携帯電話が着信を知らせた。あまりのタイミングの良さに驚いて、携帯電話の入ったバックとヴァイオリンのケースを取り落としそうになった。
「せ、セーフ」
 二つの荷物を抱え直し、かなではバッグの中から未だ鳴りっぱなしの携帯電話を取りだした。ら、そこには新の名前が表示されていて、思わず携帯も放り出しそうになる。
「も、もしもし」
 まるで始めて携帯電話を持ったようなしどろもどろさで通話ボタンを押して、返事をする。と、向こうからはいつもの新の声が聞こえてきた。
『今平気?』
「うん、大丈夫だよ?」
『さっき帰ってきたところなんだけどさ、すっごくかなでちゃんの声が聞きたくなっちゃって』

 そんなことをさらりと言われて、うっかり泣きそうになってしまう。
「…ありがと」
『会いたいなあ』
「すぐに会えるよ」
『今、会いたい』
「そんなこといっても、しょうがないよ」
 そうかなでがいってみせれば、そうだけどちょっとだけ不機嫌な新の声が聞こえた。その声に、しまったとかなでは顔を顰める。素直にわたしも会いたいと言えば良かったのに、時折思い出したかのように頭を擡げる年上意識が邪魔をするのだ。我ながらかわいくないと自己嫌悪に陥るのと同時、彼に嫌われるのではないかと瞬時に不安になる。そんな風に考えるくらいなら、最初から素直になっておけばいいのにともう一人の声が聞こえてきて、ますますかなでを落ち込ませた。
『…ごめん』
 つと、電話口から告げられた新の声に、はっと我に返る。かなでが何か言うより先に、新は言葉を続けた。
『こんな子供みたいなことばっかり言ってたら、かなでちゃんに嫌われちゃうよね』
 そういう新に、かなでは心臓が止まった気がした。そう思われるのはこっちだと言いかけて、けれど言葉は音にはならずに喉もとでつかえた。今すぐにでも新の顔がみたいと願って、けれど横浜と仙台の距離の前では為す術もない。しょうがないと割り切ったふりをしていたのは、そのどうしようもない現実を受け止めたくなかったかなでの方だ。すぐに会える、なんて言葉は誰よりも自分自身を誤魔化すため。だってそうでも言っておかないと、新がいないことがさみしくてさみしくて仕方がないのだ。
「新くん…」
 彼の名前を口にすれば、予想以上に情けない声が出た。ついで、言葉がつかえた喉がひきつる。
 どうしよう、泣きそう。
 けれどここでかなでが泣いたりしようものなら、優しい新に心配を掛けるのは明白だ。どうにか誤魔化さなければと考えて、けれど打開策が見つからないまま結局黙り込んでしまう。
『かなでちゃん』
 つと、新の声が耳に届く。その声は十分過ぎるほどかなでの涙腺を刺激する。
『すぐに会いにいける距離じゃないけど、その分いっぱいメールする』
「…うん」
『電話もする』
「……うん」
『だからさ、オレのこと好きでいて?』
 そう言う新に、三度目の頷きは殆ど声にならなかった。すでに視界は涙の膜に覆われていて、決壊するのを待ってるみたいだ。浅くなる呼吸を落ち着かせるように胸に手を当て、深く深呼吸。ほんの少しだけ落ち着いたような気がして、かなでは改めて電話の向こうにいる新へと意識を向けた。
『あ、あと』
「なに?」
『おかえり。言うの忘れてた』
 不意打ちにもほどがある彼の優しさに、せっかくやり過ごしたはずの涙はあっさりと勢いを取り戻した。
 結局泣き止むまで新に散々宥められるはめになるのだが、その一週間後にひょっこりと顔を出した彼にもう一度かなでは泣くことになる。



「あれ、なんで泣くの!?」
「だって…新くんがびっくりさせるから!」
「ええー! 喜ぶところじゃないのここ!」
「喜んでるよ!」
「泣いてるじゃん!」
「うれし泣き!」
「なんだ良かったー!」
「……二人とも、余所でやってください」
「あ、ハルちゃん、今晩泊めてね」
「帰れ!」

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土岐小話(コルダ3)


まだクリアーしていないけれども蓬生さんにほいほいされ過ぎてカッとなって書いた。反省と後悔は今のところしていないが、あとからやってくるかもしれない。とりあえず蓬生さんがイケメン過ぎて生きるのが辛い。
くっそー蓬生さん好きだー。

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 寮の出入り口のドアから外に出て、ぐるりと回って裏手に向かう。まだ午前中とはいえ、夏の日差しは熱く刺さる。太陽の眩しさに目を細めながら進んでいくと、裏手は予想通りに日陰を作っていた。今日はまだ練習にいく気になれず、けれど自室に籠もっている気分でもなかったのでちょっとした気分転換だ。ここで少しだけ風に当たってから出かけよう。そのためにバイオリンケースも持ってきていた。
 かなでは太陽に向かって咲くひまわりを見つめながら、更に足を進めていく。
 と、そこに先客の姿を見つけて立ち止まった。
「土岐さん?」
 視線の先にいる人物の姿を確認して、その名前を呼んだ。すると読書をしていたらしい土岐は本からかなでへと視線を上げ、こちらを見据えると表情を和らげた。
「なんや、小日向ちゃんやないか。自分も涼みにきたん?」
「はい、練習前にちょっとだけ」
「こうも暑いと、外に出るのは億劫やもんなあ」
 そういって、土岐は夏晴れの青い空を見上げた。かなでもつられるように空を見上げると、ところで小日向ちゃん、と言って土岐がこちらの手首に触れてきた。
 かなでは驚いた表情で土岐を見返せば、彼はお得意のきれいな顔でわらう。その笑みにどきりと心臓が高くなるも、落ち着け落ち着けと自身に言い聞かせる。彼がこういった態度を取るのは初対面のときからではないか。いちいち狼狽していては心臓が持たないと思いつつも、やっぱり整った顔立ちの土岐からされると平常心ではいらないのもまたかなしい現実である。
「なんですか?」
「『蓬生さん』って呼んでって、いうたやん」
「へ?」
「名前。土岐さん、なんてちょっと他人行儀で傷つくわ」
 他人も何も他校だし。ということはこの場に響也か遥人がいれば代わりに言っていたことだろう。しかし残念なことに今この場にいるのはかなで一人で、彼女はそういった切り返しはできないタイプだった。あまつ、手首を掴んでいた手はいつの間にか手を繋ぐようなそれに変わっているのもあって、かなでの心臓はばくばくと忙しなく活動中だ。繋がれた手からこの心臓の音がバレるんじゃないかという気すらして(そんなことはないだろうが)、余計にかなでの頭を混乱させた。
 対して土岐はといえば、いつも通りの飄々としたマイペースのまま――否、いつもより拍車を掛けて甘い声を出して見せた。
「ほら、呼んでみ?」
「え…あの」
「呼んでくれんと、この手は離せへんなあ」
 そんなわけねーだろ!
 と、まさにそのつっこみこそ響也がいれば発動されていただろう。けれどやっぱりつっこみ役は不在で、かなではどんどん追い詰められる。気が付くと土岐が立ち上がり、かなでへと顔を近づけてくるではないか。
「……えっと」
 まるで肉食獣に狙われた草食動物よろしく、かなではじりじりと後退する。当然手は繋がれているので、後退しても土岐は一緒についてくる。じゃり、とローファーが砂利を擦る音が妙に大きく聞こえる。すると、セミの大合唱が始まった。それにはっと我に返ったかなでは、後退する足を止めて土岐へと向き直る。
「と、土岐さんが」
「うん?」
「土岐さんがわたしのことを名前で呼んでいないので、わたしも呼びません!」
 一息に言い切った途端、かなでは土岐の手を振り切ってその場から逃げ出した。日陰から飛び出した夏の日差しに一瞬目が眩んだけれど、そんなことで止まれるはずもない。かなでは寮から出た大通りすらも駆け抜けていった。
「……」
 一人その場に取り残された土岐は数秒沈黙をしたあと、堪えるように肩を震わせて笑い始める。くすくすと零れる笑いを抑えるように、口元に手を抑えるがあまり効果はないようだ。
「そうくるとは…面白い子やなあ」
 一頻り笑いの波が去ったあと、土岐は独りごちた。
 新しいおもちゃを見つけたような表情を浮かべ、走り去っていった彼女の背中を追うように目を細めたのだった。

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