時折やってくる荒垣×ハム子ブーム。
周りに荒ハムスキーがいなかったから色々参加しそこなったり出しそびれたり妄想し損なったりしたけど本当に好きなんだよこの二人!
ちょっと久しぶりにプレイし直したい。私に気力があったら荒ハムの本編沿い長編とか書きたかったんだうおー!…それくらい好きなんだ荒ハム…
キタローも大好きだけど、ハム子が本当に可愛すぎてハム子贔屓してしまう…ごめんキタロー。君は美鶴先輩と幸せになってくれといつつ、女キャラでは美鶴先輩贔屓な私です。戦闘でも重宝してるよ!
そんな渡井のP3P戦闘メンバーはハム子、美鶴、明彦、ケンちゃんです。
ハム子の名前は中原律子です。
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ペルソナ。
それはもう一人の「自分」だと、あの青い部屋の主人であるイゴールと名乗る老人は言う。そうして、同時に「力」を手にしたとも。
実際、ペルソナ能力に目覚めなければあのタルタロス探索など到底できはしない。月に一度やってくる大型のシャドウは元より、小型のシャドウにすら歯が立たないのだから。そもそもペルソナがなければ影時間で自我を保つことすらままならず、この力を無碍にできないのが現状だ。しかも自分だけが自由に無数のペルソナを変えて使用できるのだがら、S.E.E.Sのメンバーが自分に見えない可能性を寄せるのは仕方のないことだと、思う。
普段はその期待に対して、現状で出来る以上の行動をしようとは思わない。できることをするのみだと日々の生活と影時間の狭間を生きてはいるが、ふとした瞬間に、急に気持ちが落ちることがある。
それは何の前触れもなく、唐突にやってくるから困りものだ。
不意打ちで現れて、律子の思考を暗い方へ暗い方へと手招きをする。
いつもならその遠くで揺れる手を眺めるだけに終わるのだが、今回は自分からその手に近づこうとしているのがわかった。
だから律子はなるべく深く考え込まないように、自分の部屋から出て寮の談話室のソファーに据わっていた。夜はとっくに更けているので、当然誰の姿もない。けれど部屋に一人で居るよりはマシな気がした。一人きりの部屋で、一人きりで目を閉じていると、本当にあの暗闇の中の手を取ってしまいそうな気がしたから。
あの手を取ってしまったら、もう引き戻せないのは本能が知らせている。
(しっかりしろ)
と、内心で呟く。言い聞かせる。しっかりしろ。この戦いで、辛くない人なんかいない。皆それぞれに抱えているものがあって、そのために戦っている。だから、こんな風に自分だけ揺れるわけにはいかない。しっかりしろ。
律子はソファーの上で膝を抱えると、顔を俯かせてきつく目を閉じた。自分の中の何かがざわめくのがわかる。徐々にその「何か」は大きく膨れあがろうとして、まるで内側から律子を食らおうとしているかのよう。ぐっとさらに膝を引き寄せるように、組んだ腕に力を込める。すると、
「こんなところで夜更かしか」
すぐ隣から、第三者の声が割って入ってきた。完全に虚を突かれた律子は俯いていた顔を上げて、第三者の姿を確認する。相手はいつもの目深にかぶった帽子は脱いで、服装も寝る格好なのかラフな部屋着姿だ。あまり見慣れない格好に一瞬思考が停止し、けれど口は相手の名前を呼んでいた。
「荒垣先輩」
呼ばれた人物は返事の代わりに律子の隣に座った。もう一人分の体重を受け入れて、ソファーが沈む。
「明日も学校があんだろうが、さっさと寝ろ」
「…はい」
言われる言葉に頷きつつも、律子は立ち上がることが出来ない。
「俺は、口が悪い」
「……は?」
唐突な切り出しに、律子は再び目を丸くする。膝に戻した視線を荒垣に向けると、荒垣は苛立たしげに目を細めていた。その横顔を見つめていると、ちらりと視線が投げられる。その目にどきりと心臓が鳴り、ほんの少しだけ身構えた。
「慰める言葉なんて知らねえし、俺たちにはそんなことをしてる暇なんてねえ。けど、一人で抱え込むのだけはやめとけ」
「先輩」
「そもそもオマエの柄じゃねえだろ」
「が、柄じゃないってどういうことですか!」
「ラーメン奢ってやるつっただけですぐに尻尾振るだろうが」
「コロマルと一緒!?」
「さあて、コロマルの方が鼻が効くかもしんねえな」
先輩! と思わず大声を上げようとして、今が夜中なのを思い出した。一階とはいえ、誰かが騒いでいる気配は静まり返った建物内では以外と響くものだ。
「…わたしだって、悩み事の一つくらいあります…」
「言ってみろ」
「……え?」
「だから、言ってみろっつってんだ」
促す言葉は素っ気ないものの、荒垣の雰囲気はひどく優しい。初めて出会ったときから突き放すような言葉ばかりを言う人だけれど、よくよく思い返してみればそんな中でもいつも相手を気遣う言葉を掛けていた。ただ、自分で言ったようにひどく口が悪いので、とてもわかりづらくはあったが。
しかしその事に気が付けば、荒垣の人となりはとても暖かいものだ。その証拠に人見知りの風花などが、自分から話しかけて料理を教えてもらっているのだから。
――優しい人なのだ。
そのことを改めて知って、律子は泣きそうになる。どうしようと内心で悩むふりをしながら、すでに気持ちは甘える体勢に入っている。
(今だけ)
辛うじて、ささやかな言い訳を作る。律子は顔と身体を荒垣に向け、相手の目を見る。言う。
「馬鹿なこと、聞いてもいいですか?」
「あ?」
「……わたし、ここに居ますか?」
「……」
「ちゃんとここに『わたし』が居るのか、時々すごく不安になるんです。わたしの中にある『何か』に飲み込まれそうになって、それがすごく」
こわい。
最後の単語は口には出せず、胸中でのみ呟いた。そうだ随分前――ペルソナ能力に目覚めてから、この恐怖が律子の周りをついて回ってきた。多種多様、様々な姿形のペルソナを操るのを目の辺りにするたび、どれが本当の自分なのかわからなくなる。ペルソナがもう一人の自分だというなら、こんなにも沢山の『わたし』の中でどれが本当の『わたし』なのだろうか。
そうして深く深く考えていくと、行き着くのは初めてペルソナを発動させたあの日の影時間のこと。
吸い寄せられるみたいに銃口をこめかみに押し当て、まるで操られるようにペルソナと唱えて、引き金を引いた。そうして頭の奥でその言葉が弾けた途端、力が溢れたのだ。その力はまるで決壊したダムのように一気に溢れ返り、律子の意識をあっという間に飲み込んだ。そうして遠のく意識の中。
こわいと、思った。
このまま『わたし』が消えてなくなるのではないかという恐怖に煽られ、夢中に必死に手を伸ばしたのを覚えている。
その恐怖は普段は忘れているけれど、こんな風うに唐突に顔を出しては律子の精神を少しずつ蝕んでいく。
「中原」
低い声で、荒垣は律子の名前を呼ぶ。そうして彼女の頭の上に手を置く。
「ちゃんと、ここに居るだろ」
「…はい」
「オマエも、俺も、他の連中もここにいる」
「……はい」
「この戦いの全部をオマエが一人で背負うことはねえんだ。気張るな」
がしがしと乱暴な手つきで髪の毛がかき混ぜられる。ぐしゃぐしゃになっていく髪に、しかし文句を言うでもなく律子はただされるようにされるままだ。
俯いた視線が、上げられない。
今、まともに荒垣の顔を見てしまったら、泣かない自信がなかった。
そこはまでは甘えてはいけないと、律子は下唇を噛んで口元を引き締める。
「…ありがとう、ございます」
どうにか絞り出した声は震えていて、泣くのまでは時間の問題だった。さっきまでは自分の部屋にいるのが嫌だったはずなのに、今はすぐにでもこの場から立ち去りたくて仕方ない。
だって、気が付いてしまった。
荒垣の隣は居心地がいいと、こんな時にわかってしまった。
「…寝ます。おやすみなさい」
「おう」
上手く動かない身体をどうにか立たせて、律子は奥の階段へと向かう。そんな彼女の背中へと、荒垣は呼びかけてきた。一瞬、振り返るのを躊躇してしまう。しかし無視をするわけにもいかず、結局伺うように振り向いた。すると荒垣はソファーに座った体勢のままで、続ける。
「明日、ラーメン食いにいくか」
「え」
「景気づけだ。奢ってやる」
にやりと笑う荒垣の顔に、心の引っ掛かっていた毒気が抜けていく気がした。行きます、と声を絞り出したような返事を返し、律子は三階まで階段を駆け上った。なるべく足音や物音を起てないように気をつける余裕は何とか残ってくれていたらしい。しかし部屋に入ったと同時に、律子はベッドに辿り着く前にその場にしゃがみ込んでしまった。我慢していた涙が頬を流れて、手のひらの上にぱたぱたと落ちる。
(今だけ)
そうして、律子は先程作ったささやかな言い訳をもう一度掲げる。今だけ、先輩の言葉にだけ、甘えさせてください。胸中で独りごちて、律子は泣き止むまでその場にしゃがみ込んでいた。
翌朝、すぐに鏡で見つけた自分の目元は予想よりも腫れていないことに少しだけ安心した。これなら単なる寝不足と誤魔化せると胸を撫で降ろし、部屋を出る。
昨夜とは打って変わって人の気配のある談話室へと向かって階段を降りていくと、帽子を目深に被った荒垣の姿を一番最初に見つけた。
「先輩」
声を掛けると、荒垣はすぐに律子を見た。視線が合う。どき、とちいさく心臓が鳴る。
「…おはようございます」
「おう」
言って、荒垣は昨日と同じように髪をかき混ぜてきた。
「先輩、ラーメンの約束、忘れないでくださいね」
「そんな食欲がありゃ、心配する必要ねえな」
律子の言葉に、荒垣はにやりと笑って応える。その顔にうっと一瞬言葉に詰まりながらも、
「約束は約束です」
と、律子は念を押すように言って。
いつも通りに、笑えた。
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