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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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佐伯とデイジーと赤城

ふと佐伯×デイジー←赤城妄想が頭を過ぎったら悶々としてきた昨今ですどうも。
佐伯と赤城くんは友達というよりは悪友になったらいいと思います。いつも佐伯の行動を封じるように先回りする赤城にいらいらすればいい。デイジーのことも隙あらば奪っちゃうよくらいのことを言われたりしてやきもきすればいいのに佐伯が。
けれどうっかり矛先が赤城ではなくデイジーに向けられ、八つ当たりしちゃったりするのが佐伯クオリティー。

「おまえもうあいつと関わるな」
「なんで?」
「なんででも」
「赤城くんは大事な友達ですけど」

とデイジーの会話選択ミスによりケンカ勃発である。佐伯が引かなければデイジーも引かない。ぎゃんぎゃん言い合って「もう知らない!」ってなるものの結局赤城くんが間に入って仲直りするわけです。しかしそもそもそれが気にくわない佐伯である。そんな赤城くんと佐伯のデイジーを巡った微妙な友情ラインを妄想してはあはあしてたらごらんの有様です。佐伯どこいった

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 いくら彼女になったからといって、彼がモテるという事実が変わらないと思い知ったのは大学に入学してすぐのことだ。
 高校時代ほどきゃあきゃあと黄色い声を上げられて囲まれるわけではないけれど、気が付けば見知らぬ女性に声を掛けられている姿をそこここで見かけていた。そうして完璧な外面スキルによる笑顔に騙される瞬間を目の当たりにさせられるあかりは、片思いのときより複雑な気持ちでいっぱいなのであった。
「――つまり、惚気?」
「なんでそうなるの!」
 だん! とあかりは両手を拳にして、食堂のテーブルを叩いた。時刻はすでにお昼は過ぎているので、人の集まりはまばらだ。なのであかりの行動が注目されることはなかったが、ついでに言えば、向かいに座って話を聞いていた相手――赤城一雪もどこか呆れた顔でもって、アイスコーヒーが注がれたグラスを引き寄せた。グラスから伸びるストローに口を付けて、一口飲む。訊く。
「今の一連の流れを訊いて、惚気以外になんて言ったらいいんだ?」
「相談だよ! 立派な悩み相談でしょ!」
「…そうかな」
 あかりの主張に小さく反論して視線を逸らすも、そうだよ、と強い口調で食い下がられた。赤城はもう一口コーヒーを飲んで、内心でため息を吐く。目の前の少女に恋をしていたのは、数ヶ月前までのことだ。好きだと自覚したこと事態は年単位になるのだが、様々な理由から結局思いを伝えることなく玉砕してしまった。というのも、今まさに彼女にされている「悩み相談」の内容が最大の原因である。
 つまり、告白する前に彼氏が出来てしまったという、もっとも不完全燃焼パターンだ。
 元々あかりははばたき学園、赤城は羽ヶ崎学園の生徒だった。違う高校に通うという大きなハンデではあったけれど、偶然か必然か、彼女とは街中や学校同士の繋がりで幾度も会う機会には恵まれていた。そんな中でどうにかデートにもこぎ着けたこともあって、二人で出かけたりもした。――のだが、最終的に恋の神様は赤城に微笑むことはなかった。結局彼女は違う男の手を取ってしまい、何の因果か彼女とその恋人と同じ大学に進学する結末が待ち受けていた。
 小説やテレビドラマならば、思い人に恋人ができた時点で「END」が打たれて物語りは終わるが、現実はそうもいかない。止まることのない時間は着実に進み、当然あかりがこちらの気持ちを知る由もない。さらに高校時代より遙かに顔を合わせる機会が増えた彼女にとって、赤城は唯一愚痴を零せる「オトモダチ」なのだった。
 こんな位置に落ち着くはずじゃなかったんだけどなと独りごちて、赤城は彼女へと向き直る。あかりはさっきまで握っていた拳を開いて、今はその手の上に顎を乗せている。眉を寄せて心の底から「困った顔」をしてみせるから、こちらの方も負けないくらい困ってしまう。
 そんな風に無防備に隙を見せられたら、付け入りたくなってしまうじゃないか。
 ふと、自分の中に沸き上がる雑念を慌てて振り払い、赤城はこっそりとため息を吐く。海野さん、と呼びかけると、大きな目が赤城を見た。失恋したとわかってはいても、やっぱりその目に見つめられるとうっかり心臓が騒ぎそうになるのを理性で押しとどめる。
 そうして、彼女の理想の「オトモダチ」である赤城一雪としての表情を浮かべてみせた。
「多分、というか…海野さんの取り越し苦労になると思うよ」
「……なんでそう言い切れるの?」
 端から見たら分かりやすすぎるくらいあかりにぞっこんだからです。
 思わず言いそうになったその言葉は、しかし赤城は寸でのところで飲み込んだ。今の状態なあかりにそれを言ってみたところで、「でも」や「だって」の反論を繰り返して堂々巡りになるのが目に見えているから。
 赤城は少しだけ思案し、言葉を選ぶように慎重に口を開いた。
「考えても見なよ。相手は『あの』佐伯だよ?」
「え?」
「佐伯が外面を使わなくていい相手なんて、海野さん以外に見たことないよ。違う?」
「…赤城くんだってそうじゃない」
「いや僕男だし」
 あかりのささやかな抵抗の言葉を、赤城はにべもなくばっさりと否定した。とはいえ、否定するまでもなくそんなことはわかりきっているのだろう。その証拠に赤城が指摘した内容はずばり的中したらしく、さっきまでの自信のなさそうな表情が引っ込んだかと思うと、見る見る頬から顔全体に羞恥に赤が広がっていった。そんな風に赤い顔を俯かせる彼女の様子を見ながら、やっぱり惚気じゃないかと胸中で呆れる。
 ふっと短く息を吐いて、赤城は最後のだめ押しを突いた。
「まあその辺は、僕なんかより海野さんのがわかってるだろうけど」
「…う、ん」
「とりあえず、佐伯にメールでもしてみたらいいんじゃない?」
「そうする…」
 促されるまま、あかりは鞄から携帯電話を取りだす。
 赤城はメールの内容を考えているあかりを見つめていると、ちょっとだけ意地悪な気持ちが頭をもたげた。意地悪というか忠告というか、これくらい言ってみても罰は当たらないよなと言い訳のような前置きを内心で呟く。海野さん、と呼びかければ、相手はあっさりと顔を上げた。
「あのさ、こういう話って僕より先に女友達とかに相談してみるのもいいんじゃないか?」
「そうなんだけど、竜子さんも密ちゃんも忙しいみたいだから」
 あかりが口にした二人の友人の名前に、思わず自分の顔が引きつったのがわかる。はばたき学園を訪れた際に、何度かその二人と顔を会わせたことはある。あかりの『親友』だと紹介されたが、そのたった数回のやり取りでも十分過ぎるほど、竜子と密を敵に回してはいけないと本能が察していた。
 ヘタな男が近づくより、よっぽど手強いボディーガードが付いた恋人はさぞかし気苦労が耐えないだろうと考えて、赤城は少しだけ佐伯に同情を覚えた。
「赤城くん」
 つと、メールを送信し終えたらしいあかりが携帯電話を畳んで赤城を呼んだ。真正面から視線がかち合うと、彼女はちょっとだけ気まずそうに視線を泳がせた。けれどそれも数秒のことで、再びその目が赤城に向けられると、「色々、ありがと」と言ってはにかむように笑ってみせた。
 そんな彼女の幸せそうな顔を目の当たりにすると、やっぱりあかりを恋人にできた佐伯に対して、羨ましいという気持ちが先に立ってしまうのであった。
(だからやっぱり惚気じゃないか)
 ふと我に返った赤城はそう結論づけて、残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干した。
 コーヒー特有の苦みが口の中で広がって、それがまるで自分の心境を表しているみたいだなんてことには、無理矢理気が付かないふりをした。

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天童小話

初天童小話。
意外と難しいな天童!でも好き!!


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 最近ではすっかりお馴染みになっている、喫茶店勉強会。
 今日も今日とてはばたき学園校門前で美奈子を待っていた天童と二人、教科書を広げてペンを走らせる。
 大体は向かい合わせのボックス席に座るのだが、今日は空きがなかったのでカウンター形式の席に隣同士で座っていた。
 美奈子はちらりと隣に座る彼の横顔を伺い見る。まばらな金色の髪の毛はまさに不良少年代表であるようだが、教科書に目を落とす視線はまったくの別人だ。真剣に勉強に取り組む姿は素直に応援したくなる。が、最近はそれ以外の感情がちらちらと美奈子の胸の中を過ぎっていく。しかしその感情の正体が何かまではわからず、ただもやもやぐるぐるした、うれしいような苦しいような、どっちつかずの感情に振り回された美奈子はこっそりと頭を抱えていた。
「どうした?」
「な、なんでも!」
 ふいに天童が教科書からこちらに視線を向けてきたので、不意打ちで合ってしまった視線に美奈子の心臓が高く鳴った。次いで、どきどきどきと短く鼓動を続ける鼓動を自覚しながら、自分のノートへ逃げるように向き直る。しかし、横にいる天童からの視線はいまだこちらに向けられているのを感じて、どうしよう、と内心で焦る。誤魔化すべきか、無視し続けるべきか。そう美奈子が悩んでいると、急に頭の上に手が乗せられた。
 え、となって思わず天童へ振り向くと、天童は今まで見たことのない優しい目で美奈子を見ていた。――から、再び彼女の心臓は先ほどより二割増しで強く鳴った。
 と、
「おまえ、俺んちの近所の犬に似てる」
「へ…?」
「すげー人懐っこい柴犬がいてさ、おまえにそっくり」
 言って、天童はわっしゃわっしゃと美奈子の頭を撫でる。前髪が目の前で乱れるのと一緒に、まるで同調するみたいに美奈子の胸中も乱れてゆく。
「……わたし、犬じゃないもん」 
 呟くほどの音量で言って、美奈子は天童の腕を捕まえて頭の上から退けさせる。ついでに視線も逸らすように俯けば、天童の少しだけ戸惑ったような気配が伝わった。言う。
「なあ、怒った?」
「怒ってません」
「怒ってるじゃん」
「…勉強、するんでしょ」
「そうだけどよ」
 ピンク色のシャーペンを握り直し、美奈子は再び課題へと取りかかる。ちらちら伺うような視線を隣から感じるものの、美奈子は敢えて無視を決め込んだ。
 暫く二人揃って、無言のままにそれぞれの課題をこなしていく。いつもならば言葉のない時間を苦だと感じたことはないが、今日は息苦しくて仕方がない。つい左の手首に巻かれた時計に目を向けてしまう。5分も経っていないことを確認して、こっそりとため息を吐いた。すると、そのタイミングを見計らったかのように、天童が再び声を掛けてきた。
「な、ケーキ食う?」
「…餌付けなんかされません」
「…やっぱ怒ってるじゃねえか」
 天童の指摘に、美奈子は思わず口ごもる。その態度がすでに肯定であるけれど、悪あがきのように天童の方へ視線は向けない。無意味に教科書の数字を目で追ってみたりしていると、「なあ」と天童が美奈子の顔を覗き込んできた。隣に座っているのだから、距離を詰めるのは用意だ。がた、と椅子が引かれる音と一緒に、天童は身体ごと美奈子に近寄る。
「悪かったって」
「……」
「もう犬とか言わねーから」
「……」
「美奈子」
 つと。
 急に名前を呼ばれて、ぴくっと肩が揺れる。思わず天童を見てしまいそうになった視線を踏みとどめるように、美奈子はシャーペンを握り締める。と、間を置かずに再び「美奈子」と天童は彼女の名前を呼んだ。
 そういえばと、美奈子は気が付いてしまった。
 彼と出会ってから今日まで、こうして勉強会を行う間柄になっていていたものの、名前を呼ばれたことは一度もなかったことに。
「美奈子ってば、なあ」
 先程より縋るような色を付けて、天童は三度目の美奈子の名前を呼ぶ。
 顔が熱い。
 身体の内側が、熱い。
 まるで以前から呼んでいたような慣れた口調で呼ぶ声に、さっきまでの不機嫌な気持ちはあっさりと相殺されてしまった。しかしそれとともに、まるで自分一人だけが動揺しているみたいではないか。
「……ガトーショコラ」
「は?」
「ガトーショコラで、許してあげる」
「結局食うのかよ」
「提案してきたのは天童君でしょ」
「はいはい、お嬢さんの仰せのままにっと」
 ふざけたような口調でもって、天童は近くを通るウエイトレスへと声を掛けた。
 その隙に美奈子は席を立ち、トイレへと逃げ込んだ。
 ほんの数分の時間稼ぎだが、今よりはクールダウンして天童の元に戻れるようにと、鏡に映った真っ赤な顔の自分自身へと切実に願っていた。

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走ってきた人はセーーーフ!!!!

なわけあるかああああああああああああああああ!!!!!!!

完全に遅刻ですが、ふいに小ネタが降臨したので上げておきますのまさかの琉夏誕。
卒業後の琉夏とバンビでござる。同棲はしてないよ!でも合い鍵は渡してあるよ!
そんな前提を説明をしなければいけないくらいの残念さである。

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 いつもなら惰眠を貪っている時間ではあるけれど、今日は自然と目が覚めた。しかも時間を確認してみれば、まだ朝の六時だ。二度寝をする資格は十分にある時間だったが、琉夏はどうしてかベッドから起き上がった。カーテンを開いて外を見やれば、七月を迎えたからというわけではないが、十分に明るくなっていた。琉夏はあくびを一つして寝室を出る。そのまま洗面所に向かおうとして、つと、台所への違和感に気が付いた。
 ――誰か、いる。
 一人で暮らしているからだろうか、自分以外の気配には敏感になってしまう。とはいってもその「誰か」の心当たりなど、たった一人しかいない。もしくは本当にただの泥棒だろうけれど、そもそもこんなおんぼろ一軒家にわざわざ狙いをつけて入ってくるような輩もいないだろう。そう中りをつけつつも、一応用心のためにと足音を立てないようにしながら近づいてゆく。台所へと続くドアも慎重に引いて、ほんの数センチの隙間を開けた。すると、流し台の前で何やら器具や食器を扱っているらしい、琉夏が予想を立てていた「彼女」の背中を見つけた。肩口で切りそろえているボブカットの毛先が揺れている。
「み」
 呼びかけようとして、琉夏は口を噤んだ。というのも、咄嗟にちょっとしたいたずら心が沸き上がったからだ。琉夏は数センチほど開けたドアを自分一人が通れるほどまで開く。全神経を美奈子と足音に向け、彼女に気付かれないように一歩、室内に踏み込んだ。ら、
「え」
「あ」
 琉夏が二歩目の足を踏み出したところで、不意打ちで相手が振り返ってしまった。ばっちりしっかりお互いの目と目が合ってしまい、二人同時に固まってしまう。だが、先に我に返ったのは美奈子の方で、今し方自分が使っていた流し台を隠すように両手を広げた。「通せんぼ」のような状態になりながら、美奈子は焦ったような声を出す。
「な、なななんで琉夏くんがいるのっ?」
「いやここ俺の家だし」
「そうだけど!」
「むしろこんな朝早くから来てる美奈子こそどうした? 夜這い? あ、朝だから朝這い?」
「どっちにしても違います!」
 琉夏の惚けた言葉にすぐさま突っ込みを入れつつも、美奈子は流し台の前からどことうはしない。あからさまに背後にある「何か」を隠したがっているのは明白だ。琉夏は背伸びをして美奈子の背後にある「何か」を覗き込もうとすると、美奈子も同じように背伸びをし、琉夏の視線をブロックする。反対側から同じように覗き込もうとすれば、やっぱり相手も琉夏の視線を阻止すべき身体を張る。二三度同じような動きを繰り返し、ぴたりと琉夏は動きを止めた。じっと美奈子の目を見つめれば、一瞬だけ彼女が怯んだ。当然琉夏はその隙を逃すはずもなく、真っ正面からがばっ! と美奈子に抱きついた。
「わ!」
 短い悲鳴を上げる彼女にはかまわず、琉夏はそのまま美奈子のを腕の中に抱え込む。元々身長差があるので、こうしてしまえば彼女の作る壁など乗り越えたに等しい。
「琉夏くん!」
 非難めいた抗議の声が腕の中で上がるけれど、時既に遅し。琉夏は美奈子の背中に隠されたものを見つけてしまっていた。
「……美奈子、それ」
「……」
 一見しただけで「それ」が何であるかはわかったけれど、美奈子の口から直接聞きたくて琉夏は問う。けれど腕の中の彼女は大層不服そうに唇を尖らせていた。おそらく、というか確実に琉夏をびっくりさせようとしてくれたのだろう。だからこんな中途半端な形でバレてしまったことが解せないのかもしれないが、琉夏にとっては十分過ぎるほどのサプライズだ。
「……今日は琉夏くんの誕生日だから」
「去年のクリスマスみてえ」
「量は足りないけど、あのときより豪華にしてみました…」
「うん、ちょううまそう」
 言って、琉夏はわらう。視線の先にあるのは全長20センチほどのホットケーキのタワーだ。一番上に重ねられたホットケーキには生クリームやフルーツで色とりどりにデコレーションがしてあり、チョコレートのプレートには「ハッピーバースデー」の文字が書かれている。
「…絶対琉夏くんが起きてくるのは昼過ぎだと思ってたのに」
 未だむくれた様子の美奈子のぼやきに、琉夏はますます愛しさがこみ上げてきた。どうして彼女は、こんなにも簡単琉夏を幸せにすることができるのだろう。
 卒業式のあの日。
 気持ちが通じ合って、きっとあれ以上の幸せなんてないと思った。
 けれど美奈子はそんな琉夏の予想を遙かに超えていく。
「美奈子」
 彼女の名前を呼び、ぎゅーっときつく抱きしめた。
「これ、食っていいんだよな?」
「いいけど、今から?」
「うん」
「…胸妬けしない?」
「愛があるから大丈夫」
「なにそれ」
 琉夏の言い分に、美奈子は吹き出した。くすくすと笑う彼女の額にキスをすれば、お返しとばかりに頬に唇が押し当てられる。そうして暫くキス合戦を繰り返したあと、美奈子が「誕生日おめでとう」と言ってくれた。


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ワンコ琥一


最近ちょっとだけブームなわんこ琥一。
人形に犬耳ついてるような状態でござる。
だがしかしちょっとマニアックなので畳みます。こんな設定ありかしらというお試し的な小話。



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年上新名小話

相も変わらずのスランプでござる。
とりあえず無理やりにまとめてみた出会い編のようなもの。
新名を先輩呼びし隊。


 高校に入学したらナンパは卒業。
 それは以前から決めていたことだった。だから本日無事に入学式を終え、まだ真新しいはばたき学園の制服を着た新名は高校生としての最初で最後のナンパに繰り出していた矢先だった。OL、大学生、同年代の高校生と様々な人が行き交う中、ふいに一人の後姿に目が留まった。
 特に目立つ格好をしているわけではない。ごくごく普通の、逆に言えば普通過ぎて目立たないタイプの少女だ。肩口で切りそろえられている髪も、やっぱりよくありがちなボブカットだ。目立つカラーを入れてるわけでもない。
 しかし新名は、殆ど無意識にその後姿を追いかけていた。平日というのもあってか、まだ人はまばらで彼女を見失わずに済んだ。元々男女のコンパスの差も手伝って、二人の距離はあっという間に縮まる。新名は相手のすぐ後ろまで近づいたところで、延ばし掛けた手を引っ込める。いやいやいや、落ち着けオレ。背後からいきなり声掛けるとかナンパじゃなくて不審者だろうが! ていうかナンパ初心者か!
 そう内心で地団駄を踏みつつも、さてどうするかと考える。このままずっと後を尾けていたらそれこそストーカーに他ならない。
 うーんと新名が考えている矢先、妙に派手な頭が視界に入った。まだらな茶色を逆立てたかのようにボリュームを持たせたその頭の持ち主は新名を追い越し、目の前の彼女の前に回り込む。そして、
「ねえねえカーノジョ、暇? 俺とお茶しない?」
「え…?」
 なんとも唐突、かつ無遠慮な言葉に少女は足を止めさせられた。きょろきょろと周囲を伺う彼女に対して、男の方はさらに距離を詰める。
「なにキョロキョロしてんの、あんたに言ってんの。ほら、行こうぜ」
「あの、わたし…」
「…おい」
 思わず、ナンパ男と少女の間に割って入っていた。
 腕を掴まれている彼女から男の手を叩き落とし、自分の後ろへと隠す。突然の乱入者にナンパ男は目を白黒させている間に、新名はさらにたたみ掛ける。
「嫌がってんのを強引に連れてこうとすんなよ。一歩間違えれば犯罪だぜ?」
「あ? そっちには関係ねーだろ!」
「関係なくても見逃せるかよ。ほら、さっさと行けって」
「ふざけんな…ッ」
 と、男が声を荒げようとして、その動きが止まる。周囲の刺すような視線に気が付いたのだろう。
 人が少ないといっても元々往来ではあるのだ。そこでこんなやり取りをしていれば、いかにも自分が悪者ですといってるのも同意義だ。その辺の頓着がなければこのまま喧嘩にまで発展する覚悟もしていたが、どうやら胆が小さい相手だったらしい。自分を取り巻く冷めた空気を察して、決まりの悪い表情に舌打ちを加えて退散していった。足早に去っていく後ろ姿が近くの角を曲がって見えなくなってから、ようやく新名は息を吐き出して振り返る。
 と、
「え、ちょ、待っ」
「…す、すみません!」
 振り返った先で瞳いっぱいに涙を溜めた彼女の表情に、新名は思わず狼狽える。通り過ぎていく人たちはどんどん変わっていくので、先程までの流れを知らない人たちにはとっては、今度は新名が悪者として仕立てられてしまう。ちくちくと刺さる視線を自分が浴びる立場に代わり、新名は居たたまれなさに周囲を見渡す。するとすぐ近くにチェーン店の喫茶店を見つけ、少女の手首を掴んで強引にならないくらいの力加減で引き寄せた。抵抗はされない。
「とりあえず、こっち」
 言う新名にもう一度「すみません」と言う彼女を伴って、二人一緒に喫茶店へと入っていく。
 いらっしゃいませと出迎える店員にコーヒーを二人分注文。チェーン店ならではの素早い商品提供は、こういうときは有り難い。トレイに載せられたコーヒーを受け取り、新名は空いている席へと向かう。
「座って」
「…すみません」
 三度目の同じ言葉を言って、少女は新名の向かい側に腰を下ろした。バッグから出したであろうハンカチで目元を抑えている。
 暫く相手が落ち着くまで、新名は注文したコーヒーに口をつけた。砂糖もミルクも入れずにブラックで飲み始めたのは最近だ。最近ようやく慣れてきたコーヒーの苦みが、今日に限っていつもより強く感じるのは気のせいか。
 店内に流れるゆったりとした曲調が、妙に新名を焦らせる。
「あの……ありがとうございます」
 新名がコーヒーを半分ほど飲み干したところで、ようやく少女から違う言葉が聞けた。目はまだ少し赤いけれど、泣く衝動は収まったらしい。
「いいって」
「コーヒー代、払います」
「これくらいなんてことないからさ、気にすんなよ」
「でも」
「じゃあ、コーヒー代の代わりにもう少しだけオレとお話してくんない?」
 なるべく軽い調子で言ってみるものの、彼女の表情が一瞬陰ったのに気が付いた。しまったと内心で顔を顰めるものの、それは臆面にも出さない。軽く肩を竦めて、腰を浮かせる。
「なんつって、冗談。オレ先に行くからさ、もう少し落ち着いたら気をつけて帰りなよ」
「あ、ちが、」
 立ち上がった新名と一緒に、彼女も一緒に席を立つ。慌てたようにブレザーの裾を掴んできた彼女に、思わず驚いた表情を向けてしまう。ばっちり視線が合ったところで、相手は再び俯いた。
「えーと……とりあえず、座るか」
「はい…」
 新名の提案に頷いて、二人はもう一度席に着く。
 変わらず店内に流れるBGMを暫く聞き流していると、今度は彼女の方から口を開いてきた。
「…その制服、はば学ですよね?」
「うん、まあ」
「わたし、来年受験するつもりなんです」
「へえ。…てことは、今中三?」
「はい」
 頷いて、けれど再びその顔が陰った。俯く彼女を見やれば、困ったような表情でわらう。
「でも、わたしの成績だとはば学に届かなくて。だからはば学の制服を目の当たりにしたらすごく羨ましくなっちゃったんです」
「まだ一年あるんだから、努力次第で行けるんじゃね?」
「でも」
「言い訳とかするくらいなら、最初から言わない方がいいぜ。逃げ道作ってラクになりたい気持ちはわかるけど」
 そこまで言って、新名ははっと我に返る。初対面の、しかもお互いの名前すら知らない相手に何を説教してんだオレは!
 内心でつっこんでから恐る恐る彼女の様子を伺う。再び俯いてしまった相手の表情は見えず、新名はコーヒーを一気に煽ってカップをソーサーの上に置く。かちゃん、と食器同士の触れた音が上がる。
「……悪い、ちょっと言い過ぎた」
「いえ、その通りですし」
「や、つっても初対面の子に偉そうに言える立場じゃねえっつうか」
「逆にそういってもらえて、吹っ切れました」
 再び泣きに入られたと予想していただけに、改めて新名へと視線を上げた彼女の目は先程自分で言った通り、どこか吹っ切れて見えた。
「あと一年、頑張ってみます」
「そっか」
 まるで決意表明のように言う相手の言葉に、新名は頷いた。 
「じゃあ、はば学で待ってるぜ」
「はい」
「あー…でさ。名前、聞いてもいい?」
 経験上、この流れならば名前を聞けることは間違いないとわかっているはずのに、妙な緊張感を覚えた。それこそまるで初めてナンパをしたときみたいな心境を思い出して、内心では平静を保つのに必死だ。そしてそんな新名の努力は実っていたらしく、出会ってから初めて笑みを浮かべて、彼女は名前を名乗ってくれた。
「小波美奈子です」
「オレは新名旬平」
「新名先輩ですね」
 嬉しそうに、そしてどこか恥ずかしそうに新名を呼ぶ姿が初々しくて、こちらまでつられてしまいそうになる。
 先輩なんて、中学時代から呼ばれてもいたのだから別に珍しくもねーのに。
 そんな風に己へと突っ込んではみるものの、やっぱり浮き足だっている気持ちは自覚していた。
 結局そのあと三十分ほど会話をしてから、店を出た。
(さすがに電話番号までは無理か)
 別れ際、それじゃあと頭を下げる美奈子には手を振ることしかできなかった。
「……つか、なんでこんな舞い上がってんだオレ」
 声に出して呟いて、新名は美奈子とは反対側の道へと踵を返した。

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