佐伯とデイジーの初めてな妄想がここ最近激しいので吐き出し。
まだ最後までいってないよ!序章みたいなもんだよ!
相変わらずの一発書きクオリティーよ
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彼氏彼女の恋人同士の関係になってから、もうすぐ二か月が経とうとしていた。
あかりの方は変わらず実家から大学へと通っているが、瑛は親元を離れて一人暮らしを始めた。1DKの二階建てのアパートだ。どうしてもユニットバスに妥協が出来ず、結果として駅から自転車で20分ほどの距離を選択することになった。遠いといえば遠いが、途中に24時間経営のスーパーとコンビニがあるということでそこまで不便と感じることはない。
瑛は地元に到着した電車から降り、駐輪場に置いておいた自転車を回収しようと、カバンの内ポケットに入れておいた鍵を取り出そうとして、その手を止めた。いつもならそのまま自転車を回収して岐路に着くのだが、いつもアパートの鍵と自転車の鍵を入れる内ポケットにもう一つの鍵が収まっていた。とはいっても、その鍵は瑛のアパートのもので、大家に許可を得て作成してもらった合鍵であった。瑛は数秒合鍵を見つめ、今度こそ自転車の鍵を手にした。キーホルダーがついているチェーンの部分を指に引っ掛けて、くるくると回す。
(……どうするかなー)
うーんと内心で呻いてみせる。駐輪場は駅の改札を降りてすぐのところなので、自転車の元にはものの数分で到着してしまう。そうして自身の自転車の鍵穴に鍵を差し込み、すぐには乗らずにしばらくハンドルを押して進む。肩に引っ掛けておいたカバンをカゴに放り込み、そのカバンを一瞥する。
本日出来上がった合鍵は、瑛のスペアー用ではない。
元々アパートを借りた時点でスペアーは受け取っていたので、つまりはわざわざもう一本余分に作ってもらったのだ。
そうしてこの合鍵を渡す相手は、言わずものがな恋人であるあかりだ。
恋人として付き合うようになって二か月が経ち、未だ二人はキス止まりの関係だ。あかりが実家暮らしというのもあってか、中々二人の関係はキスより先に進まない。瑛と決して今の関係に焦っているわけではない。焦ってはいないが、好きな彼女とそういった関係になることを考えてしまうのは自然なことでないか。そんな風に瑛は誰にともなく言い訳を繰り返して合鍵を作ることを決断した。合鍵を渡すということは、いつでも瑛の部屋に入ることができるということ。ともすればいくら鈍感なあかりとはいえ、その意味に気が付くはず。――だと思いたい。多分。
しかし、問題はどのタイミングで、どんな風に渡すのが一番自然なのかということだ。
学校で渡すのは真っ先に却下。いつどこで誰が見てるかもわからないし、見つかったらそれこそ面倒なことにしかならない。かといってデートにいった外出先では落ち着かない気がするし、誰にも邪魔されず気にせず落ち着ける場所という消去法でいくと、瑛のアパートしか残らない。しかしあかりが実家暮らしというのもあってか、雰囲気が出来上がりそうというときに彼女は帰宅してしまう図が容易に想像できた。
(あーもー…)
瑛はため息を一つ吐いてから、ようやく自転車に跨った。ペダルに足を引っ掛けて、力強く漕いでゆく。今日は特に買うものもないなと頭の中で冷蔵庫の中身を思い出す。一直線にアパートまで向かっていけば、いつもより5分ほど早く到着した。指定の場所に自転車を置き、きちんと鍵を掛けてカバンを再び肩に掛けた。最近変えたばかりらしい階段を使って、二階にある自分の部屋に向かう。コーヒーでも飲んでゆっくり考えよう。そう瑛が自分に言い聞かせて階段を上りきった。ら、
「あ、瑛くんおかえり!」
瑛の部屋の前で座り込んでいるあかりの満面の笑みに出迎えられた。
「……は?」
一瞬事態が理解できず、瑛は動きと思考が停止する。が、すぐにはっと我に返る。座っていたあかりが立ち上がったのと同時、すぐに駆け寄るように相手に詰め寄る。
「おま、何してんだよ!」
「え、瑛くん待ってたんだけど」
「わかってるよ! 俺が言いたいのはそうじゃなくて、なんでメールの一つも送ってこないんだっていうこと!」
「今日携帯の充電するの忘れちゃって…瑛くんの家に向かってる途中で切れちゃったの」
言って、あかりは電源が切れて真っ黒なディスプレイしか映さない携帯電話を差し出してきた。瑛は彼女と携帯を交互に見た後、はあああとこれ見よがしに深いため息を吐いていた。今更といえば今更だし、むしろそんなところもひっくるめて好きではなるが、ため息を吐くくらい許してほしいと瑛は誰にともなく訴えた。否、だから、こうやって予想外の行動をするからこそ、合鍵が必要なんだ。
(あれ、今がチャンスじゃないか?)
そう気が付いて、瑛はカバンの中の合鍵の存在を思い出した。だが、瑛が彼女の名前を呼ぶより先に、あかりが「ごめんね」というのが早かった。
「途中で充電器とか買えば連絡できたんだし、ちょっと考えなしだったね。ごめん」
「え?」
「今日は帰るね、また今度改めて遊びに来る」
「ちょ、」
待て、と言い切るより身体が先に動いていた。あかりの腕を掴んで引き止めれば、驚いたあかりが振り返る。
「瑛くん…?」
「迷惑なわけないだろ、バカ」
「でも」
「むしろここまで着といて帰られる方が迷惑」
「…でも」
まだ何か言い募ろうとする彼女を完全に無視をして、瑛は空いている方の手でもって部屋の鍵を開ける。かちゃん、と鍵が開いた手ごたえを感じて、ドアノブを回す。狭い玄関内へとあかりを促せば、あかりは少し躊躇ってから「お邪魔します」と部屋の中に入った。
あかりの後に続いて部屋の中に入り、後ろ手でドアを閉めるのと一緒に鍵も掛ける。そうしてパンプスを脱いで部屋に上がろうとするあかりの背中へと手を伸ばして、抱きしめた。
「わっ」
「……おまえ、本当バカ」
「……わかってるもん」
あかりの肩口に顔を埋めながらそういうと、少しだけ涙混じりの声が返ってきた。
「なに、泣いてんの」
「泣いてません!」
「じゃあこっち向けよ」
「やだ」
「向けって」
「や、だ!」
「だめ。ほら」
瑛の腕の中から逃げようともがくも、所詮男女の体格差。あかりが敵うはずがない。結局瑛の方へと顔を向けさせられるものの、再び文句を言おうとした口をキスで封じてやる。しかしあかりは抵抗をするように低く唸ってくるので、思わず吹き出しそうになってしまって顔を離した。
「おまえは犬か。ああ違うか、カピバラだったか。……カピバラって唸るのか?」
「知らないよ!」
「はいはい、怒るな怒るな。いまお父さん特製コーヒーを淹れてやるから、大人しく座ってなさい」
「いじわるなお父さんなんか嫌い!」
あかりはぷいと顔を背けると、2メートルほどしかない玄関からキッチンの廊下を通り抜け、瑛の部屋と逃げていった。キッチンと私室の間にあるドアはきっちり閉められる。
瑛はまたもや吹き出しそうになる口元を手で押さえて堪えた。
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