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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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バンビ小話

 ばさり。
 本棚の中から一冊の絵本が足元へすべり落ちた。
 美奈子は慌てて抱えていた本と一緒にしゃがみ込む。一度大量の本を横に置いて、落ちた絵本を拾った。絵本はどこにでもある「シンデレラ」だ。子供の頃は飽きもせず、何度も母親に読んでとせがんだっけと思い出して、少しくたびれた表紙を捲った。シンデレラのストーリーなど、もはや読み返す必要もないほど覚えているが、「記憶」として思い出すのと「物語」として読むのとは別物だと、美奈子は思う。みすぼらしい服から最終的には豪華なドレスを纏い、憧れの王子様と両想いとなって結ばれる。それは絵本の中での物語だとしても、やっぱりどこか羨ましいストーリーだ。
(そういえば…)
 つと、美奈子は少しだけ遠い記憶を思い出す。サクラソウ。ピンク色の、ちいさな花。この花は妖精の鍵だよと、まるで内緒話をするように教えてくれた男の子がいた。思い描いた人のところへ連れていってくれる魔法の鍵だと言う男の子に、そんなのウソだと窘めるもう一人の男の子。美奈子はその二人が大好きで、よくかくれんぼをして遊んでいた。
「確か、名前は」
 より深く思い出そうとしたところで、階下から母親が自分を呼ぶ声が飛んできた。美奈子は素直に返事をして、手に持っていた絵本をその他の本の上に置いた。改めて部屋を見渡せば、まだまだ片付きそうにない惨状にこっそりとため息を吐く。来月から高校生になるのと同時、美奈子たち家族は昔住んでいた街へと引っ越すことになっていた。住む場所も以前暮らしていた家に戻れるということなので、何だか変な感じだ。新しいようで懐かしい、不思議な気持ち。
 すると催促するような母親の声に、美奈子は慌てて部屋を飛び出した。階段を下りる手前で、開きっぱなしにした自分の部屋を見やる。まだクローゼットのドアノブに引っ掛けたままの、はばたき学園の制服を見て、うん、確認するように頷くと今度こそ階段を駆け下りた。

 もうすぐ、あの街へ――はばたき市へ帰るのだ。


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自己満足カウントダウン、お付き合いありがとうございましたー!
正直最近仕事が忙しすぎて眠くて文章が纏まらないというひどいクオリティーですが、自己満足というだけあって満足しました。押忍!
そんなわけで明日はついに発売日ですよ!ヤッタネ!ついに来ちゃうね!!
暫くブログ記事は実況プレイになりそうです。とりあえず初回はセイちゃん天使プレイでいくぜいくぜいくぜええええええええええええええ

というわけで今日はそろそろお風呂に入って寝る準備をしようと思います。おやすみなさいー

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琉夏小話


「初デートしよう」
 校門を出たところで、唐突に琉夏が言った。あまりにも唐突過ぎたので、美奈子は思わず「は?」と間の抜けた声を出してしまうも、彼はまったく気にする風でもなく握っていた手を引っ張った。
「『オトモダチ』としてのデートはいっぱいしたけど、恋人でのデートは今日が最初。んで、制服デート出来んのは今日で最後だからさ」
 ね? と促されて、美奈子はデート、と口の中で反芻する。確かに琉夏と二人で出かけたことはたくさんあったけれど、これからは彼が言うように恋人として。彼氏彼女としての「デート」になるのかと改めて実感する。そして、先ほど琉夏としたキスを思い出す。そうだ、もう自分たちは恋人同志になったのだ。ということはつまり、これからもあんな風にキスをしたり、今みたいに手を握ったり腕を組んだりとあれこれ考えて、ふいに最終段階まで思考が一足飛びしてしまった。ら、琉夏の目から逃れるように俯く。以前「やらしー」といってくる琉夏に「もう!」と怒っていたけれど、もはや否定などできない。
「美奈子? どうかした?」
 名前を呼ばれて、少しだけ視線を持ち上げて琉夏を見やる。彼はどこかきょとんとした表情でこちらを見ていたので、自分一人だけやましいことを考えているようでますます気恥ずかしが募る。
「な、なんでもないよ! ほら、行こう!」
 誤魔化すように言って、今度は美奈子が琉夏を引っ張り歩く。おっとなんて言いながらも、彼はすぐに自分の隣に並んでくれた。
 ふと、繋がれた手が一瞬離れたかと思うと、すぐに繋ぎ直される。指と指を絡めた、言わば『恋人繋ぎ』というやつだ。しっかりとお互いを繋ぎとめるようなそれに、今更のように羞恥心が襲ってきた。けれどそれと同じくらいにうれしくて、思わずきゅっと手に力を込めて握り返した。
「……悪い子になったら、どうしよう」
「え?」
「なんでも」
 ぼそりと隣で聞こえた呟きを聞き返すも、琉夏はにっこりと笑った。そうして不意打ちで彼女の頬に唇を押し当てれば、もう! とお決まりな美奈子の声が上がった。

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琥一小話

 つと、美奈子はもうすぐ自分の家に着いてしまうと、気が付いた。
 琥一と思いが通じ合ったのがついさっきのような、随分前のような、不思議な感覚だ。実際には一時間弱しか経っていないのだから、ついさっきと表現して差し障りないだろう。
 あと少し。その角を曲がってしまえば、美奈子の家が見えてくる。そのまま歩みを続けたら、何事もなく家に着いて。
 そうしたら、琥一は帰ってしまう。
「どうした?」
 思わず歩みが止まっていた美奈子に気が付いて、琥一も同じように足を止めて振り返った。美奈子はきゅっと唇を引き結ぶ。途端、先ほど琥一とキスを感触を思い出して、何だか妙に泣きそうになってしまった。
「帰り、たく…ない」
 唇を尖らせてぼそぼそと呟いた。我ながらなんて子供っぽい言いぐさだろうか。せっかく両想いになったというのに、こんなことではあっという間に琥一に呆れられるんじゃないかと思うと、じわりと目の表面に涙の膜が浮かんだ。
「美奈子」
「ごめん、こんなこと言ったら困っちゃうよね」
「バカ」
 窘めるにしては優しすぎる声音で、琥一は言う。くしゃり、と美奈子の髪が彼の大きな掌でかき混ぜられる。
「俺だってな」
 言いかけて、けれど複雑そうな表情を浮かべた彼はその先を濁した。視線を明後日の方向に向けて、唸る。そんな琥一の様子に、美奈子は一歩相手に近寄った。ブレザーの端を掴み、少し引っ張る。
「『俺だってな』…なに?」
「言わすな」
「言わねえとわかんねえぞ?」
「似てねぇんだよ」
 琥一の口真似をしてみせれば、彼は軽く肩を竦めて微かに笑ってみせた。その表情の変化に、どき、と心臓が跳ねる。きゅうと心臓が縮んで、どきどきどきと鼓動が内側で忙しくノックする。息苦しさをどうにかしたくて「琥一くん」と彼の名前を呼んだところで、急に抱き寄せられてしまった。
「…んな顔するな。帰せねえだろうが」
「帰りたくないから、いいよ」
「バカ、煽んじゃねえ」
 囁いて、美奈子を抱きしめる手に力を込めた。

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葉月小話


 卒業式の帰り道。赤信号になった横断歩道の前で、葉月は歩みを止めた。隣には美奈子がいて、少しだけ俯くように立っている。その彼女の横顔が妙に強張っていることに気付いた葉月は、美奈子と口を開きかけたところで相手が顔を向けてきた。
「珪くん!」
「ん?」
「あの」
「ああ」
「……えっと」
「……どうした?」
 口ごもる彼女に首を傾げている間に、信号は青になったらしい。止まっていた人たちが動きだしのを察して、葉月は美奈子の手を取って信号を渡り始める。そのときに「あ」と彼女が声を上げたので、葉月は再び美奈子を見やる。と、顔を赤く染めた美奈子と目が合った。ら、さっと目が逸らされた。
 その仕草が妙に葉月の目を引いて、やばい、と思った。あと十数分歩いたら彼女の家に着いてしまう。そうすれば繋いでいるこの手を離さなければいけない。先ほど、美奈子とははばたき学園の教会でお互いの気持ちを確認し合ったばかりなのだというのに。否、だからこそ、なのかもしれない。好きだと言った自分と同じ気持ちが返されたのが、まだどこか現実味がないのだ。こうして手を繋いで初めて、触れて、ようやく実感が持てる気がする。
 そこまで考えて、葉月は先ほど美奈子が言いかけたことに気が付いた。ひょっとしなくても、彼女も自分と同じ気持ちでいてくれているのだろうか。そう思うと、胸の奥がきゅうと切なく締め付けられる。けれどそれは決して苦しいだけではない。そのあとに、暖かい気持ちが広がるのだから。
「美奈子」
「な、なに?」
 葉月が名前を呼べば、上ずった声で反応する彼女の様子が愛おしい。葉月は繋いだ手を持ち上げて、美奈子の手の甲に唇を押し当てた。
「珪、くん!?」
「まだおまえのこと、帰したくない」
「えっ」
「時間、いい?」
 言いながら、自分の中にこんな独占欲があったのかと苦笑する。
 戸惑いながらも「うん」と首を縦に振ってくれた美奈子を見て、その独占欲がますます加速するのがわかる。
「好きだ」
 手の甲に唇をくっつけた状態で囁けば、美奈子の顔はあっという間に真っ赤に染まってしまった。勘弁してくださいと呻くように言う彼女に、無理だなとは口に出さず、心の中だけで返した。

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天童小話

もうすぐGSP3発売記念よ!
ということでGSシリーズキャラで告白その後、帰宅までの道のりを書けたらいいなっていう希望!
とりあえず第一弾は天童です。GSシリーズだから!GS3縛りじゃないから!!


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 繋いでいる手のひらが、熱い。ずっと心臓のどきどきが止まらない。足元がふわふわしてて、まるで夢の中を歩いているみたいになったところで手のひらの熱へ意識が戻る。そうしてまた、自身の心臓の音を自覚するということを一体何度繰り返しただろうか。
 夢じゃない。
 嘘じゃない。
 そう確認するのが精いっぱいで、うまく言葉が出てこない。
 ちらり。美奈子は天童の隣を歩く天童の顔を伺うように盗み見た。頬が少しだけ腫れていて、唇の端は切れて瘡蓋が出来ている。痛そう、と咄嗟に思うも、すぐに美奈子の目は口の端の傷から唇を見つめてしまい、つい数分前の出来事を思い出す。と、思わず強く手を握ってしまった。ついでに立ち止まってしまえば、当然手を繋いでいる天童の歩みも止まる。どうした? と不思議そうな顔で問う天童に、美奈子はあーとかうーとかえーとか言葉にならないうめき声を上げる。
「美奈子?」
「な、なー、なんでも!」
「ははぁん、さては照れてるな?」
「て! ……れたら、悪いの」
「お? 珍しく素直だな」
「なによ、どうせかわいくないですよーだ」
「ばか、かわいいに決まってんだろ」
「わ」
 ぐいっと繋がれた手が引っ張られて、ほんの少しだけたたらを踏む。ぴったりと天童は身体をくっつけるように寄り添い、美奈子の方へと顔を近づける。教会でのやり取りはいっぱいいっぱいで余裕がなかったが、改めて間近で見た彼の顔は、もっとずっとあちこち傷がついていた。美奈子は天童の頬に指先を伸ばす。そろりと撫でると、天童は苦笑した。
「ワリぃ、こんなみっともない顔でさ」
「そんなことないよ」
「ん。でもさ、やっぱちゃんと治さないと、美奈子とちゃんとキスできねえし」
「もう! またそうやって!」
「いやいや、重要だろこれ。だってこれからずっとおまえといるんだからさ」
「そ、れはそうかもしれないけど」
「うん、だからさ。アドレス交換しよう」
「え?」
「ほら、ケータイ出せって」
「あ、う、うん!」
 天童に促されて、美奈子は慌ててカバンから携帯電話を取り出した。使い慣れているはずなのに、何だか妙に緊張してうまく操作できない。それでもしどろもどろになりながら天童のアドレスを登録し、相手もまた、美奈子の番号を無事登録ができた。天童壬、と自分の携帯電話に彼の名前が登録されたことが、妙にこそばゆい。自然と顔の表情が緩んでしまいそうになって、それを隠すように俯いた。ら、天童の手が美奈子の頭を抱き寄せてきた。そうして天童の唇が、耳に寄せられる。
「今度、ちゃんとデートしような」
 言う彼の言葉に、美奈子はますます顔が上げられなくなったのは言うまでもない。

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