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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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ときレス小ネタ(透ネタバレ)



※透くんの「ペット」のイベントその後ネタです。













「おーっす」
 カランコロンとドアベルを鳴らしながら声を掛けてきたのは、店の常連の一人である神埼透だった。
 平日のお昼が過ぎてしまえば、夕飯の時間まで来客の数は少ない。今はまさにその時間帯で、あまつ、ちょうど彼以外の客の姿はなかった。
 透は誰もいない店内をぐるりと見渡したあと、美菜子へと視線を向けてからかうような笑みを浮かべて言ってきた。
「誰もいないけど、とうとう潰れる?」
「潰れません!」
 いつもの透の挑発に軽く乗ったあと、美菜子はメニューを取りに奥へと向かう。すると、透も彼女のあとについてきたかと思えば、カウンターの席へと腰を下ろした。いつもは奥のボックス席を陣取っている透だけれど、店に人がいないときはカウンターの右から二つ目が彼的の指定席らしい。
 透は席に座るなり、「コーラ」とだけ言った。美菜子ははいはいと返事をしながら、グラスに氷を入れてコーラを注ぐ。トレイに載せてお待たせしましたとカウンターの上に置けば、代わりにぽん、とラッピングされた細長い箱がトレイの上に載せられた。
「なに? これ」
「首輪」
「は?」
「やるっつったじゃん」
「いや、確かに言ったけど……本気?」
「ちょう本気。ほら、開けてみなよ」
「え、えー…」
 促されるまま、美菜子はトレイの上の箱を手に取り、まずはリボンを解きにかかる。それからきっちりと包まれたラッピング用紙を剥がすと、金色の洒落たフォントでブランド名が印字されてあった。想像では本当に「首輪」という想像をしていただけに、突然のブランド名に面食らってしまう。あれ、確か首輪って言ってなかった? と、美菜子はクエッションマークを盛大に浮かべながら、おそるおそる箱の蓋を開ける。すると中には細いピンクゴールドのチェーンに、小さめなハートのトップが飾られたネックレスが納まっていた。
「……え?」
 たっぷり三十秒ほどの間を使って、何とも間の抜けた単音を発した。するとすぐさまデコピンが飛んできたので、痛い! と抗議している間に手の中のネックレスが透の手へと渡ってしまった。
「ほら」
「…なに?」
「首輪、してやるから」
 来い来いと手真似をする透の顔を見、少しだけ躊躇って顔を近づけた。透の肩口に額をつけるようにして近づけば、チェーンの冷たい感触が首筋を撫でる。カチ、と首の後ろで金具が留められると、「完成」と満足そうに透が笑う。彼はネックレスのトップを指先で摘まんで至近距離で美菜子を見つめたあと、その指先で今度は彼女の左手の薬指を撫でた。指先で数回往復させたあと、透は囁くように言った。
「こっちの首輪は、もうちょい先な」
 え、と喉元まで言葉が出かかったものの、唐突に透の携帯電話が着信を知らせた。カウンターの上で大音量で鳴る携帯電話を彼はものすごい目で睨み付けたあと、一番機嫌の悪い声で応答し始めた。その言葉遣いと態度から、相手は京也だろうと推測しつつ、美菜子はそそくさとキッチンの奥へと逃げ込んだ。
 どきどきと鼓動は早く鳴り、頬は熱でもあるんじゃないかというほど熱い。
 せめて心臓の鼓動か、頬の熱さのどちらかが収まるまでは誰も来ませんようにと、レストラン経営者としてあるまじきことを真剣に願ってしまったのだった。

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