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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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琉夏誕

琉夏の誕生日にどこに上げたか不明のデータが出てきました。2012年だけど。いま2020年だけど。
時の経過に目を反らしつつ供養。
えっちな描写あります。


-------------------


 七月一日。
 この日は少し前までは特別な日で。
 でも『あの日』を境に煩わしい日になったけれど、最近はもう一度、特別な日になった。
 琉夏は運転していたSR400のスピードを緩めて止めると、そのままエンジンを切った。途端、しんとした静寂が辺りに落ちた。日はすっかり沈んでいて、空には星が瞬いている。ジーンズの後ろポケットにつっこんでおいた携帯電話を取り出し、時間を確認する。携帯電話のディスプレイに表示された時刻は二十一時を少し回ったくらい。「今日」が終わるまであと三時間ほどだ。琉夏はバイクから降りると、そのままエンジンを切った状態で押し進めるようにして歩く。そうして数十メートルを進んだところで、一軒の見慣れた家の前で立ち止まった。再び携帯を手にして、電話帳を開く。あいうえお順に並んだ名前の中で、「小波美奈子」のところでカーソルを止める。メールか電話か数秒悩んで、結果電話を選んだ。携帯電話を耳に当てると、コール音が響く。そのコール音が四回目の途中で、もしもし? と美奈子の声が応じた。
「俺、琉夏」
『うん、こんばんは。どうしたの?』
「美奈子、今何してた?」
『今? みよから借りてた本読んでたよ』
「そっか。急ぎの用事とか、ないよな?」
『うん、特にはないけど…どうかした?』
「じゃあさ、ちょっとだけ美奈子の部屋の窓開けて、外見てみ」
『え?』
 ちいさく戸惑ったような声を上げるものの、彼女は琉夏の言う通り部屋の窓を開けてくれた。耳に携帯電話を当てたままの彼女は、すぐに自宅の前に佇む琉夏の姿を発見する。琉夏くん、と名前を呼ぶ彼女の声が目の前と電話越しからダブって聞こえた。琉夏はすぐに口元に人差し指を立てて、静かにという合図を送る。
『こんな時間にどうしたの?』
 琉夏の合図を正しく理解したらしい彼女は、先ほどより小さい音量で問う。琉夏も美奈子を見上げながら続けた。
「なあ、今日って俺の誕生日なんだけど」
『うん、知ってるよ。お昼にプレゼントあげたじゃない』
「もう一つ、プレゼントもらってもいい?」
『もう一つ?』
「うん。今日のオマエの時間、俺にちょうだい?」
『それって』
 美奈子は琉夏の言葉に戸惑ったように、眉を下げた。そうして部屋の中を振り返ったのは、おそらく時間を確認したのだろう。当然先ほどよりも時計の針は進んでいるから、真面目な彼女からすればこんな時間に外に出ることに良心が引っかかるのだろう。目の前の美奈子の表情と、電話越しから困ったような声が聞こえる。それでも琉夏は彼女を見上げたまま、「ダメ?」とまさに駄目押しの一言を掛けた。すると美奈子は琉夏を見つめ、数秒悩んだあと一度部屋の中に引っ込んだ。そうして再び顔を見せたときは、さらに困ったような表情をしていた。
 が、
『ちょっと待ってて』
 言って、美奈子は通話を切った。すると少しの数分のあと、彼女は玄関から顔を出した。フレアスカートとキャミソールの上に、薄手のパーカーを羽織っているその姿は、完全に部屋着姿だ。美奈子は静かに玄関のドアを閉めたあと、琉夏の元へ駆け寄ってきた。
「こんな時間に出てきちゃうなんて悪い子だな、美奈子は」
「琉夏くんが呼んだんでしょ」
「うん。でも本当に来てくれるなんて思ってなかった」
「…なんか、それってわたしが信用されてないみたい」
「ごめん、そういうわけじゃないんだ。ほら、夜遅いから」
「そう思ってるなら」
「うん」
 一つ頷いて美奈子を見れば、彼女は戸惑ったように口を噤んだ。ちらりと後ろの自宅へと視線を向ける仕草を見せたので、琉夏は彼女の手を取った。
「いい?」
「どこ行くの?」
「決めてない。だから、ドライブしよう」
「え?」
「やっぱ、だめ?」
 重ねて琉夏が訊くと、美奈子は数秒沈黙する。
 ちらりと琉夏を見、足元に視線を落とす。そうしてもう一度琉夏を見て、
「ちょっとだけ、なら」
「うん。ちょっとだけな」
 美奈子の答えに、琉夏は微笑う。それでもやっぱり彼女は罪悪感が拭癒えないのだろう。どうしても背後にある家族のことを気にしているので、気が変わらぬうちにと彼女を家の前から連れ出しに掛かる。さすがに家の前でエンジンを掛けるわけにはいかないので、行きと同じく数メートルの距離を置いてから後ろに美奈子を乗せて、SR400をは発進させた。


 あてもなくSR400を走らせていれば、はばたき学園の近くを通ることに気が付いた。気が向いたのでそのまま目的地をはば学にして、校門の前で止める。当然夜ともなれば残っている生徒はおろか、職員すらいない。昼間とは打って変わって明かりが点いていない真っ暗な学校はどこか不気味だな、なんて。他人事のように考えていると、ふいに美奈子が琉夏の腕を掴んでぴったりと身体をくっつけてきた。
「こわい?」
「…少し」
「じゃ、行くか」
「え、入るのっ?」
「うん」
 問う言葉に、あっさりと頷く。
 琉夏は腕にくっついた彼女を促すように、今いる校門から裏手に回る。当然この時間の校門は施錠されているので、入るためには抜け道を使わなければいけない。実は校舎をぐるりと囲む壁が、裏手のある一か所だけ伸び放題のツルがカムフラージュとなって、人一人が屈んで通れる隙間があるのだ。そのことに学校関係者は気づいていないのだろう。気づいていたら、とっくに修復されているはずだ。そもそも、琉夏がこの抜け道に気付いたのも偶然だった。子供の頃、琥一と二人で見つけて、あの教会を見つけたのが始まりだ。最初は二人だけの秘密基地にしようと言っていたのだが、途中から美奈子も秘密を知る仲間になった。
「ここって」
「秘密の入り口」
 おどけたように言って、琉夏はツルを避ける。そうして現れた隙間へと美奈子を促せば、何故か呆れたような表情を返された。
「…こういうところばっかりよく覚えてるんだから」
「思い出は大切、だろ?」
「もう」
 ちょっとだけ窘めるような口調で言うも、美奈子はそれ以上は何も言わずにその隙間を屈んで通り抜けた。琉夏もその後を追うように続く。いつもはこの壁をよじ登って飛び越えているのだが、今日のところは大人しく。
「琉夏くん、どこ行くの?」
「どこがいい?」
「ええっ?」
「さすがに校舎内は入れなさそうだしなあ……あ」
 校舎裏から校庭まで歩いて、ふいに琉夏は歩みを止める。目についたのは体育館の隣に隣接して作られたプールだ。つい先日プール開きが行われて、体育の授業には水泳が追加されている。当然そのプールも入口は封鎖されているが、外周を覆っているのはフェンスだ。よじ登るのは容易い。
「ちょっと待ってて」
「琉夏くんっ」
 制止する美奈子の声には応じず、琉夏は身軽にフェンスに指を引っ掛ける。そのまま勢いをつけて、あっという間に天辺まで上ってはそのままフェンスを乗り越えてしまう。そうして危なげなく内側の地面へと着地し、施錠されている鍵を外して入り口の扉を開いた。
「美奈子、おいで」
「悪いなあ」
「今日だけだって」
「そうじゃないとだめだよ」
「うん、今日だけ」
 本日何度目かの「もう」を言われてしまうものの、美奈子は案外素直に入り口をくぐった。改めて手を繋いで、空を見上げる。夜空には星が瞬いてきらきらと輝いてるのが、妙に心臓を締め付けるような気がするのは何故だろう。
「きれいだな」
 ぽつり。琉夏が言う。
 隣の美奈子は彼に習って同じように夜空を見上げて、わあ、と小さな感嘆の声を零す。きれい、と素直な感想が続いた。
 琉夏は夜空から誰も入っていない満たされたプールへと視線を移す。星空と月の光を反射して、水面もきらきらと光っている。昔、まだ実の両親が生きていた頃、こんな風に夜空を見上げたことがあった。満天の星空は現実味がなくて、手を伸ばせば星の一つくらい掴めそうな気がした。でも実際はそんなことは出来なくて。
 当然と言えば当然なのだが、子供の頃は不思議で仕方なかったのだ。
 水面に映る星たちは、何だかあのときの感覚を彷彿とさせた。できないとわかっていても、手を伸ばしたら届きそうな気がして、琉夏は屈んでプールの中へと手を入れた。
「琉夏くん?」
「プール、入っちゃう?」
「は、入らないよ!」
「ちぇ、残念」
 軽く肩を竦めて、琉夏。そのまま腰を下ろして靴と靴下を脱ぐと、ジーンズの裾を捲り上げる。裸足の足先をプールの中に浸すと、先ほどよりもプールの水が冷たく感じた。
「美奈子も、足だけなら入ってみなよ」
「うーん。…足だけ、なら」
「あ、でも一応危ないから、携帯は置いとけよ?」
「そうだね」
 フレアスカートだったので、靴と靴下だけを脱いで隣に座る。ポケットに入れておいた携帯電話を言われた通りに少し離れた場所に置くと、足をプールに入れた。ぱしゃぱしゃと水音を立てて、美奈子はプールの中で足を泳がせる。
 二人並んで、空を見上げた。夜空は変わらず瞬いている。昔住んでいたあの場所よりもこちらの方が都会でも、見える星が輝いて見えるのは一緒にいる人間が美奈子だからだろうか、なんて。そんなことを考えてしまった琉夏は、無性に泣き出しそうな気持ちに襲われた。だから、それを誤魔化すように相手の肩に手を回した。
 そして、
「美奈子」
「なに? …え、ちょ、わ!」
 驚く美奈子には構わず、琉夏は彼女共々身体を前に傾けた。当然重力に従って、身体はプールの中へと一直線に向かう。
 ばっしゃん!
 二人分の重みを受けて、水音が上がる。
 すぐに水面から顔を出せば、すっかり水浸しになった美奈子の叱責が飛んできた。
「琉夏くん!」
「はは、悪い」
「悪いじゃないでしょ!」
 ぱしゃん! と美奈子は手で水を掬って攻撃を仕掛けてきた。不意打ちの攻撃をまともに顔に受けてしまうも、琉夏はすぐに反撃を開始した。きゃあと彼女の黄色い悲鳴が上がり、暫し二人での水の掛け合いが始まった。すでに二人とも水浸しなので、遠慮などない。遊びの範囲内でふざけ合っていると、くしゅんと美奈子のくしゃみで琉夏の手が止まる。
「大丈夫?」
「ん。七月でもやっぱりずぶ濡れだと、肌寒くなっちゃうね」
「だな。上がるか」
「うん」
 言って、先に琉夏がプールから上がると、美奈子に手を伸ばした。美奈子はこちらの手を掴んでプールから上がれば、その勢いのまま琉夏に抱き着いてきた。濡れた服から伝わるお互いの体温が、じんわりと暖かい。
「…誕生日、あと少しで終わっちゃうね」
「うん」
 一つ、琉夏は頷く。
 腕の中の彼女の身体を抱き直すと、美奈子、と囁くように名前を呼ぶ。
「ちゅーしたい」
「な、なにいきなり」
「していい?」
「……聞かなくてもいい、よ…」
 後半になるにつれて尻すぼみになる美奈子の言葉が終わるか終わらないかのところで、琉夏は彼女の鼻の頭にキスをした。すると、肩透かしを食らったようにきょとんとする。琉夏はふっと息を吐き出すように笑い、今度こそ美奈子の唇に口づけた。お互いの唇同士が重なり、暫くその柔らかさを堪能する。啄むようなキスを繰り返しては、美奈子の唇が薄く開いたところで自身の舌を差し込んでやる。ぴくっと美奈子の身体が震えると、彼女の手が琉夏の服を強く握る。引っ込みかけた美奈子の舌がそろそろと琉夏の元へ伸ばされてきたので、遠慮なく舌と舌を絡ませてやる。舌裏から歯列をなぞり、上顎を舐めてやれば美奈子の膝から力が抜けたらしい。かくん、と落ちそうになる身体を支え直す。そうしてゆっくりとその場に腰を下ろし、琉夏の膝の上に美奈子が座る体勢となった。そうして一度唇を離して至近距離で見つめ合えば、どちらともなくキスを再開させる。今度は先ほどよりも深く、貪るようなキスをしている中で、琉夏は内心で失敗したなと考えていた。濡れてしまった服が肌に張り付き、彼女の肌に触れる障害となってしまうのだ。それでもどうにかキャミソールの中に差し込んだ手をもぞもぞと動かしていると、とん、と美奈子が琉夏の胸を叩いた。思わずキスをしている唇を離してしまうと、じろりと思いきり睨み付けられてしまう。
「…琉夏くん」
「ん?」
「ん? じゃなくて」
「うん」
「うん、でもなくて」
「じゃあ」
「考えなくていいです。この手はなんですか」
「琉夏くんの手です」
「知ってます。…て、だからそうじゃなくて!」
「美奈子、今日は俺の誕生日なんだ」
 至極真面目な顔と声でもって、琉夏は切り返す。
「さっき、オマエの時間くれるっていったよな?」
「言ったけど…」
「だから、俺の好きにしていいってことだろ?」
「違うと思うなそれ!」
「俺はそれが違うと思う」
「琉夏くん!」
「大丈夫、夜の学校なんて誰も来ないって」
「そういう問題じゃ、な、…こら! だめ!」
 背中に差し込んだ手の目指す先を止めようと、美奈子は必死に琉夏の腕を止めようともがく。しかし抵抗空しく、琉夏はあっさりとキャミソールの上から美奈子のブラジャーのホックを外してしまった。途端、胸元の締め付けがなくなった彼女は、慌てたように胸元を覆い隠すように両手で押さえる。しかし琉夏は美奈子を抱き直して顔を近づけ、ふうっと耳穴へと息を吹き込む。そのまま唇をくっつけて、耳の形をなぞるように唇を滑らせた。耳たぶに犬歯を立てるようにして緩く噛みつくと、舌を使って丹念に舐め始めた。
「んッ、…ふ、っ、ん」
「その気になってきた?」
 琉夏の問いに、ふるふると首を振る美奈子。胸元は頑なに守るように両手で押さえているが、彼女は致命的なことを忘れていた。胸よりももっと守らなければならないところがあることに。
「じゃあもっとしないと」
「だからだめだってば、あ!」
 腰を掴まれ、ぐっと引き寄せたところで、美奈子はすっかり勃起している琉夏の存在に気が付いたらしい。眉を下げ、おろおろと困ったように目を泳がせる彼女には構わず、琉夏はスカートを捲り上げて露わになった太ももに触れた。水分を含んだ肌は、いつもとは違って冷たく感じる。そうして手のひらは双丘を掴んで揉みあげ、琉夏の中心部分を押し付けるように腰を揺すった。
「ふあ、あ、あ」
 琉夏の首に手を回し、美奈子はしがみ付く。彼女の熱い息が首筋に掛かり、それが余計にこちらを煽っていることには気が付いていない。
 丸い双丘を覆うショーツの中へ、強引に指先を侵入させる。割れ目へと指を滑らせると、プールの水とは違う、彼女自身の内側から溢れた愛液で秘所が潤っていた。愛液特有の粘着質な感触を確かめるように、濡れた溝を往復する。
「…ぁ、あ、んんっ」
 ふるり、と美奈子の身体が一度大きく揺れた。続いて息が吐き出され、琉夏はそのタイミングで指先を彼女の蜜壺に侵入させる。そうしてもう片方の手を前に回すと、すっかり無防備となった胸を掴んだ。濡れた服とブラジャー越しは随分とごわごわとした感触だったので、すぐさまキャミソールを持ち上げて素肌に触れようとすれば、思い出したように美奈子の手が制止するように腕を掴む。しかし秘所に差し込んだ指で緩くナカをかき回してやれば、呆気なくその手の効力はなくなってしまう。
 やはり濡れたキャミソールのせいか、胸も太もも同様ひんやりとしている。それでも胸の柔らかさが変わるはずもなく、彼女の乳房の感触を楽しむように揉み始めた。
「ぁ、はぁん…っ」
 ぷっくりと勃ち上がった乳首を親指と人差し指で摘まむ。軽く引っ張ったりぐにぐにと弄りつつ、露わになっている胸に顔を近づけた。先端を口に含み、軽く吸う。前歯で甘く噛みついてやると、切ない声で美奈子が啼いた。琉夏は舌先を硬く尖らせ、乳首を揺らすように舐め始める。どんどん固くなっていく乳首が面白くて執拗に舐め続けていると、美奈子の方が降参の声が上がった。
「はぁ、や、…胸、やだぁ…」
「嫌じゃないだろ? 乳首、弄られるの好きなくせに」
「そん…っ」
「ああ、でもこっちの方がもっと好きか」
 琉夏は双丘を揉んでいた手も前に回すと、ショーツの中へと手を差し込んだ。そうして淡い茂みから割れ目へと、躊躇いなく指を差し込む。そこでもぷっくりと勃ち上がった小さな突起を探り当てれば、指先でくるりと撫でてやる。途端、美奈子から一段階高い声が上がった。
「あんッ!」
「すげえコリコリしてるの、わかる?」
「知ら、ない!」
「うそつき」
「や、あぅッ」
 ぐりっと中指の腹でクリトニスを押しつぶすようにしてやると、美奈子の喉が仰け反った。琉夏はその白い喉に噛みつくと、べろりと舌を這わせる。そのまま鎖骨まで下り、きつく吸い付いた。ぎりぎり制服のシャツが隠れる場所にキスマークを付けると、その場所を確認するように舌で撫でた。
「……琉夏、くん」
 つと、美奈子が琉夏を呼ぶ声に顔を上げる。頬には幾筋かの涙がこぼれているものの、その目に映るものは確かな性欲であった。きゅっと唇を引き結んで琉夏を見つめる彼女に、琉夏はゆっくりと目を細めて微笑う。そうして勃起した自身を解放してやるように、ジーンズのベルトを外してチャックを引き下ろした。水分を含んでじっとりと重くなったジーンズに多少手間取りながらも、ペニスをボクサーパンツから取り出すと、琉夏はぽん、と美奈子の腰を叩いた。言う。
「美奈子、自分で挿入れてみ?」
「え、…えっ? む、むり!」
「出来る出来る」
「でも…」
「腰、支えてるから」
 戸惑う相手には構わずに軽い調子で促すと、美奈子は戸惑いつつも膝立ちの体勢になった。両手を琉夏の肩に置き、ごくりとツバを飲み込む。琉夏は片方の手で美奈子の腰を支え、もう片方の手で自身のペニスを固定させる。先端が彼女の秘所に触れると、すぐに彼女の腰が逃げるように浮いた。
「こら」
「…う」
 彼女の困惑した眼を向けられるも、琉夏は許さず、さらに腰を落とすように促した。
「んっ、ぁ!」
 くちゅり、と粘着質な音が上がり、つるりとした亀頭が潜り込む。しかし四分の一ほどが入ったところで、美奈子の動きが止まった。
「こわ…ッ」
「大丈夫だから」
 ほんの少し震えている美奈子を落ち着かせるように言うと、観念したらしい彼女が息を吐いた。再び腰が落とされて、ゆっくりじっくりと美奈子の内部に琉夏が迎えられる。
「…入っ、て、る…あん」
 美奈子もまた、自分から挿入する違和感はあるものの、内部へ入っていく感覚は掴んできたのだろう。今度は途中で止まることなく、最後まで琉夏を飲み込むことができた。彼女の柔らかい双丘が琉夏の太ももの上に落ち着いたところで、美奈子の頭を撫でる。
「ほら、出来た」
「あっ」
 ナカにあるペニスの存在を知らせるように、軽く突き上げた。すると琉夏を咥え込んでいる彼女の膣咥内が、きゅうと締め付ける。そのまま緩く腰を使い始めるれば、次第に美奈子の方も快感に集中する余裕が出来たらしい。互いにリズムを確かめるように腰を使い始めれば、その動きは次第に大胆になっていく。
「琉夏、あ、ああッ、ふあ、あ!」
 ぎゅっと目を閉じ、切なげな顔をする美奈子が愛しい。
 抽出を繰り返すたび、結合部分からじゅぶじゅぶと泡だった音が上がる。彼女の内部がきゅうきゅうと琉夏を締め付け、意識と快楽のすべてがそこに集中していく。甘い声は止めどなく上がり、その中で時折琉夏の名前を呼ぶのがたまらなく好きだった。否、いつだって琉夏は、美奈子に名前を呼ばれるのが好きだ。ケンカしたときでも、笑い合ってるときも、こうして身体を重ねて切羽詰ったように呼ばれるどれも好きで。その度に少しずつ、自分を好きになれたような、許してやれるように思えた。そうして琉夏自身は美奈子の名前を呼ぶたび、もっと彼女を好きになっていく。まるで限界が見えないくらい、美奈子が好きだ。
 両親を失ったあの日から、もう一度こんな風に誰かを想えるようになるなんて、想像もしていなかった。
 誰かを好きになって幸せになる資格など、自分にはないと思っていたから。だから、なのかもしれない。こんな自分を好きになってくれた彼女を――違う、「彼女と」幸せになりたいと、願うようになった。
「美奈子」
「…琉夏くん」
 つと、閉じていた目を開けて、美奈子が柔らかく微笑った。その笑みに、琉夏の心の奥がじんわりと暖かい気持ちで満たされる。そんな心境とは別に、自身が膨張したのは我ながら色々と素直だなと感心してしまう。まあ性欲的な意味で。
「ぁ」と美奈子が気が付いたように喘いだのを見て、好きだという気持ちを込めるように琉夏は彼女に口づけた。そうして美奈子の内部をさらに激しく犯しに掛かる。しっかりと腰を掴んで下から突き上げれば、美奈子がしがみ付くように琉夏の首へと腕を回す。
「ふ! あン! やだ、や、やあ!」
 きゅううう、と一際強く、彼女の内部が琉夏の射精を促すように蠢き始める。じゅぶじゅぶと絶え間なく結合部からはひどく卑猥な、泡立った音が上がる。子宮口を狙うように、最奥を目指して突き上げた。すると柔らかい内壁が、まるで痙攣するように絡みついてきて、美奈子の絶頂が近づいてきているのがわかる。琉夏はさらに強く打ち付けてやれば、一際きつくペニスが締め付けられる。そうして高く掠れたような声と共に、びくりと彼女の腰が震えた。しがみついている美奈子の指先が琉夏の背中に爪を立てる。背中に走る鈍い痛みに妙な興奮を覚えたのと同時、琉夏もまた、自身の熱を解放するように美奈子のナカへと吐精する。びゅびゅっと膣咥内で放たれる熱に感じてか、彼女は小さく短い嬌声を上げた。琉夏もまたすべての欲を吐き出すように、腰を揺すった。はあはあと暫くお互いの荒い呼吸音だけが響いて、ようやく落ち着いたところでぎゅーっと琉夏は美奈子を抱きしめた。美奈子は琉夏の腕の中でもぞもぞと身じろぎ、右手で琉夏の頬を撫でた。すでにその手に冷たさはなく、むしろ熱いくらいだ。
「……琉夏くん」
「なに?」
 美奈子は一瞬だけ困ったように視線を逸らすも、すぐに目を合わせた。けれど少しだけ照れたような顔をしたあと、ちゅ、と短く琉夏の唇にキスをした。
 そして、
「誕生日、おめでと」
「……ありがとう」
 オマエがいてくれたから、この日をまた、好きになれたと。
 琉夏はそれを言葉にする代わり、キスのお返しをしたのだった。



「ところでさ」
「ん?」
「帰り、どうする?」
「……どう、しよう」
「とりあえず、もう一回しとく?」
「しません!」
「いて」

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審神者と清光と安定

※風邪ひき主を心配する清光と安定




 襖を一枚隔てた向こう側から、ちいさく咳き込む声が聞こえる。それを聞くたび、清光の心臓はぎゅっと締め付けられるように痛んだ。思わず右手を胸の上に置くと、着物の合わせ目をぎゅっと掴む。前の主も病を患い始めては咳が止まらなかった。隠れるように、隠すようにひっそりひっそりと苦しげに咳を繰り返していたのを思い出す。そうして刀だったときより、人の形になった今の方がより自分の不甲斐なさを痛感する。何かしたいのに、何もできない。前の主のことが過ってそばに行くことすらできない。臆病者と自身を呪うことしかできず、こうして襖の前に座り込むことが精一杯だ。
 すると、唐突に自分の前に影が落ちた。
 顔を上げて影の正体を確認すれば、そこには表情の読み取れない安定が佇んでいた。けれど清光には十分すぎるほど彼の身上がわかってしまい、ぐしゃりと顔を歪めてしまえば、同じタイミングで安定も同じように表情を崩す。
「何してるの」
「そっちこそ」
 互いにそっけない言葉を交わして、黙る。すとんと安定が隣に腰を下ろしたかと思えば、膝を抱えて表情を隠してしまう。
「清光」
「なに」
「ただの風邪なんだろう」
「うん」
「大丈夫なんだろう」
「そう聞いてる」
「そっか」
「うん」
 不安を解消したいはずなのに、言葉を交わせば交わすほど、不安になっていく。大丈夫と繰り返すほど、増えていく暗い黒い感情から目を逸らすように、清光も膝を抱えて顔を伏せる。
 と、からりと軽い音を立てて襖が開いて、二人は同時に顔を上げた。その視線の先にはメガネを白衣姿の薬研がいて、こちらの姿を見つけた彼は驚いたように「うおっ?」とちいさく声を上げた。
「薬研、どうしたの?」
 すると、部屋の奥から控えな声が聞こえた。
 薬研は清光と安貞から声の方へ視線を動かし、にっと口の端を揚げて笑う。
「見舞いの客が来てるぜ、大将」
 言って、二人が壁にしていた襖が薬研の手によって開かれる。
 え、と完全に虚を突かれていると、部屋の主である彼女も同じようにきょとんとした顔をしていた。
 寝間着姿の彼女と、清光安定は枢要見つめ合ったあと、先に表情を崩したのは主たる彼女の方だった。
 眉を八の字に下げて、困ったように笑う。
「不甲斐ない主でごめん」
「「そんなこと!」」
 同時に同じ言葉を言いかけて、やはり同じように立ち上がりかけた二人は同じタイミングで動きを止めた。そのままどうしていいかわからずにいれば、「少しだけな」と薬研は言い残して去っていく。
「……あいつ、本当に短刀かな」
「僕もそう思う」
 清光と安定は薬研の後ろ姿を見送ったあと、ようやく立ち上がることに成功した。

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女審神者と来派兄弟

「自分、蛍丸と愛染国俊の保護者の明石国行いいます。よろしゅう」
 ぶすくれた表情の愛染国俊の隣に、まったく正反対の表情でへらへらと笑う男が開口一番にそう自己紹介をしてきた。
 わたしは明石国行と名乗った彼を見、憮然とした表情のままの愛染を見、もう一度明石へと視線を戻してからやや強張った笑顔を浮かべた。自分でも口の端が引きつってるのがわかる。
「ええと、その、よろしくお願いします…」
 どうにかそれだけを言って見ると、玄関の方が再び騒がしくなる。そういえば遠征組が戻る時間だったかと、壁に掛けられた時計の時刻を確認して思い出した。出迎えようかどうしようか、本丸に来たばかりの明石のことが引っかかってその場でオロオロとしていると、パタパタパタパタっと軽い足音が近づいて来る。ぱーん! と障子が開き、明るい声が続く。
「主、ただいまっ」
 身長に見合わない大太刀を背負った蛍丸が、屈託のない声で帰還の報告にやってきた。わたしはその声に反応して振り返り、おかえり、と返そうとして、動きが止まった。というか、正確には動けなかったのだ。
 タンッ、と軽い音が聞こえるのとほぼ同時に、ガガン! と鈍い音が続いた。それは蛍丸がいつの間にか抜刀した刀が、部屋の天井にめり込んだ音だ。
「なんや、落ち着きや蛍丸」
「……命拾いしたね」
「蛍! 外に出て改めてやっちまおうぜ!」
「それもそうか」
「いやいやいやいやいや、まってまってまってまって」
 突然の乱闘が始まりそうな雰囲気に、わたしは慌てて明石の前に割って入った。ら、にょっと背後から手が伸びてきて、その手が私を後ろから抱きしめるように回される。んん!? と訝しげに背後へと首を捻って見れば、にやりと底意地の悪い笑顔と目が合った。
「そうやで、二人とも。主はんが困ってるんやから大人しゅうしぃや」
「俺は! おまえのそういうところが嫌いだ!」
「おおきに」
「褒めてない」
 ばっさりと容赦なく蛍丸は言い捨てると、手に持った刀を改めて構え直すように握ったかと思えば、いつの間にか加勢するように国俊が蛍丸の隣に並んで抜刀している。
「さ、審神者命令です! ケンカしない!」
 ほぼ和泉守兼定と陸奥守吉行に言い渡す専売特許の言葉を発すれば、ひとまず国俊と蛍丸は不満げな顔をしつつも刀を収めてくれた。けれども背後に佇む自称彼らの保護者らしい明石は、変わらない笑顔を浮かべたまま、「おおきに」と言うだけで。
 新しい戦力には素直に喜べないわたしは、ため息を吐いてがっくりと肩を落とした。

拍手[0回]

ホワイトデー瑛主

3月も半ばとは言え、海辺でのデートはまだ肌寒い。あかりはほんの少しだけ身震いすれば、隣にいた瑛が少しだけ身を寄せてきた。ちらっと彼へと視線を向けれてみると、ばっちり視線が合ってしまい、思わず俯いてしまう。
 正直に今の心境を一言で言うならば、「恥ずかしい」だ。羽学の卒業式の日に瑛から「好きだ」と告白をされたことは記憶に新し過ぎて、彼氏彼女として始めて出掛けた今日はうれしさよりも戸惑いの方が大きい。
 瑛と何度も使った待ち合わせ場所も、歩いた道も、この海辺のどこもかしこも「友達」として過ごした思い出がそこここに残っていて、それが今や「恋人」になった事実がすごくすごく恥ずかしい。
 そんなことを改めて実感すれば、さっきまで肌寒いと思っていたはずの体温はじわじわと暑くなってきた。特に頬を中心に熱が上がってきた気もして、あかりは顔を覆いたくなった。
(ううう)
 と、あかりは内心で唸るだけに留めては、代わりに膝を抱え直した。すると、ぽん、と頭の上に何かが載せられた。ん? と顔を目を上に向けるものの、当然頭に載ったものは見えない。更に体勢を後方へと倒そうとすれば、今度は顔面へと「それ」がスライドされた。
「ぶっ」
 構えていなかっただけに我ながら何とも情けない声を出してしまう。そうして隣では、堪え切れず吹き出したらしい瑛の笑った声が聞こえた。
「も、もう!」
 落ちそうになる「それ」を両手でしっかりと掴んでから、ひとまず瑛へと抗議を申し上げる。すると予想通りに瑛はおかしそうに笑ったまま、あかりの手にある「それ」を指差した。
「悪いかったって。それで機嫌直せよ」
「…餌付け?」
「違う。ほら、今日は……アレだろ」
「どれ?」
「アレだって」
「だからどれ」
「だからっ、………ホワイトデー」
 どこか拗ねたように言い放ったあと、瑛は項垂れてしまった。
 ホワイトデー、とあかりはオウム返しのように呟いて、少しだけ顔が強張った。言う。
「……わたし、今年は瑛くんにあげれてないよ?」
「知ってるけど、くれようとはしてただろ。…じいさんが言ってた」
「あ、マスター…」
「じゃないけどな、もう」
 自嘲のような苦笑いを浮かべた瑛の表情に、あかりは言葉に詰まった。手の中にある「それ」――そっけない紙袋を見つめて、さらに見つめて、もっと見つめていると、瑛のチョップがしびれを切らしたようにあかりの頭に落とされた。
「いつまで見てるんだよ」
「だって、やっぱりあげてないし」
「……だったら、来年2個くれればいいだろ」
「え?」
「今年の分と、来年の分で」
「2個?」
「そう」

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書けば出るっていうので【じじい×女審神者】

個性豊か(表現をすごくポジティブに表現)な刀たちとの暮らしは、それなりに順応してきたと思っていた。
 新しい刀が加わるたび、四苦八苦しつつも何とか今日までやってこれたし、困ったときは清光や薬研や光忠がさり気なくサポートしてくれていた――けれど。
(……どうしよう)
 新しくやってきた三日月宗近という刀に対しては、どう接していいのかわからずに頭を抱えていた。しかもよりにもよって頼りになる薬研と光忠は遠征中で、清光も出陣中だ。ついさきほど送り出したところなので、三人とも早々帰って来ないだろう。
(こ、困った)
 縁側で絶賛日向ぼっこ中の三日月の背中を見やりつつ、わたしは頭を抱える。どうしよう。仕事のためにと歴史と刀たちのことを勉強していたからこそ、あの刀がとんでもないレア物なのがわかっているだけにどうしよう!どう扱うのが正しいのかわからない!
「主よ」
「は、はい!」
 不意打ちで声を掛けられてしまい、わたしはまさに飛び跳ねて返事を返す。というか、わたしがここにいることバレてた!?
「な、なん、なんでしょう?」
「そんなに身構えることもなかろう。俺の主なのだし」
「はあ…」
 こちらを見つつ、三日月はのんびりとした口調で言う。そんな彼に対して、わたしは曖昧な返事を返してみれば、にこにこと機嫌良さそうな三日月が「来い来い」とばかりに手招きをしてきた。特に逆らう理由もないけれど、わたしは数秒戸惑ってから、意を決して彼の傍に歩み寄る。と、今度はぽんぽんと自分隣へ座るように畳を叩いた。
「少し話でもしないか? 皆は今、出払っているのだろう?」
「ま、まあ、そう、です」
 促されるままに三日月の隣に腰を下ろして、けれど彼の顔を見ることができずに目の間に広がる庭へと視線を向ける。天気の良い日の縁側はとても気持ちが良くて、いつもなら短刀の子たちと昼寝をすることもあるというのに、今日はとてもじゃないがそんな気分になれるはずもない。
 どきどきどきどきと無駄に速まる心臓の音が耳にうるさくて、話をしようにも考えが全く浮かばない。というか、話をする内容が浮かばない。
「主よ」
「は、はィ!」
 声が裏返ったかのような素っ頓狂な返事をすれば、くすりと隣で三日月が笑った。その笑い声につられて彼の方を見やると、やはり目を細めて楽しそうに笑っている。その表情というか、佇まいに身体中の温度が一気に上がっていくのがわかる。人の形になった刀たちは皆、どこか浮世離れしたきれいさがあったけれど、その中でもこの刀は段違いだと痛感する。さすが天下五剣と内心で呻いくと、ぽんと頭の上に手が置かれた。その手が三日月の手だということを理解するのに数秒掛かって、けれど認識したあとはぎしりと身体が固まって動けなくなった。
「今日からよろしくな、俺の主」
 低く、囁くような声がさらに体温を高めていくのがわかって、このままわたしは溶けて消えてしまうんじゃないかと思った。
 遠くで誰かの「ただいま」という声が聞こえた気がしたけれど、わたしはその場から動く気力を取り戻せずにただ三日月に頭を撫でられ続けるのであった。


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まだじじいはうちに来てません。

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