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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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天童主を目指して挫折した系

 気まずい、という単語だけがどっしりと美奈子にのしかかっていた。
 というのも、彼女が今いる場所が所謂「ラブホテル」だからだ。もちろんこんな場所に一人で入れるはずもないので、同行者はいる。それもきちんと彼氏彼女な関係の相手なのだからなんの問題もない――はずなのだが、二人の間にはこのホテルで行われる「そういった」雰囲気は微塵もなかった。
 そもそも美奈子が感じている気まずさも緊張からではなく、ここに入らざるを得なかった経緯が原因なのだ。
 久しぶりのデートを楽しんで、夕飯がてらにチェーン店のファミレスに寄ったところまでは良かった。会計を済ませて店を出たそのタイミングで、天童の携帯電話が着信音を響かせた。どうやらメールではなく電話のようで、着信音は長々と鳴り続ける。
 「出てもいいよ」という美奈子とは対照的に、なぜか天童は出るのを渋った。そうこうしてる内に電話は切れ、天童が嘆息を吐いたのと同時、再び携帯電話が鳴り響く。
「……」
「……」
 さすがに二度目の電話は無視出来ず、天童は電話に出た。もしもし、と低いテンションで対応する彼とは違い、電話口からはハイテンションな女の声が聞こえてきた。それで、さすがの美奈子もピンと来てしまった。
 元カノ。
 天童の女性遍歴を聞いたことはないけれど、出会ってから今までの雰囲気で、自分が初めてのカノジョではないだろうことは薄々と感じていた。そうして今、初めて「元カノ」の存在を目の当たりにしてしまった。こちらに背を向けて話す天童を見つめながら、美奈子は自分の中にある嫌な気持ちを自覚した。もやもやと纏わりつくような真っ黒な感情に、美奈子は眼を逸らすように踵を返す。
 足早にその場を離れようとすれば、電話を切った天童が慌てて追いかけてくるのがわかった。
「おい、美奈子。どこ行くんだよ」
「帰るの」
「怒ってんのか?」
「別に、怒ってない」
「怒ってんだろ。…だからさ、悪かったって」
「……それ、何に対しての『悪かった』?」
 言ってしまってから、我ながら意地が悪いと内心で独りごちた。案の定天童の顔が顰められてしまうも、美奈子も美奈子で意地っ張りな気持ちが全面に出てしまい、引くに引けなくなってしまっていた。
 暫く無言で見つめ合うと、先に視線を逸らしたのは天童の方だった。後ろ頭をがしがしと乱暴に掻いて、唸るような声を上げる。
「あー……さっきのは元カノで、今は何でもない。電話の内容も暇だったから掛けてきただけで、もう掛けてこないように言ったから」
「ふうん…」
「なんだよ」
「別に」
「別にじゃねえだろ」
 強い口調で言って、天童が美奈子の腕を掴んだ。天童と目が合えば、思わず視線を逸らしてしまいそうになるのを堪える。遠くで車のクラクションの音が聞こえて、すっかり出来上がった酔っ払いたちが、自分たちを冷やかしながら通り過ぎる。けれどもそんなことには構わずに暫くそのままでいると、はっと思い出して美奈子は言った。
「電車…!」
「あ?」
 美奈子は掴まれていない方の腕に巻かれた腕時計で、時間を確認した。日付はすでに変わっている。いつもならばあともう少し本数があるところだが、問題は今日が休日ということだ。休日の運行は平日よりも本数が少なく、かつ終電が早い。今の時刻では、つい数分前に休日運行の最終電はいってしまっている。
 当然電車より最終が早いバスの運行はとっくに終わっていて、残るはタクシーという最終選択肢だけだが、果たして自宅までいくら掛かるのか想像するだけで乗ることは躊躇われた。
 しかしそれは美奈子だけではなく、天童も同じなのだ。
 数秒、二人揃って美奈子の腕時計を見ていると、ふいに天童が美奈子の腕を離した。そして、
「ほら、行こうぜ」
「え? どこに?」
「電車ねえんだし、こんなところに居てもしょうがねえだろ」
「そうだけど、でも」
「タクシー使って帰るより、適当なところで一泊した方が安上がりだし」
「と、泊まる!?」
 天童の出した提案に、美奈子は素っ頓狂な声を上げてしまうと、少し前を歩いていた天童が振り返り、言う。
「別に何もしねえよ。この流れでそんなことするほどバカじゃねえ」
 そんな風に言われてしまうと、もはやぐうの音も出ない。美奈子は少し思案したあと、結局他に代案が浮かばずに無言で天童の後に続いた。
 そうして、話は最初に戻る。
 天童ときちんと仲直りをしないまま、なし崩し的にこの場所に入ったことが気まずくて仕方がないのだ。
 美奈子自身、初めてラブホテルなる場所に入ったが、想像していたものよりずっと内装は落ち着いていた。普通のホテルと変わらないか、むしろ広いくらいだ。もっと悪趣味な調度品なんかが置いてあるのかと想像していたのだが、見た目は普通のホテルとなんら大差ない。だが、先ほど入ったシャワールームには普通のホテルには置いてない――つまり、コンドームが取りそろえられているのを目の当たりにして、やっぱりラブホテルなのだと痛感した。
 美奈子はバスローブを着て、所在なげにベッドの縁に腰をおろしていた。うやむやになってしまった先ほどのケンカをどう切り出そうか考えるものの、思考はあちらこちらへと霧散する。そうこうしてる内に天童がバスルームから出てきて、美奈子はピッと背筋を伸ばした。
「なんだ、先に寝ててよかったのに」
「え…あ、うん」
「本当に何もしねえから、気にしないで寝ろよ」
 言うなり、天童はさっさとベッドの中に入ってしまうのを見て、美奈子も倣うように反対側からベッドへと潜り込んだ。天童が枕元に配置されたボタンのスイッチを押せば、すぐに部屋の明りが落とされた。
「おやすみ」
「…おやすみなさい」
 気まずい雰囲気はそのままなのに、就寝の挨拶を交わすことに違和感を覚える。
「……」
 さすがラブホテルなだけあるのか、外からの音は聞こえずに沈黙が部屋を満たしていた。
 美奈子は少し離れた距離にある、天童の後ろ姿を見つめる。同じベッドにいるのに、二人の間には人一人が入れるほどの、微妙な空間が空いていた。手を伸ばせば届く距離なのに、ひどく遠く感じる。
「……壬、くん」
 美奈子は、ちいさな声で天童の名前を呼ぶ。けれど相手からの返事はない。
 と、ふいに目頭へと熱が集まり始めた。暗闇の中でも目の表面が滲むのがわかり、美奈子は慌ててベッドから抜け出そうとした。が、片足が床に着くか着かないのところで、ぐいっと引っ張られてベッドの中に引き戻されてしまう。
「どこ行くんだ?」
 一瞬何が起きたのかわからずに目を白黒させていると、天童の低い声が降ってきた。
「どこって…ちょっとお手洗いに」
「嘘つけよ。泣きそうな顔して」
「見えないでしょっ」
「見えなくてもわかるんだよ。おまえのことなら」
 言って、けれどすぐに天童はため息を吐いた。
「なんつってかっこつけたいとこだけど、正直わからないからケンカしたんだよな。俺たち」
「……ごめん、なさい」
「俺も、ゴメンナサイ」
 言って、天童は美奈子を抱きしめた。まだ少し濡れている天童の髪の毛が頬に触れる。
「たださ、本当に元カノとは何もないから。信じてほしい」
「……うん」
「ヤキモチ妬く美奈子はかわいいけど、正直持たねえ」
「な、によ」
「ヤキモチじゃねえの?」
「そうだけど…だって」
「なに?」
「なんか、わたしばっかり壬くんのこと好きみたいで…っ」
 ふいに、美奈子の言葉は天童の唇によって塞がれてしまう。

--------------

ここまで書いて力尽きた系。
相変わらず天童が難しすぎてぐぬぬってなります。ぐぬぬ

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