今私のDSは起動する度に桜井兄弟が何か呟いてくれるんですがもうね!
ルカ「…だめだ、愛と勇気が足りない…」
コウ「まず意味がわからねえ!」
とかこんなやりとりばっかりではげる。
かわいすぎて私のライフはゼロよ!
桜井兄弟とバンビかわいすぎるよーうおー!!
というわけで、ルカ×バンビの小話をぺたりしておきます。ノーマルな上に全力でネタバレを含みますのでご注意!
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――『ルカが事故った』
コウから送られてきた短い文面のメールを見て、心臓がきゅうと縮み上がるような錯覚を覚えた。ついで、どんどんと内側から叩きつけるかのように心臓が騒ぐ。そうして呼吸が浅くなっていることにも気がついて、わたしはようやく我に返った。
行かなきゃ。
立ち上がる。咄嗟にそのままの格好で飛び出しそうなる動きを止めた。慌てて上着を羽織って、携帯と財布だけを入れた鞄を肩に掛ける。お母さんに短く用件だけを告げて今度こそ家を飛び出した。
夜も遅く、辺りは人の気配もない。ぽつぽつと灯った街頭がひどく寂しく見える。けれど今はそんなことに構っている場合ではない。わたしは愛用の自転車を漕ぐのに集中する。乱れる呼吸の息が冬の空気に散っていく。頬が冷えて次第に感覚がなくなっていくけれど、それに反するように手袋の中の手は熱くなっていく。ぎゅ、とハンドルを握り直して、怠けそうになる足を叱咤する。あと少し。もう少し。そんなことを言い聞かせ。最後の坂道を越える。ようやく見えた大きな総合病院の威圧感に気圧されそうになりながら、わたしは自転車置き場に向かい、鍵を掛けることもせずに病院の中へと飛び込んだ。
夜中の病院はひどく静かで、それが一層わたしの中の焦りを煽った。
入り口にいる看護士の人に声を掛けて、ルカの病室を聞こうとしたところで名前を呼ばれる。
「コウ」
思わず大きな声が出そうなったのを何とか堪える。呼ばれた方向に顔を向ければ、そこにはいつにも増して険しい顔つきのコウがいた。けれどよくよく見れば目がひどく疲れているのがわかる。ああ、憎まれ口ばかり叩いていてもやっぱり兄弟だよね、と。そんなコウの様子に少しだけ気持ちが落ち着いた。
コウはわたしの目の前まで歩いてくると、目を細めて口を開く。
「悪かったな」
「ううん。それよりルカは」
「奇跡的に一命は取り留めたそうだ」
「…そう」
奇跡。
その言葉で、少しだけ静まった心臓が再び縮み上がる。つまりはその「奇跡」が起きなければ、ルカはいなくなっていたということだ。
ふっと暗くなりそうな意識をなんとか踏みとどまり、代わりに学校の屋上の縁を渡って歩いていたルカを思い出した。お昼代がないからとやりはじめたその芸当に、危ないからやめてと止めるわたしにルカは、俺はヒーローだから不死身だと笑った。いつものルカの口癖だ。俺はヒーローだから、大丈夫。だから今回も「ヒーロー」の恩恵を受けられたとでもいうのか。笑えない。
「大丈夫か?」
コウの低い声が降ってきて、わたしの肩に手が置かれる。わたしはそれに小さく頷き返すと、そのまま近くのベンチに座らされた。今更になって膝が震えているのに気づく。わたしは両手で顔を覆い、一度呼吸を整えるべく深く息を吐く。次に、吐いた半分の量の息を吸い込み、顔を覆っていた手を目の前で組む。額に当てて、目を閉じた。まぶたの裏には、笑うルカの顔が浮かぶ。コウとふざけてる時。わたしに怒られて誤魔化す時。誕生日プレゼントに照れた時。たくさんたくさんルカの笑顔を見てきたけれど、でも、時折見せるひどく寂しくて悲しい笑顔が最後に思い出された。それは子供の頃から変わらないもので、それを見るたびにわたしはどうしようもない気持ちになった。
昔、どうしてそんなに悲しそうなのと、子供のわたしが訪ねたことがあった。けれどそれには答えてもらえず、やっぱり悲しそうにルカはわらうだけだった。
「…コウ」
「なんだ」
「わたし、ずっと3人でいられると思ってた」
「…ああ」
「ルカとコウの3人で、ずっと楽しく笑ってられると思ってた。一緒にいられると思ってた。誰かがいなくなるなんて……ルカが、いなくなるなんて、そんなの」
「……」
一度言葉を止めると、二人の間に沈黙が落ちる。
夜の病院は本当に静かで、わたしとコウの会話以外に話している人影も見られない。
「コウ、わたし」
わたしは再び口を開く。喉の奥で何かが引っかかる気配がする。こみ上げてくるものをなんとか飲み込み、わたしは一度唇を引き結ぶ。そうして、
「ルカのこと、好きだ」
消え入りそうな声で告げたわたしの言葉に、やっとかよ、と。同じくらい小さな声で、どこか呆れたように、でもひどく優しい声でコウが言った。ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でられると、腕を掴んで立たせてくれる。
「行ってこい」
背中を押されて促された先は、ルカが寝ている病室の前。こわい。無事だとわかっていても、怪我を負ったルカを見るのがこわかった。けれどこのまま逃げるのなんて、当然できるはずもない。
わたしはスライド式の病室のドアを静かに開き、最初の一歩を踏み出した。
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