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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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瑛主をちゅっちゅさせたいだけな小話

※在学中に佐伯とデイジーが付き合ってたらというif展開でお願いします。



 はあ、はあ、はあ、と二人分の乱れた呼吸音が耳につく。
 けれどその音さえも恐れるように、のどの奥へと飲むようにして息を潜める。
 場所は、はね学の体育倉庫。
 建物として独立したそこは、体育という授業以外で近寄る人物はいない。そうしてその体育でも、倉庫内のものを使っての授業は稀だ。この場所が大活躍するのは体育祭くらいだし、普段は鍵も掛けられてわざわざ近寄ろうと思う生徒はまずいない。
 けれど、そんな倉庫に今、佐伯とあかりの二人は自分たちの気配を消すように身を潜めていた。
 先ほども述べたように、普段は鍵が掛けられているはずの倉庫はどこかのクラスが授業で使って閉め忘れた状態のままになっていた。しかし女子から逃げ回っていた二人にとっては、恰好の隠れ蓑だ。普段鍵が掛かっているこの場所を、佐伯を追う女子たちは探索の場所からは外して通り過ぎていった。それでも内側からしっかりと施錠し、外の様子を伺う。佐伯を探す声が遠くなって数分、戻ってこない女子生徒たちの足音にようやく安堵の息をついた。
「……疲れた」
「お疲れ様」
 がっくりと頭を垂れる佐伯の頭を、労うようにぽんぽんとあかりは撫でた。
 佐伯は項垂れた顔から視線だけを持ち上げて、同じように隣にしゃがみ込むあかりを見やる。彼女と恋人関係にはなったものの、やはり周囲の環境(特に佐伯ファンの女子)のことを考えて、内緒にしようと言い出したのはあかりの方だった。佐伯はむしろ公言しようとしたのだが、あかりの「高校生の間だけなんだし、大したことないよ」とやたら朗らかに笑う彼女に絆されてしまった。
 けれどやっぱり、こうして女子生徒に追われてあかりと二人きりになれのは、正直つらい。
 付き合ってるのに。こいつは俺の彼女で、俺は彼氏なのに。そう喉まで出かかる言葉は、いつだってあかりの笑顔の前で言えずに終わる。
(……こいつは)
 つらくないのか、と。
 時折佐伯は考える。
 付き合ってると言えず、明らかに佐伯に好意を抱いている女子生徒を目の当たりにするのは気持ちの良いものではないはずだ。
 けれどあかりは、いつだって佐伯に笑かける。
 その笑顔に救われる反面、どこかでいつも不完全燃焼な気持ちに苛まれていた。
「瑛くん?」
 つと、あかりは不思議そうにこちらの顔を覗き込んできた。
 近い距離にあるあかりの顔を見て、自然、目は彼女の唇にいってしまう。
(そういえば)
 最後にあかりとキスをしたのは、いつだったろうか。
 最近は店も忙しくて、最近は休日にデートをすることもなかった。
 放課後になって一緒に珊瑚礁に向かっても、すぐに着替えて働いていた。
 そもそも、こんな風にあかりと二人きりでいることすら久しぶりなのだ。
「あか、り」
 ごく、と喉が鳴る。
 目の前にあるあかりの唇へと距離を詰めて、唇へと自身のそれを重ねた。
 ちいさな彼女の唇の感触を受け止めれば、一気に脳に血液が巡っていくような気がした。触れた唇を一旦離し、けれどすぐにまた、押し当てる。
「ん…」
 重なる唇の隙間から漏れる、あかりの声さえ勿体ないと思う。全部。全部自分のものできたらいい。そんな欲求が佐伯を支配する。
 けれど、
「佐伯くーん!」
 びく!
 唐突に過ぎ去った嵐が戻ってきた気配に、二人同時に身体を震えさせた。キスを中断させて、近い距離で見詰め合ったあと、同じタイミングで外をの様子を伺うように扉へと視線を向ける。
 扉の鍵は、しっかりと施錠されている。
 確認にきたとしても、開けることはできないはずだ。
 何も不安になることはないのに、女子生徒の声が近づくにつれて心臓の音が速まる。それはあかりも同じなのか、不安そうな表情で扉の外を伺うように見つめていた。
「ねー、やっぱりこの辺じゃない?」
「でも、ここらで隠れるところなんかないでしょ?」
「体育倉庫とか?」
「鍵掛かってるでしょ」
「だよねー」
 そんな外のやり取りの声に、あかりは身をちいさくするような仕草を見せた。けれど、思わずであろうその仕草に、佐伯の中の何かが妙に煽られた。あかり、と囁くように名前を呼んで、再びキスを再開させる。驚いて口を開きかけた彼女の咥内へと、舌を差し込む。奥に引っ込んだ彼女の舌を捉えては、くちゅくちゅと音を立てながら唾液を絡ませていく。
 外はではやはり佐伯を呼ぶ声が聞こえていて、その声が上がるたびにあかりがびくりと震えるのがまた、余計に佐伯を興奮させた。
 近くで適当に片付けられたマットの上にあかりを押し倒し、夢中でキスを繰り返す。


 結局予鈴のチャイムが鳴るまで二人は体育倉庫に隠れるはめになり、お弁当を食べ損ねたのであった。



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たまには強引な佐伯を書いてみたかった系。

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