カタカタと窓枠が風に叩かれる音が、妙についた。同時にすき間風が部屋に入り込み、フィンランドはぶるりと身体を震わせる。首元まで掛けてあった毛布を更に引き上げて、頭を覆うようにすっぽりと被り直す。それでも寒さが拭えない気がして、フィンランドは毛布の中で身を縮こませた。
そうすることで、昔、スウェーデンと共にデンマークの家から飛び出して、野宿をした日のことを思い出した。あの時は寒さに震わせていた身体をスウェーデンが抱き寄せてくれたけれど、今はその彼はいない。フィンランドは震えの止まらない身体を落ち着かせるように膝を抱え、きつく目を閉じた。
しかし明かりのない室内と、更にはベッドの中では目を閉じていても開いていても、ただ真っ暗闇な景色だけが漠然と広がるだけで。
そんな何も見えないはずの視界でも、どうしてかスウェーデンの顔が浮かんでは消えていく。主に思い出すのはいつものむっつりとした無表情な顔だが、たまに。極稀に見せる微笑みも確かにあった。それを思い出すとひどく心臓が痛み、ずきずきずき、と鈍い痛みが全身に広まるような錯覚を覚える。
実のところデンマークの下で働いていた時はあまり交流はなくて、飛び出してから初めてまともに向き合ったスウェーデンはこわくて堪らなかった。
口数は少なく、感情の起伏もあまり見せない彼はフィンランドにとって正直苦手なタイプで、スウェーデンからも逃げ出したいと考えたことは何度もあった。
しかし日々を過ごしていく内に、少ない言葉の中にある優しさに気づいて。無表情だと思っていた顔にあたたかい感情を見つられるようになってからは、そんな考えなどいつの間にかどこかにいってしまっていた。
それはきっと。
「しあわせ」だったのだろうと、今になってフィンランドは気がついた。
しあわせだったのだ。
一緒に暮らし始めた当初のスウェーデンに対する気持ちは大きく変わり、何気ない会話や、ただ、隣にいられることがしあわせだった。
けれどそのことに気がついたのが、絶対に彼に伝えられない今だなんてとフィンランドは苦笑交じりの自嘲を浮かべる。
ロシアとの戦いで負け、自分だけがここに連れてこられた。
嫌だと抵抗する言葉は当然聞き入れてもらえず、動けないスウェーデンを振り返れば今まで見たこともない泣きそうな彼と目が、合って。そんな顔、デンマークから幾度の折檻を受けた時ですら、見たことなんてなかったのに。
「帰りたい」
少しだけ強引だけど、優しいスウェーデンの元に帰りたい。
声にだして、祈るように呟いてみても当然それが叶うはずもない。童話のようにいかないのだとわかってはいても、言わずにはいられなかった。
そうして暗闇に浮かぶスウェーデンの姿へと無意識に手を伸ばすも、届くはずもない指先を握り締め、ついに目から涙が零れた。
「スー、さん…ッ」
それでもなおスウェーデンの名前を呼び、嗚咽だけは零すまいと唇をきつくかみ締めた。
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