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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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天地小話(GS2)

絶賛スランプなう。

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 反則にもほどがある、とあかりは思った。
 なのでその気持ちのまま「ずるい」と真っ向から告げれば、言われた相手は「は?」と間の抜けた声と顔を返してきた。
「天地くんばっかり身長伸びて、ずるい」
「いきなり何」
「…だって」
 間の抜けた表情から疑わしげな視線に変わり、あかりは不満を訴えるように唇をますます尖らせた。しかし言葉とは裏腹に視線は真っ向から睨み合うほどの勢いはなく、どんどん逸らされて降下していった先でクッションへと目を止めた。まるでそのクッションが唯一の味方であるかのように抱き込むと、しっかりとしがみついては「だって」をもう一度繰り返す。
 そんなあかりの様子に天地は続きを待っているのがわかったが、続く予定だった反論の言葉は口にできなかった。というか、改めてその内容を胸中で反芻してみた途端、あまりの低レベルさ加減に気が付いてしまったからだ。あかりの子供じみた言い訳は、彼の先輩であるという自尊心に引っ掛かってしまった。こんなときばかり妙に主張してくる「年上」意識に、内心でのみ顔を顰める。否、実際表情にも表れていたのかもしれないが、クッションに顔を埋めている状態なので相手には気付かれていない。
 普段は殆ど気にしていない年齢差のくせに、気まぐれにひょっこりと顔を出すときは大概場をややこしくさせる。だからあかりは、余計なことを言わないように口を噤んだ。「年上年下」を意識してる自分も嫌だが、目の前の相手はあかりよりも更に、たった一つの年の差を見せつけられることを嫌う。
 実際、過去にそのことが原因で口論になったこともあった。
(でも)
 と。
 ふいにあかりは、去年まで通っていた高校の頃を思い出す。
 はね学を卒業してから付き合うことになった二人ではあるが、その在学中の天地はあかりよりほんの気持ち程度高いくらいの身長差でしかなかった。そして共に過ごした二年間の間、天地には殆ど身長差の変化が見られなかったから、ずっとこのままだと油断していたらこの有様だ。あかりが卒業して半年が経った今、すでに10センチ以上の差をつけるくらい背が伸びていた。しかもその勢いは未だ継続中で、着る服のサイズが変わって困ると苦笑しつつもどこか嬉しそうな彼に、良かったねという反面でもやもやと複雑な気持ち募っていた。
 結局あかりは、クッションに顔を埋めて沈黙する体勢に入る。ミザルイワザルキカズル! なんて呪文のように心の中で唱えてみるものの、空気の方は気まずくなっていく。
「ねえ」
 クッションに顔を埋めているあかりの頭の、旋毛の部分へと声が降ってきた。しかしあかりは顔を上げず、キカザル! とさらに強くクッションを抱きしめ る。
「ちょっと、こら、子供みたいにいじけないでくれる?」
「…いじけてないもん」
「いじけてるでしょ。…ああもういいから、抱きつくならこっちにしなよ」
 そういって、天地は強引にあかりからクッションを引き抜きにかかる。やだやだとあかりは本当に子供のような駄々を捏ねるも、天地はクッションごとあかりを抱きしめる作戦に出た。二人の間でクッションが潰れて、その圧迫感で息苦しいが自業自得だ。
「ね、僕の身長が伸びたらそんなにいや?」
 背中に天地に天地の腕が回されたと思えば、その手のひらがあかりの髪を撫でる。
「だって」
 クッションに顔を埋めたままなので、声はくぐもってしまう。しかしやっぱり顔を上げる気になれず、あかりは先程言いよどんだ言葉を結局口にしてしまう。
「なんか…置いてかれちゃうみたい」
「僕が? 先輩を?」
「……うん」
「それ、こっちの台詞なんだけど」
 言って、天地はため息を吐いてみせた。続ける。
「一つ年上の先輩は僕を置いて卒業しちゃうし、先に成人だってしちゃうんだし? せめて身長くらいは追い越させてほしいんだけど」
 軽い口調で言われたその言葉に、あかりはえっと思わず顔を上げてしまう。すると思いの外近い距離にある天地の顔に驚いて、再び逸らそうとして失敗に終わる。髪を撫でていない方の手ががっちりとあかりの顎をホールドしたのだ。
「はい、逃げない」
 ホールドされた状態のままでもなんかとか視線だけでも逃がそうと四苦八苦していると、「先輩」と自分を呼ぶ天地の声が沈んでいた。条件反射の方に天地の方へ目を向ければ、出会った当初より随分男らしくなった表情が寂しげに陰っていた。
「僕って、そんなに信用ない?」
「天地くん…」
「…先輩は僕の何?」
「……えっと」
「何ですか?」
「か……カノジョ、です」
「よくできました」
 言って、笑う天地の顔はすっかりいつもの調子に戻っている。
 先程の愁傷な演技に騙されたのだと気が付いた時点で後の祭りなのは毎度のことだが、ともすればこの後の展開も予想できた。大概が、悪い方にいくという予想が。
 するとまるでその予想が正しいことのように、天地はさらに上機嫌に笑ってみせた。
「じゃあご褒美に、先輩からキスさせてあげる」
「ご褒美かなそれ!」
「僕からしていいの?」
 問う天地の目には、女な自分顔負けの強い色気が瞬時に宿ったのがわかって、
「待っ」
 て、と。
 制止の言葉は結局天地の唇によって強制的に塞がれてしまい、二人の間に蟠っていたクッションも引き抜かれてしまった。
 もはやすっぽりと抱きしめられてしまうほどの天地の腕の中で、やっぱりずるい、とあかりは胸中で独りごちた。

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