クリスマスネタな荒ハム。
荒垣先輩のお見舞いとマフラープレゼントしたかったんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!(だん!)
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ドアを二回、ノックする。その度にかすかな期待をして、けれど何も応答のない扉の向こう側の反応に落ち込んでしまう。
この扉の向こう側いる相手の容態は、理解している。
それでも。
どうしても。
今日こそは、と願ってしまうのは罪なのだろうか。
律子は改めて気持ちを落ち着かせ、返答のない扉のドアノブを握りしめた。軽く捻って手前に引くと、あっさりとドアは開いた。ざっと辺りを伺うも、律子以外には部屋の主である彼以外には誰もいなかった。
少しだけ安堵の息を吐き出し、律子はベッドの側に寄る。腕には点滴の管が通されて、そのすぐ隣には彼が生きていることを知らせる心電図が設置されている。
「荒垣先輩」
律子は彼――荒垣真次郎の名前を呼び、ベッドの側に椅子を引き寄せた。座って、相手の顔を覗き込む。まるで眠っているような表情で目を瞑る荒垣の顔を見る度、涙は勝手にこみ上げてきてしまう。だが、それは律子の眼の表面を濡らすだけで、零れることはなかった。息を止めるように喉を絞り、律子は泣く衝動をやり過ごす。荒垣を前にすると泣きそうになってしまうのはもう、条件反射だ。
律子は自身を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。この動作も、もはや定番になっている。
「先輩、今日はおみやげを持ってきました」
泣く衝動をやり過ごし、律子は一方的に口を開いた。通学用の鞄とは別にもう一つ持っていた紙袋を膝の上に置く。それに手を差込み、毛糸で編まれたマフラーを取り出した。
「これ、ベベくんに教えてもらって作ってるんですけど、先輩のマフラーですよ。編み物なんかしたことなかったからちょっと不格好になっちゃりしてますけど、今回はこれで見逃してください。来年は先輩の帽子を目標で、もっとレベルアップしますから」
――だから。お願いだから、
「…早く、目を覚ましてくださいね」
ぽつんと、最後に言った言葉はひどく小さく、頼りない声音だった。いつもは毅然とした態度でいることの多い律子なだけに、こんな表情をするのは滅多にない。律子とて、自分がこんなにも弱い一面があることに驚いているのだ。
「……じゃあ、また来ます」
暫くの沈黙のあと、そう言って律子は立ち上がった。
と。
「…、」
声が、聞こえた気がした。
慌てて振り返って見るも、視線の先にいるのは変わらず目を閉じたままの荒垣の姿だ。
空耳かと、律子はほんの少しだけ肩を落とす。
今度こそ寮へ帰ろうとドアに向かいかけて、もう一度荒垣を見た。彼の傍に歩み寄り、閉じている荒垣の顔を見つめる。
「大好きです」
囁くように言って、律子は荒垣の額に唇を押し付けた。そうして、逃げるように部屋を飛び出していった。
部屋には再び荒垣だけが残され、ぴくりと眠る彼の瞼が微かに動いたものの、それに気が付くものは誰もいなかった。
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