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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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桜井兄弟小話

3年目桜井兄弟とのクリスマスで琉夏でも琥一でもなく、3人一緒にいられたらっていう妄想


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 ふっと、美奈子は目を覚ました。
 もそもそとベッドの中で寝返りを打ち、枕元に置いておいた携帯電話を開く。ディスプレイのバックライトが眩しくてぎゅっと目を瞑る。薄めを開けて時刻を確認すれば、朝の4時を過ぎたところだ。
 まだまだ眠くて重い頭と身体を叱咤して、どうにか身を起こす。部屋の寒さにぶるり震えながらも、借りた上着を羽織ってベッドから抜け出した。
 今、彼女がいる場所はWestBeachの琉夏の部屋だった。
 25日のクリスマスは、毎年恒例で行われているはばたき学園長主催の学園パーティーに出席していた。今年で高校三年の美奈子にとって、これが最後の学園パーティーであった。それは幼馴染である琉夏と琥一も同じで、パーティーが終わりを名残惜しむように彼らの住家であるWestBeachにやってきたのだ。
 琉夏と二人で山のようにホットケーキを作り、呆れ顔の琥一と三人でテーブルを囲みながら残り数時間のクリスマスを楽しんだ。けれど25日が終わりに近づけば近づくほど、どんどん帰りたくなくなってしまう。
 真冬のWestBeachには暖房というものはなく、室内でも白い息が舞うほどに寒い。それでもまだここに――正確には、琉夏と琥一と三人で一緒にいたかったのだ。
 クリスマスは今年だけではなく、来年も再来年もこの先ずっと迎えることはできる。けれど、こうして3人一緒に顔を合わせ、屈託なく笑っていられるクリスマスはもうないかもしれない。そう考えれば考えてしまうほど、あと少しもう少しと誰にともなく言い訳を繰り返していた。けれど、さすがに誤魔化せないほどの時間になった頃、泊まっていけばと幼馴染の弟が提案した。
 いつもなら即座に否定していたけれど、先ほどの感傷を引きずっていたため、言葉に詰まった。そうして兄の方も珍しく弟と同じように泊まっていけと促すので、美奈子は両親に嘘を吐いてWestBeachに留まった。罪悪感はあるものの、まだ彼らと居られることがうれしいと思う気持ちの方が勝っていた。
(それに)
 と、美奈子はベッドの足元に置いた紙袋を持ち上げた。暗い部屋の中では見えないので、携帯電話の明かりをライト代わりにして確認する。グレーと黒のマフラーが二本、紙袋の中には入っていた。
(…喜んで、くれるかな)
 こっそりと二人にプレゼントしようと思い、手芸部の部活中編んでいたマフラーだった。
 美奈子は足音を忍ばせるように、ゆっくりゆっくり二人が眠る上の階を目指した。建物自体が古いので、ぎ、と軋む音が鳴るたびにびくびくと肩が跳ねてしまう。
 どうにか辿りついたころには夜目に慣れて、うっすらと部屋の中が見渡せた。ベッドとソファー、それぞれに山が出来ている。
 美奈子は近い方のソファーへと歩み寄る。階段を登るのと同じくらい慎重に近づいて、そっと相手の様子を伺う。暗い部屋の中でも金色の髪は目立って見えて、ソファーで寝ているのが琉夏だとわかった。二つあるマフラーの片方を枕元に置いて、今度は琥一の方へ向かおうとしたところで、ぐっと手首が掴まれた。
「きゃっ!」
「サンタクロース捕獲」
 中腰の状態で引っ張られたため、成すすべもなく琉夏の方へ倒れ込む形になった。しかしそんな美奈子を琉夏はしっかりと抱きとめる。
「る、琉夏くん、起きて…?」
「今起きた」
「えっ」
「…ウルセーぞ」
「コウ、かわいいサンタクロース捕まえた」
「あ?」
 美奈子と琉夏のやり取りで、ベッドに寝ていた琥一が目を覚ます。ぎし、とベッドが軋んだかと思うと、のっそりと起きだした琥一がこちらにやってきた。
「何やってんだ、オマエらは」
「…その、一日遅れだけど、二人にクリスマスプレゼントをと思って」
「はあ?」
「これってマフラー? 美奈子の手編み?」
「い、一応」
「やったね」
「こっちはコウくんのです…」
「……おう」
「照れてんのか、コウ」
「ウルセーな。さっさと寝ろ」
 美奈子が差し出したマフラーを少しだけ躊躇いつつも受け取った琥一は、さっさとベッドに戻ってしまう。そんな彼の後ろ姿を見送っていると、琉夏も立ち上がって美奈子の手を引っ張った。
「よし、じゃあ3人で寝よう」
「え、ちょ」
 戸惑う美奈子には構わず、琉夏は琥一のいるベッドに二人そろって倒れ込む。3人分の体重を受けたベッドが、悲鳴のように大きく軋んだ。
「何してんだバカルカ!」
「コウ、詰めろ」
「詰めろじゃねえ、ソファー戻れバカ」
「そうだよ琉夏くん、ちゃんと寝よう!」
「一緒に寝た方が暖かいって」
「そういう問題じゃないと思うな!」
「おい、ルカ」
「琉夏くーん!」
 おやすみーと一方的に告げるや否や、琉夏はさっさと目を瞑って一人寝る体勢に入る。完全に置いてきぼりな二人の目を合うと、ごめん、と美奈子が言った。
「わたし、戻るね」
「メンドクーからオマエもそのまま寝とけ」
「でも」
「どうせオマエが戻ろうとしても、そこのバカがまた騒ぐだけだ」
「せ、狭くない?」
「…仕方ねーだろ」
 ため息を吐いて、琥一は美奈子に背を向けた。
 そうして左右に眠る幼馴染の体温を感じながら、美奈子も観念したように目を瞑る。



「…また、3人でクリスマスしようね」
「気が向いたらな」
「オマエがしたいっていうなら」

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