なわけあるかああああああああああああああああ!!!!!!!
完全に遅刻ですが、ふいに小ネタが降臨したので上げておきますのまさかの琉夏誕。
卒業後の琉夏とバンビでござる。同棲はしてないよ!でも合い鍵は渡してあるよ!
そんな前提を説明をしなければいけないくらいの残念さである。
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いつもなら惰眠を貪っている時間ではあるけれど、今日は自然と目が覚めた。しかも時間を確認してみれば、まだ朝の六時だ。二度寝をする資格は十分にある時間だったが、琉夏はどうしてかベッドから起き上がった。カーテンを開いて外を見やれば、七月を迎えたからというわけではないが、十分に明るくなっていた。琉夏はあくびを一つして寝室を出る。そのまま洗面所に向かおうとして、つと、台所への違和感に気が付いた。
――誰か、いる。
一人で暮らしているからだろうか、自分以外の気配には敏感になってしまう。とはいってもその「誰か」の心当たりなど、たった一人しかいない。もしくは本当にただの泥棒だろうけれど、そもそもこんなおんぼろ一軒家にわざわざ狙いをつけて入ってくるような輩もいないだろう。そう中りをつけつつも、一応用心のためにと足音を立てないようにしながら近づいてゆく。台所へと続くドアも慎重に引いて、ほんの数センチの隙間を開けた。すると、流し台の前で何やら器具や食器を扱っているらしい、琉夏が予想を立てていた「彼女」の背中を見つけた。肩口で切りそろえているボブカットの毛先が揺れている。
「み」
呼びかけようとして、琉夏は口を噤んだ。というのも、咄嗟にちょっとしたいたずら心が沸き上がったからだ。琉夏は数センチほど開けたドアを自分一人が通れるほどまで開く。全神経を美奈子と足音に向け、彼女に気付かれないように一歩、室内に踏み込んだ。ら、
「え」
「あ」
琉夏が二歩目の足を踏み出したところで、不意打ちで相手が振り返ってしまった。ばっちりしっかりお互いの目と目が合ってしまい、二人同時に固まってしまう。だが、先に我に返ったのは美奈子の方で、今し方自分が使っていた流し台を隠すように両手を広げた。「通せんぼ」のような状態になりながら、美奈子は焦ったような声を出す。
「な、なななんで琉夏くんがいるのっ?」
「いやここ俺の家だし」
「そうだけど!」
「むしろこんな朝早くから来てる美奈子こそどうした? 夜這い? あ、朝だから朝這い?」
「どっちにしても違います!」
琉夏の惚けた言葉にすぐさま突っ込みを入れつつも、美奈子は流し台の前からどことうはしない。あからさまに背後にある「何か」を隠したがっているのは明白だ。琉夏は背伸びをして美奈子の背後にある「何か」を覗き込もうとすると、美奈子も同じように背伸びをし、琉夏の視線をブロックする。反対側から同じように覗き込もうとすれば、やっぱり相手も琉夏の視線を阻止すべき身体を張る。二三度同じような動きを繰り返し、ぴたりと琉夏は動きを止めた。じっと美奈子の目を見つめれば、一瞬だけ彼女が怯んだ。当然琉夏はその隙を逃すはずもなく、真っ正面からがばっ! と美奈子に抱きついた。
「わ!」
短い悲鳴を上げる彼女にはかまわず、琉夏はそのまま美奈子のを腕の中に抱え込む。元々身長差があるので、こうしてしまえば彼女の作る壁など乗り越えたに等しい。
「琉夏くん!」
非難めいた抗議の声が腕の中で上がるけれど、時既に遅し。琉夏は美奈子の背中に隠されたものを見つけてしまっていた。
「……美奈子、それ」
「……」
一見しただけで「それ」が何であるかはわかったけれど、美奈子の口から直接聞きたくて琉夏は問う。けれど腕の中の彼女は大層不服そうに唇を尖らせていた。おそらく、というか確実に琉夏をびっくりさせようとしてくれたのだろう。だからこんな中途半端な形でバレてしまったことが解せないのかもしれないが、琉夏にとっては十分過ぎるほどのサプライズだ。
「……今日は琉夏くんの誕生日だから」
「去年のクリスマスみてえ」
「量は足りないけど、あのときより豪華にしてみました…」
「うん、ちょううまそう」
言って、琉夏はわらう。視線の先にあるのは全長20センチほどのホットケーキのタワーだ。一番上に重ねられたホットケーキには生クリームやフルーツで色とりどりにデコレーションがしてあり、チョコレートのプレートには「ハッピーバースデー」の文字が書かれている。
「…絶対琉夏くんが起きてくるのは昼過ぎだと思ってたのに」
未だむくれた様子の美奈子のぼやきに、琉夏はますます愛しさがこみ上げてきた。どうして彼女は、こんなにも簡単琉夏を幸せにすることができるのだろう。
卒業式のあの日。
気持ちが通じ合って、きっとあれ以上の幸せなんてないと思った。
けれど美奈子はそんな琉夏の予想を遙かに超えていく。
「美奈子」
彼女の名前を呼び、ぎゅーっときつく抱きしめた。
「これ、食っていいんだよな?」
「いいけど、今から?」
「うん」
「…胸妬けしない?」
「愛があるから大丈夫」
「なにそれ」
琉夏の言い分に、美奈子は吹き出した。くすくすと笑う彼女の額にキスをすれば、お返しとばかりに頬に唇が押し当てられる。そうして暫くキス合戦を繰り返したあと、美奈子が「誕生日おめでとう」と言ってくれた。
[6回]
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