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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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P4小話

主人公&陽介

主人公の名前は優夜です。



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 部屋の荷物を片づけている手を止めて、ふと優夜は顔を上げた。その視線の先にあるのは、少しだけ古ぼけた一台のテレビ。そうして、そのテレビの上には黒縁のメガネがあった。
 優夜は立ち上がってそのメガネを手に取り、そのまま耳へと掛けてみる。そうして辺りを伺いみるが、変化は何もなかった。あるとすれば、それは確実に荷物が片づけられているということくらいだ。

「おーい、優夜ー!」

 つと、階下から聞きなれた声が自分を呼ぶ。その声に反応してメガネを掛けた状態のままに降りていけけば、そこには予想に違わず花村陽介が玄関に立っていた。そうして、優夜の姿を見るやいなや、一瞬ぎょっとした顔を見せて、口を開く。

「おま、何かあったのかよ!?」
「? 何が?」
「それ! メガネ!」
「…ああ」

 陽介の指摘に彼の困惑している原因を知る。優夜は掛けている黒縁のメガネに触れて、答えた。

「何となくだ。深い意味はない」
「…焦らせんなよ」

 がっくりと、陽介は大げさな仕草で肩を落として見せた。それと同時に彼が手に持っているビニール袋ががさりと音を立てたので、そこで優夜は初めて彼の手にあるものの存在に気がついた。

「それ」
「ん?」
「何か持ってきたのか?」
「お、そうだ! 今日からジュネスで売り始めるシュークリームなんだけどよ、うまかったからおまえと菜々子ちゃんに持っていこうと思って。一応堂島さんの分と三つ持ってきたけど、甘いの平気だったか?」
「多分平気だ…悪いな」
「今さら何いってんだよ、相棒」

 苦笑をこぼす優夜に、陽介は茶化すように笑うと「相棒」部分を強調するように言って、肩を叩く。「相棒」。その単語を聞いて、優夜はここ数日に何度も過ぎった形容しがたい感情を覚えた。けれどそれをぐっと堪え、陽介へ上がるように促す。居間に通して、自分はお茶を沸かすために台所へ立つ。ヤカンに水道水を注いでコンロの上に置く。チチ、と短く火花の散る音の後、すぐにコンロに火が点った。

「なあ」
「なんだ」
「実はさー」
「うん?」

 シュンシュンと沸騰を知らせるヤカンの火を止め、急須へ茶葉を入れたところで居間から投げられた呼び掛けに振り返る。すると、陽介はいつの間にかオレンジ色のメガネを着用しているものだから、それを見た優夜はさきほどの陽介と同じようなリアクションをとってしまう。そんな自分に対して陽介は笑うと、がしがしと乱暴に頭を掻いて、口を開く。

「何つうか、オレもこれ持ってないと落ち着かないっていうか…お守りみてえな感覚?」
「わかるな」
「だろ?」

 沸騰したヤカンのお湯を急須に入れて、二人分の湯呑みを持ってやってきた優夜に陽介は安心したような顔を見せる。
 そうして、二人分のお茶を注いでいる間。お互いに間には奇妙な沈黙が落ちた。かたり。陽介がメガネを外し、テーブルの上に置く。それを見た優夜も同じくメガネを外そうとして、けれどそれより先に、陽介の手が伸びてきた。彼の手が優夜のメガネを外すと、今度はそのまま陽介の元へと掛けられる。

「似合う?」
「……うーん」
「…似合わないってことな」
「まあ、そうだな」

「いいけど! そう言われる予想はついてたから気にしねえけど!」
「拗ねるなよ」
「拗ねてねーよ!」
「わかった」
「おまえな……じゃなくて。なあ、オレとおまえのメガネ、交換しねえ?」
「交換?」
「そう」

 こっくりと、妙に神妙な面もちで頷く陽介。優夜は彼からテーブルの上に置かれたメガネへと視線を外せば、再び、あの例えようもない感情が湧き上がってきた。

「……そうだな」

 それでも何とか呟くような声で返し、頷く。ぎゅっと湯飲みを掴む手に力が入り、そっと嘆息を零す。

(わかっていたことじゃないか)

 そう。初めからわかっていたことだ。この街には、両親の都合で一年しかいないことは。
 最初にそれが決められた時は、特に興味がなかった。ただ、少しだけ面倒だな、とは正直に思ったけれど。あまり面識のない親戚の家に預けれるのはやはり戸惑いと煩わしさが伴う。けれど一年間だけというきちんとした期間が決められているからこそ、優夜はそこまで後ろ向きにならずに済んだのも事実だ。
 けれど、今はこの一年が終わってしまうことが、ひどく。
 寂しい。

(……ああ、そうか)

 唐突に、ここ最近で悩まされていた感情の正体に気がついた。『寂しい』のだと、そんな感情を持つ機会が少なすぎたことにも、また、苦笑を零した。
 この街での一年間は、苦しいことの方が多かったかもしれない。けれどそれでも巡り合って、共に戦った彼らと。堂島親子のように、この街で出会えた人たちとの絆は例えようもなくかけがえのないものとなった。

(でも、俺は)

 春がくれば、この街には自分だけがいなくなってしまう。

「何つう顔してんだよ」
 ふと。
 陽介の声に顔を上げれば、彼はいつもの陽気な表情に少しだけ寂しさが入り混じっているように見える。

「離れたって、オレたちずっと友達だろ?」
「友達以上でも困るだろ」
「当たり前だ!!」

 自分の考えを見透かして励ます陽介に、少しだけひねくれた言葉を返す。こんなたわいもないやり取りすら楽しくて、大切で。
 残された時間を噛み締めるように、優夜は目を細めるようにして。
 微笑った。





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P4って難しいな……!

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