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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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ときレス小話【京也】

「これで全部かな」
 言って、美奈子はメモ用紙を片手に、足元に置かれた荷物を確認する。
 今日はレストランの定休日とあって、美奈子は買い出しに来ていた。元々買う予定のものと+αを加えた結果、買いすぎたかなと若干の後悔が過る。それでも買ってしまったものは仕方ないし、多いとはいえ、一人でもなんとかなる量だ。
「よし」
 美奈子は気合いを入れるように呟くと、少し離れた場所で悲鳴が上がった。突然のことに驚いて声の方へと視線を向ければ、そこには広告用電光掲示板に、でかでかと「3M」と「X.I.P.」のメンバーが映し出されていた。そこここで女子高生から社会人らしい女性の悲鳴とも歓声ともつかない声を聞いて、美奈子は改めて彼らがアイドルなのだと痛感する。
 初めて出会ったときこそ「かっこいい」なんてときめいたりしたものだが、今となれば割と自己主張の激しい常連にしか見えなくなっていた。これも所謂「慣れ」というものなのかと、美奈子は暫くその電光掲示板を眺めていれば、近々セカンドシングルが発売すると京也が言っていたこと思い出した。
(常連さん、だし)
 マスターにも彼らを逃がすなとも(店の売上的な意味で)言われているし、今度ランチに来た時におまけの差し入れでも出そうかなどと考えていたところで、ふっと背後に立つ人の気配に気が付いた。え、と思ったときには相手の距離は必要以上に近づき、美奈子の耳元へと唇を寄せてきた。
 そして、
「そっちより、本物の方がもっとイケてるぜ?」
 などと囁いてきた。
 目はサングラスで隠されているが、その声と目立つ金髪ですぐに誰なのかピンときた。まさに今、周囲の女性が釘付けになっている二大アイドルグループの一つ、「X.I.P.」のメンバーの伊達京也だ。しかし美奈子は先ほど聞いた歓声としての悲鳴ではなく、お巡りさんこっちです的な悲鳴が上がる一歩手前なそれを飲み込み、代わりにジト目で相手を見返す。色のついたサングラス越しでは相手の感情は読み取れないけれど、見えている部分の唇は楽しそうに笑っていた。
「……京也さん、何してるんですか」
「何って、ナンパ?」
「アイドルが白昼堂々とナンパしないでください」
「俺と子猫ちゃんの仲だろ」
「どんな仲ですか」
「スキャンダルになるような親密な仲」
「違います。全然違います。というか、本当にここにいるのはまずいんじゃないですか」
「まあな。……だから、行くぞ」
 そう言うなり、京也は当然のように美奈子の足元に置かれた荷物を軽々と持ち上げてみせた。さすが男の人、と感心してから一拍置いて、はっと我に返る。京也さん! と呼びとめようとして、周囲の状況を思い出す。街のど真ん中で彼の正体がバレようものなら、阿鼻叫喚の地獄絵図になるのは目に見えている。美奈子は彼の隣に並ぶように駆け寄ると、小声で彼に声を掛けた。
「京也さん、荷物重いでしょ? 貸してください」
「平気だって。つうか、美奈子ちゃんがこの荷物の量に辟易してたんじゃねえの?」
「……いつから見てたんですか」
「ぱっと見りゃわかるよ。何せ、ただならぬ仲だからな」
「もう」
 茶目っけを含めて言う彼に、美奈子は呆れたような顔を向けた。けれどすぐに笑みを浮かべると、ちらっと彼へ視線を向ける。そうしてすぐに進行方向へと目を戻し、口を開いた。
「でも、ありがとうございます。助かりました」
「どういたしまして」
「今度、ご馳走しますね。センカドシングル発売記念も兼ねて」
「お、いいね。期待してるぜ」
「ふふ、任されました」
「ついでに、今から俺のランチを作ってくれたりしねえ?」
 最後にちゃっかりとしてきた京也の言葉に、美奈子は再び「もう」と言って見せたのだった。

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