琉夏がヤンデレ気味です。苦手な方は注意。
特にこれといった理由があるわけでもない。ただ、稀に漠然とした「イライラ」が琉夏の中で起こることがある。
こういう時は一人になるに限ると、琉夏はいつもは連れ立って歩く兄の傍には近寄らない。琥一もそれがわかっているから、必要以上に詮索もしてこないし、琉夏を放っておいてくれるのが有難い。暫く一人になって適当にぶらつけば治まるのが、毎回のことだからだ。
だから今日も琉夏は、琥一とは別行動を取っていた。学校に行く気にもならずに私服で街をうろついていたのだが、今回のイライラは妙に長引いていた。大体半日もすれば落ち着いてくるというのに、夕方に差し掛かった時間帯になっても琉夏の内側で消化不良な気持ちが自己主張している。
先ほど都合よく現れた見慣れた顔の連中を「ヒーローらしく」退治してきたのだが、それでもやっぱりイライラは治まらない。このまま家に帰るのを躊躇いつつも、だからといって遅くなり過ぎることもできないと考えていた矢先、
「ルカちゃん…?」
呼び止められた声に、思わず顔を顰めてしまう。
どうしてこのタイミングでと内心で苦く思うも、琉夏は顰め面の上からどうにか笑みを貼り付けて振り返った。途端、目が合った相手は驚いたような表情を浮かべて駆け寄ってくる。
「ルカちゃん、ケガ…!」
「へーきへーき」
「平気じゃないよっ」
「もう血は止まってるからさ」
へらへら、いつも通りに振舞えるように琉夏はわらう。けれど微妙に口の端が引きつっているのがわかって、長時間は持たないなと自覚する。さっきまでは自宅に帰ることを躊躇っていたけれど、今はそんな余裕もない。一分でも長く彼女といると、まずい。琉夏は本能的にそう察して、先に歩き出した。当然帰宅経路が同じ美奈子は後ろから追い駆けてくる。違和感もなく隣に並び、傷がついているであろう顔をじっと見上げてきた。
その目に手当てをしたそうな素振りがありありと感じたけれど、あえて気づかないふりをする。
けれどもちらりと横目で相手の表情を伺えば、困ったような、けれど少しだけ怒ったような感情が半々に混ざったような顔でこちらを見つめていた。美奈子は一度唇を引き結ぶと、ルカちゃん、と呼んでこちらの服の裾を掴んで言う。
「ケンカはだめだよ、もう。お姉さんは心配です」
いう美奈子の言葉は、いつもの常套句だ。こうして琉夏がケンカをした現場に居合わせれば必ずいわれてきて、その度に適当に受け流してきた言葉でもある。
けれど、今日の琉夏は受け流すことができず、しかも歩いていた足を止めるほどだ。
急に止まってしまった琉夏を不審に思うものの、美奈子は同じように足を止める。数歩分追い抜いてしまった彼女は、振り返って琉夏を呼ぶ。
「ルカちゃん? やっぱりどこか痛いの?」
「なあ」
問う彼女の言葉には答えず、琉夏は口を開く。
「なに?」
「俺さ、おまえの弟じゃないよ」
「え?」
「たった一個違いでさ、なんで年下扱いすんの?」
「ルカちゃん?」
「俺は美奈子をお姉ちゃんだなんて思ったこと、ない」
そういって、琉夏は美奈子の腕を掴んだ。すぐそこにある細い通路に連れ込むと、そのまま壁に押し付ける。いつもは冗談で詰めている距離に彼女の顔があり、その顔が不安で強張っている。
「俺は弟じゃない。男だ」
「ルカ、ちゃ」
「もっとちゃんと、わからせた方がいい?」
するり、と琉夏の手が美奈子の太ももを撫でた。制服のスカートを巻く仕上げ、素肌に直接触れたところでさすがの美奈子も抵抗を示した。ぐっと琉夏の胸を押して、いやいやと左右に首を振る。
「やだ、離して」
「離さない」
「ルカちゃん!」
ぴしゃり、美奈子が悲鳴のように名前を呼ぶ。けれどその声さえもひどく遠く感じて、琉夏は彼女の首筋に顔を埋めた。鼻先をこすり、唇を押してて少しだけ歯を立てる。
ああやっぱり美奈子はお姉ちゃんなんかじゃない。俺にとってはこんなにも「女」なのにどうして美奈子は俺を「男」としてみれくれないんだろう。
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先日の茶会で上がった年上バンビを襲う琉夏の話の途中でござる。
……実はもう何週間もこの状態だなんてまさかそんな。
この先の展開でうんうん頭を悩ませていたんですが、代わりに某アロエさん宅でワッフルワッフルされてたから私はワッフルしなくてもいいかなと思っているんだがどうか。
[4回]
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