何だかスランプなどという大層なものではなく、ちょっと書けない期間っぽいのでいつにも増してがったがたです。うおーん、センスが欲しい!と思いつつもカッとなった新名小話。
この間のついったでの新名祭りに参加できなかったんだもの…!
そして最近では最MOEが誰なのか行方不明である。
わかったことは自分で自覚している以上にコウちゃんが好きだということだ……あれ、コウちゃん最MOEフラグ?
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夕飯を食べて自室に戻った途端、ズボンのポケットに突っ込んでおいた携帯電話が着信を知らせた。しかもこの着信音に指定しているのは一人だけで、新名は慌てて携帯電話をポケットから引っ張り出した。するとディスプレイには予想通りに指定してある彼女の名前と電話番号が並んでいる。
新名はすぐに通話ボタンを押して、携帯電話を耳に押し当てた。もしもし、と応答すれば、何故か少しだけ上ずったような声が返ってくる。
『も、もしもし? えと、今平気?』
「うん、部屋だからへーき。どうした?」
『ええとほら、明日のこと』
「ああ、センター?」
『うん』
電話が掛かってきた時点でなんとなくわかっていた。明日は新名の一流大学のセンター受験日だ。一年早くはば学を卒業した彼女と同じ進路を目指した新名は、一応合格圏内に入っているとはいってもやっぱりそれなりに緊張していた。
だからこうして自分を気に掛けて電話をくれたことは、素直に嬉しい。
『新名くんなら大丈夫だと思うんだけど』
「またまたー。褒めても何もでねえよ?」
『褒めてるんじゃないもん、本当にそう思ってるから』
電話口でも、彼女が本当にそう思ってくれているのがわかる。きっと顔も至極真面目なそれなんだろうなあと想像すると、思わず笑いそうになってしまう。けれどここで笑えば相手を怒らせるのは明白なので、新名は口元を押さえることでふきだしそうになった笑いを堪えた。「あんがと」と携帯電話に向かってそういえば、どういたしましてという言葉のあとにくしゃみが続く。
「あんたこそ、今どこにいるの?」
てっきり彼女も自宅にいるのかと思ったが、よくよく電話の向こう側の音を聞くと外にいるらしいのに気がついた。通り過ぎる車のエンジン音に顔を顰めて、テーブルの上に置かれたデジタル時計を一瞥する。時刻は夜の8時を回った頃だ。しかし彼女はええと言い淀むだけで、はっきりとした場所を知らせない。瞬間、まさかと新名は顔を顰めてみせたあと、その考えを口に出して訊く。
「俺ん家の近くにとか、いたりする?」
『え』
驚いたような声が上がって、けれどそれだけで十分だった。彼女にはそこから動くなとだけ告げて電話を切ると、新名はクローゼットに引っ掛けてある上着の一つを羽織ると部屋を飛び出した。うっかり弟と衝突事故を起こしそうになるのをぎりぎりで交わし、玄関までまっすぐ走る。母親に適当な言葉を投げてからスニーカーに足を突っかけた。弟が冷やかしの言葉を投げてくるのが聞こえるが、無視。そのままエレベーターまで向かって、けれど中々来ない待ち時間に焦れて、結局階段を使って降りていく。ぜえはあと上がる呼吸が耳をついて、だらしねえぞ新名と不二山の声が聞こえた気がして苦笑を浮かべてしまう。そうして一階にまで辿り着けば、ちょうどマンションの入り口に立つ彼女の姿を見つけた。太めのマフラーを巻いているものの、その鼻の頭はうっすらと赤くなっている。
「…何してんだよ」
「ご、ごめん」
「いや、いいんだけどさ。黙ってこんなところにいたら風邪引くっしょ」
「…うん、ごめん」
「だから謝らなくていいって」
そういって、新名は彼女の傍にまで歩みより、赤くなった鼻先をいじわるく摘んでやる。すると予想通りにもう! とお叱りが飛んでくるものだから、これ以上の反撃ができないように思い切り抱きしめてやる。
「激励にきてくれたんだろ?」
「…そう、です」
「あんたのそういうとこ、大好き」
そういって、新名は彼女のほっぺたにちゅ、とキスをすれば、ひんやりと冷たい頬に思わず顔を顰めた。
「俺の心配もいいけど、自分のことも考えろって」
「こ、これ渡したら帰ろうと思ってたんだもん」
そういって鞄の中に手を差し込むと、赤いお守りを取り出した。
「わたしが受験のときにもここのお守りもらったから、新名くんにもと思って」
「あんたのご利益つきなら、間違いねえよ」
「うん。それだったら、嬉しい」
「あ、じゃあさ、もう一個ご利益にあやかってもいい?」
「え? なに?」
きょとんと目を丸くしてこちらを見返す彼女に笑い返せば、新名は耳につけているピアスを取って相手の手の中へと渡す。ぱちぱちと瞬きをする彼女を見て、新名は続ける。
「これ、俺のお気に入りなんだ。だからあんたが持ってて」
「わたし?」
「うん。で、大学受かったら、お祝いに新しいピアスプレゼントしてよ」
「…いいよ」
「ん」
言う新名の言葉に、笑って頷く。それを確認した新名も笑い返すと、改めて彼女の頬に手を伸ばした。やっぱり冷たいままの頬を包むように両手で覆うと、顔を近づけるように身を屈めて囁くように告げた。
「……最後のご利益、ちょーだい?」
[6回]
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