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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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年上バンビ小話(設楽)

今日の夜は会社の飲み会だぜやふう!という現実逃避でござる(……)
よく考えなくても設楽先輩琉夏琥一って、中学時代が一番大荒れだったんですよね!

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「え?」

 暇だと唐突にやってきた幼馴染を部屋の中に招き入れ、何気なく口にした進路の話題をすれば、向かい合う形で座っている聖司が自分と同じ高校を受験すると聞いて思わず目を丸くした。が、それを行った当の本人は気にするでもなく、彼女の部屋に置きっぱなしの雑誌を興味なさげにページをめくっている。

「セイちゃん、ホントにはば学を受けるの?」
「だからそう言ってるだろ」
「でも、ピアノは」

 と、言いかけた言葉は最後まで言い切ることができぬまま、口をつぐむ。それというのも、相手が鋭い眼差しで睨みつけてきたからだ。
 美奈子はぐっと喉元で唸り、俯く。最近になってようやく聖司が文句を言わないレベルまで淹れられるようになった紅茶が注がれたカップが二つ、テーブルの上には並んでいる。聖司は並んだ紅茶の片方のカップを持って、口をつける。一口飲んで再びソーサーの上にカップを戻せば、かちゃりと食器の音がちいさく上がる。そうして再び雑誌に視線を落とすも、正直ただ捲っているだけで見てはいないのだろう。
 美奈子は少しだけ腰を浮かせて聖司との距離を詰めて、再び口を開いた。

「セイちゃん」
「なんだ」
「わたし、わたしね」

 言いかけて、今度は自分から言葉を濁した。目じりを下げて眉根を寄せて、ええとと呟いた。すると聖司が雑誌からこちらに視線を向けてきたので、思わず背筋を正してしまう。膝の上に置いていた手をテーブルの上に乗せ、ぎゅっと握ると意を決したように続ける。

「セイちゃんのピアノ、好きだよ」
「だから?」
「だ、だから、やめないでほしい…な」
「やるもやらないも俺の勝手だろ」
「そうだけど」
「帰る」
「セイちゃん」

 ふっと聖司が視線を逸らしたかと思うと、手にしていた雑誌を放り投げて立ち上げる。思わず追いかけるように立ち上がれるけれど、相手の腕を掴んで引き止めるのは躊躇われた。
 聖司は美奈子の部屋のドアノブに触れたところで一度動きを止め、けれど振り返ることはせずにぽつりと言った。

「俺一人がピアノをやめたって、何も変わらない」

 それだけを言うと、今度こそ彼はドアを押し開いて部屋を出ていった。淡々と出ていくその背中は、すぐに駆け寄って追いつくことができるはずなのに、できない。それは聖司から「踏み込むな」のサインが出ているからだ。
 美奈子は一人部屋に取り残される形になって、振り返る。部屋の真ん中に置かれたテーブルの上には二人分の紅茶が置いてあって、それが何だかひどく悲しくなった。すると、彼女は唐突に部屋の窓に走りより、窓を思い切り開いた。まだ近くになる聖司の後ろがを見つけて息を吸い込むと、セイちゃん! と大きな声で相手を呼ぶ。すると不機嫌な顔が見上げてきたがそれには構わず、

「わたし、本当にセイちゃんのピアノが好きだから!」

 それだけを言い切ってやると、相手は目を丸くしたあとにすぐに半眼で睨みつけてきた。が、すぐに諦めたように肩を竦めると「ばーか」という返事が返された。ばかじゃないもんと思わず言い返したくなったが、何とか踏みとどまって言わずに終わる。そうして歩くのを再開した聖司の後ろ姿を見送りながら、本当だもん、と自分にしか聞こえない声音で独りごちた。

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